とうの昔からご存知のくせに
シュバッと首を上げてみたところッ!
人混みの中に、一際輝かしいオーラを放った、とにかく目立つお二人組がいらっしゃいましたのッ!
どちらも身長は決して高くはないのですが――いえ、むしろだいぶ小柄で下手すればお子様とも見紛ってしまうほどなのですが!――私の目には、図らずも自然とギラギラとした光を放っているかのように、一直線に飛び込んできたのでございますッ!
言わずもがな。
スピカさんとミントさんのお二人でしたのっ。
どうやらタリアスター邸に着くまでに合流できたみたいですわねっ。やっぱり、私のことを探しに出てきてくださっていたようでっ。
スタタとお二人に駆け寄ってさしあげます。
「ふわぁぁぁッ! ずっと心細かったんでしてよー!? 昨日は私を置いてどこに消えてしまったんですのっ!?」
「んもう、それはこっちのセリフだよ……! 本当に心配したんだから。危ないヤツらに攫われてたらどうしようかって」
「だ〜から言ったでしょ。呑気でズボラなだけだからそのうち勝手に帰ってくるわよって。まったく。方向音痴も度が過ぎるとホントただの迷惑よね。なんでアタシまでこんな朝っぱらから」
手始めに私がスピカさんに飛びついてさしあげますと、彼女は安堵の溜め息を吐きながらも受け止めてくださいました。
まるで子犬をあやすかのようにヨシヨシと撫でてくださいます。
私に尻尾が生えていたら確実に振ってましたの。
抱きしめた先に見えたミントさんはまだ本調子ではないのか、あくびをしながらもやれやれと首を振っていらっしゃいました。
それでもまったく関心を持っていなかったわけでもなかったようで、彼女もまた、深く被った灰色ローブの向こう側で、私たちのことを見て静かに微笑んでくださったのでございます。
ふふふ。なんだかんだでミントさんは姐御さんですわよね。キツいのはその口調だけなのです。
「はぁぁ……っ。やっぱりお二人のおそばが一番に落ち着けますのーっ……気を張り続けるの、疲れちゃいましたものー……っ」
一晩離れ離れになっただけでコレなのです。
私、気付かないうちに本当にお二人に依存しきっていたようですの。
でも、それでもイイなとも思えたのでございます。
全幅の信頼を置ける方がいてくださるという安心感たるや……ついつい心がほっこりしてしまうのも仕方がないと思いますの!
とにもかくにもギューっと抱きしめてさしあげます。
ああ、スピカさんのお身体の細っこいこと細っこいこと。無駄な脂肪のシの字もございません。
けれどもこのスレンダーさこそがスピカさんの魅力ポイントですもんね……っ。
私の過剰分を譲渡してさしあげることもできませんし。
「リリア……ちゃんっ……地味に、苦しい。あんまり……息、できない……っ」
身長差から必然的に私の胸に顔を埋める形になっておりますの。
「アンタ無駄にデカいんだから気を付けなさいよ。見かけ倒しのザコ聖女。でくのぼう。無用の長物。夏炉冬扇」
「さすがに酷くありませんこと!?」
冗談とは分かっておりますけれどもっ。
ともかくパッと離してさしあげました。
途端にスーハースーハーと深呼吸を始めたお姿が可愛らしかったですの。
私も一日ぶりにスピカさん成分を接種できましたのでだいぶ平静さを取り戻せました。
地味に乱れてしまっていた衣服を整えつつ、今度は落ち着いた目で辺りを確認してみます。
「あっ……シロンさんもいらしてたんですのね」
私たちからやや離れたところに、こちらを温かく見つめる殿方のお姿がございましたの。
私と視線が合ってから、軽く会釈をしてくださいます。
「やぁどうも。さすがに女子二人だけで繁華街の外れを歩かせるわけにはいかないからさ。僕は付き添いということで」
「シロンさんにもご心配をお掛けいたしましたのっ。ありがとうございますのっ」
「こちらこそ、ご無事で何よりで」
おそらく一歩引くことで水入らずの空気を作ってくださっていたのでございましょう。
さすがデキる殿方ですの。
変わらぬ微笑みに確かな余裕が感じられます。
そのままシロンさんがお続けなさいます。
「それはそうと、また珍しい組み合わせですね。まさかイザベラと一緒だったなんて」
「あっ」
別に忘れていたわけではございません。
感動の再会に少しばかり気を取られていただけで。
振り向いた先にいらした彼女は、既に外面のよさそうな澄まし顔に戻っていらっしゃいました。
先ほどまでのような嫌悪一辺倒な雰囲気は少しも漂わせてはおりません。
……私も意地を張らずにオトナな対応をせねばなりませんわよね。
スピカさんやミントさんと無事に合流できたのも、ここまで連れてきてくださったイザベラさんのおかげなのですから。
名乗っていただくより先に、私のほうからお二人にご紹介するのが、感謝の意を伝える手っ取り早い方法ですわよね。
「こっほん。こちら、この街の優秀な修道女であらせられるイザベラ・ローズウッドさんですの。土地勘に果てしなく疎い私を、すこぶる善意でタリアスター邸までご案内してくださっておりまして」
「………………どうも。察するに、そちらの小柄な女性が今代の勇者様で、お隣のフードを被った方が……?」
「お隣の方は私たちの従者ですのっ。お二人とも私の頼れる旅仲間であり、よき友人みたいな存在ですゆえにっ。とにかくとっても素晴らしい方々なんですのっ!」
ミントさんのことはあまり触れないでおきましょうか。下手に深掘りされて魔族とバレると厄介だと思いますゆえに。
まして頭のお固いイザベラさんのことです。
敬虔な女神教徒となればなおのことですの。
きっとまた要らぬ気を揉んで、勝手に敵意を剥き出しなさるに決まっておりますもの!
視界から外すように私の身体で隠してさしあげます。
その甲斐あってか、あまり関係なかったのかは定かではありませんけれども。
「やぁイザベラ。見るからにご機嫌斜めのご様子だけど」
「…………その理由など、とうの昔からご存知のくせに」
「まぁね」
ふ、ふぅむ?
何やらシロンさんがイザベラさんに親しげに話しかけておりましたの。
単に家を知っているだけの間柄でもなさそうな気もいたします。
乙女の勘がここぞとばかりにビビビと反応してしまいましたの。




