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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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基本、この街にはそれしかありませんの

 

 お散歩、とっても楽しいですの。

 そしてとっても興味深くもありますのっ。


 ただいまはスピカさんとシロンさんと並んでセイクリットの街中を歩いております。


 そろそろお昼時だからなのでしょうか。


 セレブ街から少し外に出ますと、あちこちの建物から美味しい匂いが漂ってきましたの。


 昨日と同じように出店も出ているようで、右に左にと目移りしてしまいます。


 ふふふ。小腹がすいてきましたわね。

 ついさっき満腹になっていたといいますのに。

 乙女の別バラは無尽蔵なんでしてよ。


 とはいえそんなにお財布に余裕はありませんから、スピカさんから許可をいただくまでは指を咥えてお預けなんですけれども……。


 そわそわと観光しながら進んでおりますと、中央街のほうまでやってまいりましたの。


 昨日はヘトヘトになっておりましたゆえ、こうして景観を楽しむ余裕はなかったのですが、見れば見るほど平和な街並みですわよね。


 どうやら今日は日曜学校が行われる日らしく、たくさんの子どもたちがわらわらと周囲の教会に入っていくのが見えましたの。


 私も王都でやりましたわねぇ、日曜学校の先生役。


 女神教について優しく分かりやすく丁寧に教えてさしあげるのがお役目なのでございます。


 あまり人前に出してもらえなかったですゆえ、担当した回数自体はそこまで多くはなかったのですが、それでも健気で純粋な子どもたちと触れ合えたのは楽しかったですの。


 ふぅむ。幼少の頃の自分自身と重ねて、また一つ微笑んでしまった私なのでございます。



「いやぁー、しばらく見ないうちにこの街も高い建物が増えたよねー」


「さすがは女神教の総本山ですのー。王都のモノとは比べ物にならないくらい、どの教会も立派で羨ましい限りでしてよー」


 横を歩くスピカさんもぴょんこぴょんこと弾むようにテンションが上がっていらっしゃるようです。


 しばらく見ないうちに、とおっしゃっておりますから、きっと懐かしいんでしょうね。


 私はこの神聖都市は初めてなのですが、本当に王都と比べても遜色ないほど、レンガ造りの高い建物が沢山連なっておりますの。


 区画に沿うように規律よく建っておりまして、それはそれは荘厳なオーラを放っているのです。


 しかしながら、歴史ある街並みかと思いきや、どの建物も比較的新しく見えましたの。


 私の選美眼はホンモノですから、きっと本当に新しいのでございましょう。聖女の目はごまかせませんでしてよ。


 スピカさんの何気ない呟きに、そして私のちょっとした疑問符に、先と変わらぬ微笑みを頬に湛えたまま、シロンさんがスマートにお答えくださいましたの。



「数年前にドワーフの里から職人たちが帰ってきてね。昔よりずっと丈夫なレンガ造りの建物を建てられるようになったってさ。この区画が一際キレイなのもそんな影響があるんだ。最近完成したばかりの場所だから」


「聞いたことある! デザイナーズシティってやつだ!」


「そうそう。ここは観光地であり、聖地であり、ヒト族最北の防衛拠点でもあるからね」


 ふぅむなるほど。木造の家々には温かみがありますが、とにかく火に弱いですものね。


 次々と燃え移ってしまう恐れもありますの。


 その点、レンガ造りの建物は堅牢で耐火性があって籠城性能にも優れております。


 防衛拠点にレンガ造りは必須なんですの。


 もう長らく大規模な戦争は起こっておりませんが、先の戦争時代はこの神聖都市セイクリットこそがヒト族領の境目となっていたらしいですの。


 なんせお隣はエルフ族の土地である大森林ですし、目の前に聳え立つ山を越えたら、その先はもう魔族領が広がっておりますものね。


 とはいえ実際には、あの山は竜の住む地として双方から恐れられておりましたゆえ、実際の戦場はここからずっと離れた場所だということなんですけれども。


 とにもかくにも、そんな経緯から守りを固めることに専念された結果、他種族の侵入を決して許すことのない、この堅牢で閉鎖的な神聖都市ができあがったのでございましょう。


 交流が盛んであったのならば、もっと開けた街づくりが行われていたと思いますの。



「わざわざ遠く離れた地域の職人さんから技術を授けていただくよりも、こちらに直接お招きして築いていただいたほうがずっと早かったのでしょうね」


「そりゃあホントはそうしたかったんだろうけどねー。でも、この街は異種族に厳しすぎるからさ。ドワーフ族の機嫌を損ねないためにも、こちらからの出向が必要だったんじゃないかな」


「ふぅむぅ。ヒト族至上主義の街って、一周回ってやっぱり息苦しそうな感じがいたしますのー……」


 行き過ぎた選民思想は自らの身を滅ぼしますの。女神様の自己愛の強さが、その教えにも滲み出ている気がしてしまいましてよ……。


 もっと博愛精神を持ちませんこと?

 この愛と美の伝道師である私みたいにぃ。



「ドワーフ族、ですか。私は会ったことないですけれども」


 ドワーフ族は成人でも背が小さくて、老いも若きも髭をたくさん生やしていて、とても力持ちで手先が器用な方々と聞いております。


 建築業だけでなく、炭鉱夫や宝石細工師など、数多の肉体労働のプロ集団として各地で逞しく生きていらっしゃるとのことですの。


 なるほど、この芸術的なほどに整った街並みは、そのドワーフの方々から学んだ技術の成果なのでございましょう。


 ヒト族の吸収力ってのは凄まじいですのーっ。


 ……けれども、ふぅむ。



「他種族ともっと仲良く暮らせれたら、この堅牢性も必要なくなるのでしょうか。悩ましいものですわね」


「仲良く、かぁ。対等って言葉、意外に深いよね。そしてとっても重くて、難しい」


 私もそうだと思いますの。

 本来であれば上も下もないのです。


 けれどもこの神聖都市には、また別の意味で区別の概念が存在しております。


 ヒト族(うえ)か、それ以外(した)か。

 基本、この街にはそれしかありませんの。


 聖なる神聖都市の闇たる部分なのでございます。

 

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