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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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恋とは心の栄養補給に他なりません


 道の外れの茂みに入りまして、草むらの中をしゃがみ込んで散策するほど約半刻。



「……えっと、この赤と緑の縞々模様は……そうですの、確か厄介な毒草だったと思いますの。食べたら猛烈な吐き気と下痢に襲われてしまいますわね。

一方でこちらのやたらめったらヌメヌメしたつる草は、見た目と感触に反して結構イケるクチなんでしてよ。さっと湯通しするだけで美味しさアップですの」


「へぇ。さすがリリアちゃん、博識だね」


 褒められて悪い気はいたしません。

 ふっふんとドヤドヤしてさしあげます。


 修道院にいた頃にたくさん動植物図鑑を眺めておりましたし、実際に草原に採集に出かけてみたことも多々ございます。


 こういった食用の草花はタダで手に入るかつ、殺生の必要ない食糧調達ゆえに、修道女の立場と相性がよろしいんですのよね。


 実際、お布施が足りないときなんかに私も何度もお世話になりましたの。


 基本的に質素なモノしか食べられませんのでずーっと空腹でいるんですもの。


 精神的余裕のためにも、パパッとつまみ食いできる野草は覚えておいて損はないのです。


 ……もちろん少々はしたないですけれども。

 バレなきゃおっけーなのでございます。



「それに、薬草と治癒魔法は切っても切れない関係にありますからね。病は気からとはよく言ったものでして。

ただの食生活で治せる程度のモノであれば、わざわざ魔法を扱うまででもないのですっ」


 魔法は確かに便利なモノですが、誰しもが自由に扱えるモノではありません。


 簡単に治せるモノに魔法を使ってしまっては、いざというときに何も出来なくなってしまう恐れもございましょう。


 それにほら、民が皆便利な魔法(奇跡)に縋りついてしまっては、いずれは技術の発展や精神の成長自体が止まってしまいます。


 私も大きな声では言えませんが、聖女にも女神様にも頼らないで自信をもって生きていける世の中になっていくべきだと個人的に思いますの。


 自立した社会とは、あらゆる分野において自給自足が成立している社会のことを指すのです。


 祈るなその手で掴み取れってことですわね。


 こうした野草採集だって、ある意味では私たち勇者パーティが自立して旅を続けていくための貴重な第一歩とも言えるかもしれません。


 さすがに過言かとは思いますけれども。



「それじゃあ、今晩のご飯と明日の朝ご飯分くらいなら、これくらいの量があればいっかな?」


「ええ。火を通したら多少は(かさ)が減ってしまいましょうが、お腹を満たす分には充分な量だと思いましてよ」


 特に太めの茎の部分なんかは食べ応えもありますから、味も歯応えのほうも両方楽しめそうですの。


 ちょうどパンを入れていた袋一杯に蔓やら茎やら葉っぱやらを詰め込むことができました。


 先ほどのヌメヌメ草のせいで中身が大変なことになっておりますが、洗えばまた使えるはずです。


 浄化魔法で何とかなると嬉しいですが、こちらは明確な汚れというわけではありませんからね。


 後でダメ元でも試してみることにいたしましょう。


 

「……でも、結局お肉は獲れませんでしたわね。非常に残念でなりません」


「あはは。そもそも狩りの準備はしてなかったからね。本当にお肉食べたいなら罠でも仕掛けておかないと」


「はぁぁん……溢れんばかりの肉汁と脂が恋しいですの……ヘルシーなのは良いことですが、このままでは自慢のお胸が小さくなってしまいますわよ……」


「リリアちゃんの場合はっ。ちょっぴり凹むくらいがちょうどいいんじゃないかなぁ!」


 おぉっと? むむむ。仰いますわねぇ。


 あらあらスピカさんったらもしかして。

 羨ましいんですの? 妬ましいんですの?


 確かに貴女のは断崖絶壁や調理用まな板とイイ勝負を繰り広げられそうですものねぇっ。


 私に嫉妬してしまう気持ちも分からないでもありません。


 もちろん私は嫉妬されるだけの立派なモノを持っている自覚と自信がございますの。


 多少の口撃はスルーして差し上げませんと、スピカさんがお可哀想ですわよね。


 ええ、ええ。そして同じくお可愛らしいこと。


 私は器もお胸もおっきな聖女様なのですから、寛大なる慈悲の心で許してさしあげましてよ。



「…………いいもん。これからおっきくなるはずなんだから。ママはおっきかったし」


 ほんの少しだけ唇を尖らせながら、お立ち上がりになりました。小さな背中をより小さくさせて、設置したテントのほうに歩み始めなさいます。



「恋をしたら大きくなるとも聞いたことがございますし。私たちはまだ育ち盛りなのですしっ。

気長に楽しみにいたしませんこと? きっと今はまだそのときではないというだけですの」


「だといいけど。……でも、恋、かぁ。実はよく分かってないんだよね。ほら、小さい頃から修行漬けの毎日だったからかな。してる暇がなかったというか、そもそも考えたこともなかったというか」


「そっ、それは残念でなりませんのっ。お胸の大きさよりもずっと大事なコトですのっ! もしよろしければこの私めが三日三晩に渡って事細かにご教示してさしあげましょうか!?」


「あっはは……ありがと。でもまだ遠慮しておくよ。この旅にそんな余裕なさそうだしさ。まずは与えられた使命を果たさなきゃ」


 彼女は朗らかに苦笑(・・)なさいました。


 ふぅむ。お真面目さんですこと。

 ずっと張り詰めていては疲れてしまいましてよ?


 恋とは心の栄養補給に他なりません。

 そしてトキメキこそが最高級の糧なんですの!


 私も定期的に摂取しなければおかしくなってしまいますもの。


 であれば、そう、ですわねぇ。


 結局、アルバンヌの村では一欠片も得られなかったことですし。


 次の目的地であるトレディアの街では、素敵な色恋に巡り会えると嬉しいですわよね。


 最近持て余しつつあるこの身体を少しは癒し引き締め直せればと思っておりますのっ。


 むふ、むふふ、むふふふふふ……っ!


 沢山の食草が詰まった袋を抱えながら、ついついほくそ笑んでしまいます。



 ……うん? それにしてもさっきから何なんですの?

 この、足元の違和感は……?


 ヌメヌメ草の汁っ気を感じてしまうんですけれども……。

 

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