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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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イプシロン・タリアスター

 

 

 大きな両開き扉の向こうから現れたのは――



「やぁ、スピカ姉さん。柵越しに姿が見えた時は驚いたよ。王都からの任務中だって聞いてたけど」


「お久しぶりシロンくん! ちょうど近くに寄る用事があってさ。せっかくだからって思って」


「そっか。僕も姉さんに会えて嬉しいよ」



 ふぉおぉおー……っ!


 えっと、あの、ほら、アレですの。

 私、つい先ほどに唖然としてしまったばかりですけれども。


 今度は呆然としてしまいましたの。その麗しきお姿に目を奪われてしまったと言っても過言ではございませんでしょう。


 この胸の内の乙女センサーがビンビンに反応してしまっているのでございます。



 だって、今、私の目の前には……っ!



「ちょ――」


「うん? どしたのリリアちゃん。伝書鳩が豆鉄砲食らったような顔して」


「超絶イケメンさんですのーッ! 白馬に乗った王子様が自らの足で出向いてくださいましたのーッ! 文句のモの字も、非の打ち所さえもない美青年そのモノでしたのーッ!」


 本当に本当に、眩しさのあまりに危うく卒倒してしまうくらいの美青年が現れたのでございますッ!!!


 端的かつ丁寧に説明させていただきましょう。


 私の白みがかった薄い金髪とは異なる、正真正銘輝くような金髪で、とにかくスラリとした高身長で、お高そうな貴族装をキュッと着こなしている辺りがとんでもなくスマートで、けれどもほんの少しだけスピカさんと似た童顔さをも持ち合わせる、なんとも可愛いとカッコいいのちょうど中間あたりの完璧なイケメンさんが……ああ、ダメですのっ!


 私の陳腐な語彙力で言い表すにはそれこそ羊皮紙五枚は余裕で必要になるほど、むしろ言葉にすることさえおこがましく感じられるほどのステキ男性が、まさか、まさかまさかスピカさんの従兄弟さんだなんて……!


 勇者の血筋、恐るべしですのッ……!!



「あの、姉さん。こちらの方は?」


 少しだけ困惑したようなご表情で、彼が私のことをお見つめなさいます。


 ああっ。申し訳ありませんのっ。

 お目汚しを失礼いたしますのっ。


 私も自分自身のことを世界で一番目か二番目くらいに容姿が整っている超絶美少女だと自覚しておりましたけれども、彼の美しさの前ではさすがに霞んでしまいましょう。


 見ているだけで幸せな気分になるのです。

 なるほど、眼福とはこのことか、と。


 疲労も空腹も全て忘れてしまえますの。

 むしろ幸せ成分でドンドンとお腹が満たされていきますの……!


 お空の上にいらっしゃる女神様。この欲深くて罪深い哀れな恋羊をお赦しくださいましぃ。


 目を奪われて呼吸もままなりませんのぉ……っ。



「あっはは、いつものことだから気にしないで。紹介するね。こちら、聖女のリリアちゃん」


 もう一度自らの世界にトリップしかける私を見て、お隣のスピカさんがたはーっと溜め息を漏らしなさいます。


 えっと、あの、でも。

 そのお気持ちは分かりましてよ。


 私も正直、今の自分自身の姿は見たくも見せたくもありませんもの。


 くりくりのお目々なんて、絶対にハートマークが浮かんでしまっておりましょう。


 いやはや恥ずかしい限りですわね。

 自然と頬が赤らんでしまうのでございます。


 

「…………はぇぇー…………」


「リリアちゃん?」


「はっ!? ご、ご紹介に預かりましたっ、私リリアーナ・プラチナブロンドと申しますのっ。人呼んで愛の伝道師っ。もしくは美を司る女神様の生き写しっ。はたまた恋に恋するお歳頃の――」


「はいはい。どんどんブレていっちゃうからその辺でストップしておこうね」


 ううっ。自分でもテンパってしまっているのが分かりますの。修道服の頭巾(ウィンブル)の内側で、私のアホ毛がブンブンと尻尾を振っているのです。


 普段の優秀な淑女として接するのが困難になるくらい、ああっ……こんな経験は初めてのことでぇ……っ。


 私もどうしたらよろしいのかぁ……っ!



「ああ、そうか。貴女が今代の聖女の」


「はぇっ!? 私のことをご存知なんでしてっ!?」


「そりゃあもちろん。ここは神聖都市だからね。姉さんたちの話題はいつもどこかで挙がっているよ。僕も話には聞いていたけど、二人とも本当に美人さんだね。鼻が高いよ」


「はぇあっ。見た目だけでなく心も紳士的だとは……私の心の耐久値は既に限界ギリギリを迎えておりましてよぉぉっ」


「ははは。そして、少し不思議な人らしい」


 クスリと微笑みをお零しなさいます。


 そんな何気ない仕草さえも絵になっていて、私の乙女トキメキきゅんきゅんメーターが振り切れてビロンビロンになってしまいそうですの。


 自分一人きりだったら、キャーと黄色い歓声をあげてしまうところでしたの。


 スピカさんの服の裾をギュっと握りしめていないと、この身を焦がす熱を冷まそうと、今にも地面を転げ回りたくなるのです。


 私の中に残る最後の理性を振り絞って、スピカさんに会話のバトンを託しますっ……!



「ここここんな惨めで見窄らしくて田舎者な私めのことなんてどーでもよろしいですからっ。どどどどうか彼のご紹介をばっ」


「ったく。本当、調子がいいんだから。えっとね、この人が私の従兄弟のシロンくんだよ。私のパパの、妹さんの、息子さん」


「どうもこんにちは。僕の名前はイプシロン・タリアスター。皆からはシロンと呼ばれています。どうぞお見知りおきを」


「シロンさん……っ!!!」


 今、私の辞書の一ページ目にしかと刻み込みましたの。


 たとえ女神様への祝詞をド忘れしたとしても、貴方のお名前だけは絶対に忘れません。


 私の人生で一番恋にときめいている瞬間が今なのかもしれませんの。


 この機会に恵まれたことを感謝いたします。


 私が今代の聖女に選ばれなかったら、勇者であるスピカさんと知り合うことも、スピカさんの従兄弟であるシロンさんに出会えることもなかったことでしょう。



 私、聖女で、ホントによかったですのッ!!




「それでねシロンくん。再会頭に相談なんだけど――」




 それでいいのか、リリアちゃん。 

 

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