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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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乾いた綿に水を垂らしたときのように


 クスクスと微笑む私を見て、アナスタシア様はほんのりと困り顔を浮かべていらっしゃいましたの。


 何が何だか分からないでしょうね。

 自分でもそう思いますもの。


 まだ彼女には具体的な理由をお伝えしておりませんでしたし。おそらく私の血のヒミツについてもご存知ありませんでしょう。


 女神様に会わせてあっと驚かせちゃいますのっ。


 そんな私の目論見など、きっとつゆも知らず。



「とにもかくにも、今日はもう夜の帳が下りたのです。明日は朝早くに弟子が顔を見せますから、できるだけ早く寝ておいたほうが身のためですよ」


 先代様はやんちゃな子供を叱るようなお顔で、いわゆるおひらきの旨をお申し出なさったのです。



「むっ。分かりましたの。ありがたくそうさせていただきますの」


 最後にもう一度ぺこりと頭を下げますと、先代様もまたお祈りを捧げるポーズを返してくださいました。


 そのままロッキングチェアからゆっくりと立ち上がりながら、窓の外のお空を見上げなさいます。


 そしてもう一度目を伏せる形で、お外にも礼をお示しなさっていらっしゃいました。


 今日の出会いを恵んでくださった女神様に感謝を、と。そういう思いをお空に込めていらっしゃるのでございましょう。


 窓の外には星々が瞬いて応えておりましたの。

 まるで応えてくださっているかのようです。


 ……ふっ。

 我ながら詩的な表現をしてしまいましたわね。

 シャレオツ聖女で誠に申し訳ないですの。



「ふわぁぁ……ぁふ。安心したらドッと疲れを感じ始めてきたような気がいたしま――ふぅむ!?」


 大きなあくびを噛み殺すこともなく、ぐってーんと簡易ベッドに背中を預けようとした、まさにちょうどそのときでございましたッ。


 視界の隅っこに映った指先が、ピカピカと主張するように発光し始めていたのでございますっ。



「どうかなさいましたか?」


「あ、いえ、お仲間からのメッセージを、たった今ビビビッと受信いたしましたゆえ」


 もちろん指自体が光っているのではございません。右手の薬指に嵌めていた〝恋人たちのペアリング〟が反応を示しているのでございます。


 片割れを持つスピカさんはコレを動かせるだけの魔力をお持ちではありませんから、おそらくは既に捜索を諦めてご帰宅なさっていることでしょう。


 そうなりますと、戻られた先のタリアスター邸でミントさんと合流なさって、信号を送れるようになったのだと推察いたします。



「その指輪の光がメッセージだと?」


「ええ。いわゆる愛してるの合言葉(サイン)ですの」


「ッ! 何度も言っていますが、聖女に色恋沙汰の類いはご法――」


「じょ、じょーだんでしてよっ。私のお仲間さんが心配をしてくださっている証拠ですのっ。ちょーっと待っていてくださいましっ。私も無事をお伝えしないといけませんゆえにっ」


 眉間にシワを寄せかけた先代様にスペシャルな困り笑顔を向けて宥めてさしあげつつ、私も急いで座り直して、指先の指輪に集中し直します。


 もう眠いですし疲れてもおりますから、うまく魔力を操作できるかどうか分かりませんけれども。


 とりあえずの今できるありったけの気合いを込めて、ぐぬぬぬぬぅ……ッ! と。


 はいはい私は無事でしてよ、ココにいましてよっ!


 と、そんな思いを魔力に込めて、指輪に何を送ってみるのでございます……ッ!


 さぁどうか、どうか届いてくださいましっ。



「何も起こりませんが」


「そういうモノなんですのッ! ふぬぬぬッ!」


 くぅぅ。けれども困りましたわねぇ。

 私、この指輪の欠点に気が付いてしまいました。


 お手元の片割れだけでは発光信号をうまく送れているのかどうか、判断ができないのでございます……!


 明日、せめて合流ができたら指輪の光らせ方の擦り合わせをしておかねばなりませんわね。



 ともかく、しばらく指輪を光らせることに集中しておりましたの。


 すると、でしたの。



「……なるほど。(はた)から見ていて思いましたが、リリアーナさんの魔力の込め方には少しばかり無駄が多いようですね」


 私の姿をじーっと眺めていらしたアナスタシア様が、ぽつりと独り言をお漏らしなさったのでございます。


 そのお声にプツンと集中が切れてしまいます。



「ふぅむ……ッ!? 見ただけで分かるんですの……?」


「ええ。単に魔力を込めるだけなら息を止める必要も歯を食いしばる必要もありませんからね」


「むぅ。やっぱりそうなんですのね」


 おそらく今の私は八本足の茹でクラーケンのように顔を真っ赤にしていることでしょう。


 頭に血が昇っているのはもちろん、終いのほうは呼吸をするのも忘れてしまうレベルでしたから、気を抜くとすぐにクラッときてしまうのでございます。


 得意な治癒魔法であればそこまで無駄なく効率的に、緑色の光に変換できるのですけれども……。


 完全未加工の、つまるところの純粋な魔力というモノは目には見えませんゆえ、どうにも流れが把握できずに力加減が分からないのでございます。


 ほら、アレですの。


 〝魔力の流れは血液に例えるべし〟などという初級の教則文句を耳にしたことがあるかと思いますけれども、別に私は能動的に血液を循環させているつもりはありません。


 ゆえに頭の中のイメージが、なんとなくぼやぁっと溶けてしまうのでございます……!



「あの、もしやコツを教えてくださるんでして?」


「だとしてもそれも明日にいたしましょう。今日はもう夜になってしまいましたし、私も歳をとって、あまり遅くまでは起きていられなくなりましたからね」


「……ふぅむ。分かりましたの」


 乾いた綿に水を垂らしたときのように、できる限り何でも吸収してさしあげる所存ですけれども、私も先代様と同じように今日は疲れてしまいましたの。


 私も善意で泊めていただいている以上、これ以上のわがままを言うつもりはありません。


 とりあえずこくりと頷いて同意を示します。


 無理矢理に魔力操作をしたせいか、急激に瞼が重くなってきましたの……。



「ああそうです。歳の近い若者同士で切磋琢磨競い合うというのも、互いの成長の鍵になり得るもしれませんね」


「ふぅむ? 私だけの課題ではなさそうな言い方をなさいますけれども」


「ええ。こちらにはこちらの悩みのタネがあるのですよ。どのみち明日になれば分かりますよ」


「つまりはどういうことですの……?」


 まぁ、とにもかくにもおっけいたしますの。

 よく分かりませんが分かりましたの。


 とりあえず今は考えることを放棄して、その明日とやらを迎え入れる準備をいたしましょう。


 ふわぁぁ……ぁふ……。


 さすがに体力と気力に限界が来てしまいました。

 そのままくてんとベッドに背中を預けます。


 シロンさん家のソファに比べるとゴワゴワでペラペラな薄クッション性ですけれども……欲を言ったらバチが当たりますわよね……。


 でも、思い出してみなさいまし。


 大森林の地面のほうがよっぽど固くて冷たくてシンドかったはずですの。


 それと比べたら、やはりこうしてキチンと屋根があって壁に囲まれているだけでも、全然に安心感がちがいまし……て……よ……ふわぁぁ……ぁむ……。



 そんな脇道に逸れることもままならないほど。


 私の意識は、段々と遠のいていきましたの……。





――――――

――――


――



 

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