お可愛らしい真っ白パンツが丸見えでしてよ
ああ、何と言い表せばよろしいのでしょうか。
今まさに靴裏が地面に囚われて上手く足を上げられないと言いますか、どちらかというとその手前の草原そのものが足に纏わり付いてきて離れてくださらない感じと言いますか……。
それだけではなく、足首の辺りにまで気色の悪いじっとりぬっとりとした汁気を感じてしまったのでございます。
更にお一つ残念なことに、足元を確認しようにも、この豊満なお胸に合わせて食糧がパンパンに詰め込まれた袋があってはよく見えませんの。
自慢のナイスバディさが仇になっちゃってますわよね。
ただ単に辺りがぬかるんでいて歩きづらいだけなら、別に構わないんですけれども……っ。
私の中の第六感が騒いでいるのです。
何だか単純な理由ではないような気がしてなりません。
「くぅぅ……まったく何なんですのよコレぇ……」
「あのさリリアちゃん。まさかとは思うんだけど、適当なイタズラ心かなんかで私の足引っ張ってたりとかしないよね?」
「んなっ。おバカ仰いなさいまし。見ての通り私はこの袋を抱き抱えてるせいで両手が塞がっちゃってますのっ」
「うーん……だよねぇ。そりゃそうだよねぇ」
ええ。そりゃそうですの。
手を自由に動かせない状況でどうやって足を引っ張れと仰るのです。
それとも暗喩的なヤツでしたの?
おててが使えなければ足を使えばよろしいじゃない! 的なトンチ話をご所望でして?
っていうか私はそんな安直な手段は選びませんの。
「そもそものお話っ。もし本当に足を絡めるつもりでしたら、貴女の想像の五倍は艶かしく肉々しくそして超絶扇情的に振る舞っちゃいますしっ。
けれども今は姿勢良く立っておりますゆえにっ、足なんて絡められる余裕もございませんしっ!」
「あ、いや、私も本当にそうとは思ってないんだけどさ。でもってことはだよ。私の足首を掴んでるコレって……!?」
「ふ、ふぅむッ!?」
つまりは何者かからの攻撃ってコトですの!?
私とスピカさんと、お互いほぼ同時に違和感に気が付いて、咄嗟に手元の袋を宙にほっぽり投げた――まさにその瞬間でございましたッ!
やたらと細長いモノが私の両足を縛るかのようにシュルシュルと一気に巻き付いてきて、間髪入れずに私の身体ごと持ち上げてしまったのでございますぅッ!?
うっくっ。注意が遅かったですの。
マジめのガチめに一瞬で宙ぶらりんになってしまいましたの。
天地がひっくり返って見えております。
早くも頭に血が上りつつあるなか、なんとか気合いで周りを見渡してさしあげましたところ。
「……あちゃー。油断したね。不意つかれちゃった」
私のすぐ横に、これまた私と全く同じ状況の宙吊りにされてしまったスピカさんがいらっしゃいました。
彼女のお身体をまじまじと見つめて、そしてようやく気が付いてしまいます。
「この緑色のニュルニュル……まさか植物のツルか何かですの!?」
「そうみたいだね」
目を凝らして自らに絡みつく新緑色のソレを見てみれば、ところどころに小さな芽のようなモノも付いております。
やけに丈夫でしなやかな植物のツルなのです。
でも、ただの植物にしては妙な点もございますの。
今まさに脈動するかのように動いているのです……!
それにピンチですの。すぐにでも私の身体を簀巻きにでもしたいのか、ドンドンと絡みつく量が増えていっておりますッ!
既にふとももの辺りまでヌルヌルのツルが覆ってしまっておりますの。
私が簀巻き娘になってしまうまで、既に秒単位のカウントダウンが始まっていることでしょう。
え、あ、いや、でもコレホントに植物なんですのよね!?
植物にしては動きが機敏すぎやしませんこと!?
「……獲物を直接捕まえようと、とにかくツルが発達している植物……うーん、と……」
「ちょ、ちょっとスピカさん!? なんでそんなに落ち着いていられるんですの!?」
何で植物がこんなに活発に動いてますのぉぉッ!?
明らかに意思を持った生物の動きですわよねぇ!?
ジタバタと身を捩って抵抗してみましたがビクともいたしません。
既に膝下から太ももにかけてをギッチギチに締め付けられてしまっております。
「あ、分かったコレ多分ヒュージプラントだ!」
「ヒュージプラント!?」
「大森林によくいるって話の植物型魔物! 隠れたところから獲物をツルで絡め取って、そのうちヌルヌルの酸で溶かして消化吸収しちゃうとか何とか!」
「はぁぁぁ!? 何でそんな危ない魔物がッ! こんな街道付近の何の変哲もない草原にッ!?」
そんな危険な魔物ならとっくの昔に駆除されていてもおかしくないと思いますけれども!
私、ピクニック感覚で野山の栄養になりたくありませんでしてよ!?
「そうだねぇ……行商人の荷馬車とか鳥の足とかに種がくっ付いてて、偶然ここらに落ちて芽が出てすくすく成長しちゃって、とか?
自分で歩けるような種類じゃなかったはずから、多分ココにいるのは偶然だと思うんだけど」
「とにかくこのまんまだと完全に身動き取れなくなっちゃいますの! 器用に服だけを溶かすだとか、そういうオイシイ感じの酸ではないのでございましょう!?」
万が一に服だけ溶かすモノだとしても、こんな街道の中途半端な場所で素っ裸にされても無駄に風邪を引いてしまうのがオチですのッ!
不幸中の幸いと申してもよろしいのか分かりませんが、私が今着込んでいる修道服は見た目よりもかなり丈夫に仕立てられておりますゆえ、ちょっとやそっとの外傷ではほつれなくなっておりますけれども。
長時間酸を浴びてしまってはさすがに魔法の力を駆使しても無傷に戻せる保証はできませんの。
そ、そんなことより宙吊り体勢のほうがよっぽど深刻なのでございます。
ですが頭に血が昇って何も考えられなくなってきてしまいましたの。
ふわふわぁ〜とフラフラァ〜が交互に襲いかかってきているせいで、打開策を見つけようにも思考がまとまりません。
ああ……今こうしている間にも、目の前のスピカさんの簀巻き具合が一段と増していって――あ、今、凄いモノが見えちゃいましたわね。
「……くっ……うふふふふぅ……物の見事にスカートが翻ってしまっているせいでしょうか。お可愛らしい真っ白パンツが丸見えでしてよ、麗しのスピカさんや……」
「んもうッ! 冗談言える余裕あるなら大丈夫だよ! っていうかリリアちゃんこそ何なのそれ……パンツどころかただの紐! 布の切れ端みたいなのしか履いてないじゃんかぁ……!」
「こ、コレも大人のファッションの一つなのでございますぅ。ノーパンでないだけいくらか防御力が高めになっておりますの!
……あの。ホントに早くしないと、腰の短剣が取り出せなくなってしまいますわよ?」
「わ、分かってるよぉッ!!!」
ふっふっふっ。落ち着き払っている彼女を逆に動揺させて、やる気を出させてさしあげる作戦、何とか成功いたしましたの……っ。
ああっ。ですけれどももうダメそうですの……ここ最近特にお肉を食べていないせいか、特に貧血気味でしてぇ……今すんごくクラっときてしまいましたのぉ……っ!
早く、早くお助けくださいましぃ……っ。




