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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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セレブ街


 しばらく、私たちは街中を歩き巡りましたの。

 教会をもう何軒通り過ぎましたことでしょう。


 区画で言えば十は超えたかと思うのです。


 あの傾きお宿に戻ることを考えると気が滅入ってしまいますの……っ。


 甘味への関心も疲労感には勝てなくなってしまっております。


 大森林への滞在が長かったせいか、荒れた土や草は踏み慣れていても、逆に整備された固い歩道は慣れておりませんからね。



「……さすがに、そろそろ、着きませんの?」


「かなり静かになったね、リリアちゃん」


「そりゃあはしゃぎ疲れてお腹もぺこスケ丸ですもの。私だって省エネモードになりましてよ……」


 ついには歩幅も半分になってしまったくらいです。


 しかも五歩進むごとにぐぎゅるるぅとお腹の虫が切ない声で訴えかけてくる始末。


 今思えば大森林の中は不便ではありましたが、食べ物には困りませんでしたものね。生草でも果実でも、味さえ気にしなければ基本何でも食べられましたの。


 その一方で、都市の中ではお金がなければ基本的に何も手に入りません。


 そもそもの物価や泊まるお宿のお代金を考えれば、食事周りで贅沢できるほどの余裕はないのです。


 しばらく滞在することも考えますと、早いところギルドのほうにお世話になったほうがよいまでありましょう。


 でもでもっ。こんな平和そうな街に何でも屋のお仕事なんてあるのでしょうか……?


 気の滅入りに応じて、不安感も募るばかりなのでございます……!



 と、肩からくてぇんと項垂(うなだ)れて、ガックリとしょげ始めていた、ちょうどそのときでございました。



「へぶぇっ」


 スピカさんが唐突に立ち止まりなさったのでございます。


 前方不注意のまま、そのキュートなお尻に顔から突っ込んでしまいましたの。適度な弾力のおかげでまったくのノーダメージでしたけれども。



「んもう。どうなさいましてぇ?」


「あっとゴメン。そろそろ着きそうだなって。やっと見覚えのある景色になってきたからさ」


「ふぅむぅ……?」


 彼女のお言葉に首を上げて見てみます。


 気が付けば大通り的な歓楽街からは外れて、閑静な住宅街的な区域に入っていたようなのです。


 なんだかどこの建物もお高級な感じですの。


 だいたいがレンガ造りの一軒家なのですが、たまーにお屋敷のように広い敷地を持っていらっしゃるお宅もあるみたいですわね。


 もしや貴族様が住んでいらっしゃいまして?


 私は孤児の出身ですので家柄についてはあまり詳しくないのですが、目を凝らして観察してみれば、どの家々も丁寧な造りで、全体的に高級感が漂っている気がするのです。


 ふぅむ。であれば私、決めました。


 この辺り一帯のことはこっそりと〝セレブ街〟と呼ばせていただければと思いますのっ。


 完全に独断と偏見による認定ですけれどもっ。



「こんな小綺麗な地域に住んでいらっしゃるんですから、もしも従兄弟さんが気難しい方々だったら、私怒っちゃいますからね……!」


「バーカ。神聖都市に暮らしてる連中にロクなヤツなんていないわよ。ただの成金かもしくは宗教絡みの野心家か。断言してやってもイイわ」


「はいはい。そういうのは実際に会ってみてから判断してね。さすがの私もグーが出ちゃうよー?」


 グググと力強く握られたゲンコツ拳が見えました。


 うぅ。暴力反対ですの。ただでさえ今の私は耐久値であるスタミナが落ちていると言いますのに。


 ああ、今すぐにでも肉汁滴る分厚いお肉が食べたいですの。味付けも軽く塩を振るだけで充分ですの。


 そうしたらこのイライラ感も少しは収まると思うのです。


 大森林の中でしたら、お肉を食べられる機会も沢山ありましたのにぃ……!


 便利なのに不便な、この神聖都市ぃ……っ!



 唸るお腹を平手でさすりながら、ともかく必死にスピカさんの背中を追わせていただきます。


 あまりにお腹が空きすぎて、目の前で揺れるぷりぷりのお尻に齧り付きたくなってしまいますの。


 さすがに蹴飛ばされてしまいますゆえ、実行には移しませんけれども。



「あのね、振り返らなくても分かるけど、リリアちゃんったら飢えた獣の目になってるよ。自慢の聖女様なんだからしっかりしてね。でないとウチの従兄弟くんにも笑われちゃうよ?」


 チラリと振り返られたお顔には、茶目っ気のあふれるウィンクが乗っていらっしゃいましたの。


 ぐぬぬぬ、私の扱い方というモノを熟知していらっしゃいますわよねぇ、ホントにぃ……!



「うぅっ。確かに優れた乙女は第一印象も素晴らしくあらねばなりません……っ。未来の優男にモテるため、今すぐ気をしっかり保ちなさいまし、リリアーナ・プラチナブロンドぉ……!」


「いや、どういう鼓舞の仕方よ」


「あっはは。リリアちゃんってホントに大物だよね」


 だだだだだって仕方がありませんでしょう。


 スピカさんご自慢の従兄弟さんとあれば、優男かイケメンにちがいないのです。


 私は勇者の良血統を信じておりますもの。


 でないとスピカさんのような美少女が生まれてくるわけがありませんものねっ。


 今が我慢のときなのでございます。


 三度のお食事よりも殿方(・・)が好きな私にしてみれば、イケメンさんに会えるという期待だけで空腹も疲労も我慢できてしまうというもの……!


 そうだと言ってみなさいまし、リリアーナ。


 単純と笑えばよろしいのです。

 そしてせいぜい浅はかだと罵りなさいまし。


 そんな言葉では私の足は止まりませんからね。

 私は、己の厚顔無恥さを自覚しておりますゆえに!



「ハァ。今代の聖女サマがこんな尻軽な女だって知ったら、神聖都市の連中はどう思うかしらね」


「正直怖くて考えたくもないよね。異端審問会とか開かれるのかな。やだなー」


「ふぅむんっ。どうせ今の私は女神様の貞操帯のせいで、既成事実を作るまでには至れませんのー。ですからご安心くださいましぃ。さすがに今回ばかりは己の運命を呪いましてよ、ゔあーッ! ですのーッ!」


 私は所詮、恋に恋する乙女でしかありません。


 そしてそれを理解しているからこそ、己の使命を完全完璧にやり遂げて、さっさと自由の身になってさしあげるつもりなのでございます。


 今更文句は言わせませんでしてよ、女神様。


 旅の最中の伴侶探しとは、言わばこの旅から無事に帰ってこれたご褒美に、私の帰るお家を用意しておきたいという儚き願望の表れなんですの。


 っていうか、従兄弟さんのお家はまだでしてー!?

 そろそろの範囲ってどこまでなんですのー!?


 お腹が減りすぎて腹が立ってきちゃいました。


 やっぱりイケメンさんへの妄想だけではお腹は膨れないのでございますぅ……!

 

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