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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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わ、私は清く正しい生娘ですけれどもっ

 

 困ったことに、右を向いても左を向いても振り返って辺りを眺めてみたとしても、全て初めての道に思えてなりませんでした。


 それもそのはず、私ここまでほとんど前しか見ずに歩いてきたんですもの……っ!


 しかも途中で右に左にと何度か曲がった記憶がありますゆえ、単純に踵を返すだけでは元の場所まで戻れない気もしております。


 お空もだいぶ暗くなってまいりましたし、このままでは私、神聖都市セイクリット内で初の野宿をするしかありません……!


 何より修道服の内ポケットには小銭が数枚入っているだけなのでございます。


 スピカさんからいただいた大切なお小遣いですけれども、もうかなり使っちゃいましたの。


 これではお宿に泊まることはおろか、飲み物の一つだって買えやしないのでございます。


 ……ふぅむぅ。


 たくさん歩きましたからまーた小腹が空いてきてしまいましたし、先ほどのおやつだけでは到底足りるわけもありませんしぃ……。


 ぶっちゃけひもじい(・・・・)ですの……!



「せめてセレブ街の正式名称でも聞いておけば、帰れるチャンスがあったかもしれませんのに」


 ボソリと独り言を零すだけの私ですの。


 地図も方角も土地勘もさっぱりな私ですゆえ、単に道順を教えていただく程度ではダメなのです。


 超絶親切な方にお屋敷の近くまでご同行をお願いできれば、ワンチャン戻れるかもしれませんけれども。


 私の人懐っこさとコミュ力を駆使しても、希望的観測レベルになってしまいますわねぇ。



「……いえ、それも机上の空欄でしたの」


 そもそも誰一人として歩いていないのです!


 まったく何なんですのっ!?

 この人通りのなさは!?


 さては嵐の前の何とやら、なんでして!?


 王都の外れのスラム街のほうがまだ賑やかだと思ってしまうくらいなのです。



「ふぅむぅ……明らかに大通りとは真逆の場所に迷い込んでしまいましたの……。閑静な住宅街というよりよ、そもそも人の気配がありませんもの……」


 本当に完全に私だけなんですの。

 殺風景な裏通りみたいな場所なのです。


 目に映る建物のほぼ全てが雨戸を閉じているか、もしくは正面のシャッターを下ろしているのです。


 ただし、幸いにも人払い魔法のようなあの気持ち悪さは感じませんゆえ、罠に引っかかったとか誘い込まれたとか、そういう作為的なものではないとは思われます。


 元から人の往来の少ない場所なのでこざいましょう。


 それでも、まるで私だけが世界に取り残されてしまったかのように錯覚してしまいます。


 静けさに包まれる街並みが妙に怖く冷たく思えてしまうのは、この独りぼっちの心細さから来る妄想のせいか、はたまた夜の帳による悪戯か……。


 いやいや、まさかまさか、そんな。



「この神聖都市の中で魔物に襲われるなんて事件が起こるわけもありませんし、治安の塊みたいな神聖都市ですし、たとえ物陰から現れた暴漢に襲われたとしても、勝手に女神様のご加護が作用してしまいますし……ねぇ? ですわよねぇっ!?」


 もちろん反応が返ってくることもありません。


 さすがに危ないことはないと思いますけれども。

 安心して眠れないのも間違いないですの。


 ふぅむぅ……。

 やはり今日は夜通し歩き回るしかないのでしょうか……。



 と、そんな切ないだけの近未来が見え始めておりました――そんな夕暮れ時のことでございました。


 とある一軒の建物が私の瞳に映り込んだのです。



「……ふぅむ? こんな寂れた場所でも、やっぱり教会はあるんですのね」


 さすがは神聖都市セイクリットですの。


 街の喧騒から自ら離れようとしたかのように、道の外れにポツンと一軒だけ、女神教の教会が建てられておりましたの。

 

 幸いにも中には明かりが灯っております。

 だから気が付けたのかもしれませんわね。


 それなりに手入れはされているようですが、壁の塗り具合や前時代的な装飾から察するに。


 わりと昔から建てられている教会みたいですの。


 むしろ街路樹の隙間から女神教の紋章が見えなければ、教会とは思えなかったかもしれませんけれども。


 でも、古い教会となりますと厄介ですの……!


 こちらにお勤めの修道長様が心の広い方だと切に願うばかりなのでございます。



「ふぅむ。わりと、イチかバチかですわよねぇ」


 残念ながら、こういう大きめな街の教会事情にはホントに色々とあるんですのよね。


 私の願いも虚しく、現実はきっと気難しい性格の神父様が経営しているに違いありません。


 少々小難しいお話にはなりますが、どうか頑張ってご理解くださいまし。


 ただいまから自問自答タイムが始まります。



 基本、女神教の信徒に優劣はありませんけれども。


 司祭や神父頭や修道院長など、役職というモノは確かに存在しておりますの。


 更に細かく言えば、誰々派閥に属しているだとか、元はどこの教会出身だとか、そういう女神教の教えとは関係のないステータスにこだわっている方々もわりと沢山いたりするのです。


 そういう観点から考えますと。


 いくらここが女神教の総本山だとしても、こんな薄暗くて辺鄙な場所に建てられたオンボロ教会には、そこまで大きな権威はないはずです。


 むしろ、性格に難があって左遷させられた経緯があったり、中央の出世競争に負けて既に捻くれてしまっていたり、と。


 そういう出世街道から外れてしまった方が教会を切り盛りしている可能性が高いんですのよね。


 私の危惧もご理解いただけますでしょうか。


 ここが女神教の聖地だからこそ、他の土地よりも余計にしがらみ(・・・・)に縛られているはずなのでございます。


 聖職者としてはあまり出世欲のない私が、この街の中央側にはあまり顔を出したくない一番の理由だとも言えますの……!



「すぅー……ふぅ……むぅ。とはいえ、ここでビビっていても状況は変わりませんのよね。野宿するか否かの瀬戸際なんですもの」


 うら若き乙女が知らない土地の知らない道端で適当に一夜を明かすわけにもまいりませんし、せめてあの教会の中で休ませていただけないか、という交渉してみる他に選択肢はないと思うのです。


 案ずるより産むが易し、ですの。

 わ、私は清く正しい生娘ですけれどもっ。


 いざというときは私が今代の聖女であるという切り札を切ってしまうという手もありますし……そうですわね。


 とりあえず当たって砕けろの精神で門戸を叩いてみましょうか。



 というわけで、コンコンコン、と。


 私は教会のドアをノックしてみましたの。


 すると。

 

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