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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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最強にフカフカのベッドでッ! 最高に仲良く穏やかにッ!

 

 そうして私たちは関所から少し離れた、ちょっとした裏路地のほうに隠れるように逃げ込みましたの。


 ここは薄暗さのおかげか人の往来はあまり多くないようです。


 ゆえに多少は身休めもできるはずですの。


 さすがにフードを外して自由に角を晒せるわけではございませんが、ミントさんを苦しめている拘束具を緩めるくらいなら難なく行えるかと思われます。


 この都市に入って初めて、ようやく私たち三人はホッと一息吐くことができたのでございます……っ!



「いやー。なんとか神聖都市の中に入れたね」


 額に滲んだ汗を拭うスピカさんの言葉に、私も同調して頷きます。


 とりあえず最初の関門はクリアできたようで何よりですの。あとはいかにしてミントさんの自由度を上げるか、ですわよね。



「ふぅむぅ。一度止められてしまったときは焦りましたわよぉ。何にせよ上手く誤魔化せてよかったですの……!」


「本当にその通りだよねぇ」


 私も安堵の溜め息を零しながらも、ミントさんをキツく縛り付けている拘束具をせっせと緩めてさしあげます。


 ずっと固定されてしまっていたせいでしょうか。


 彼女のキメ細やかなお肌にも確かな赤い跡が残っちゃっておりましたの。お可哀想に。


 痛みのために顔をしかめる彼女を見ると、私まで心苦しくなってしまいます。


 急いで治癒魔法をかけてさしあげませんと。



「あの、指先が痺れて動かないだとか、変な寒気がするだとか。お身体のほうにお変わりはありませんでして?」


 お尋ねしながらも心の中で祝詞を唱えて、手のひらに治癒の光を集めます。そのまま患部を撫でるようにして応急処置を施してさしあげましたの。


 しばらく光を当て続けておりますと、心なしか顔色もよくなっていったような気がいたします。



「……別に大丈夫よ。それにしても、心底反吐(ヘド)が出る街よね、ホント」


 相変わらずミントさんは素直ではありませんでしたけれども。


 自らの患部には目もくれず、日向(ひなた)に広がる白い街並みを睨みながら、彼女は微かに眉間にシワを寄せなさいます。


 気にしているのはおそらく、門兵さんの先ほどの態度のことでございましょう。


 気持ちは分かりますの。

 私でさえもムッとしてしまいましたもの。


 アレはかなりの侮蔑的なニュアンスを含んでいたかと思われます。


 到底、魔族のご本人が聞き捨てられるような内容ではなかったのでございましょう。


 案の定、イライラ顔の彼女が舌打ち混じりにお続けなさいます。



「フン。さすが高貴な神聖都市らしく、アイツらったら魔族(アタシら)のことを野蛮な魔物か何かと思ってるらしいじゃない? いっそのこと、目の前で好き勝手に暴れてやろうかしら。お望みのとおりにさぁ」


「み、ミントさんがおっしゃると冗談に聞こえませんの」


「いつまで冗談にしていられるかしらね。せいぜいアタシの堪忍袋の緒が短くないことを祈ってなさい。少なくとも聖人君主を売りにしてるわけじゃないから」


「……ガチめにお怒りなご様子でしたの……っ」


 思わず背筋がブルっとしてしまいました。

 並々ならぬオーラを感じてしまったのです。


 私も自分自身に向けられる差別には慣れているつもりでしたが、ミントさんにとっては自身だけでなく、種族全体にそういった目が向けられていることが許せないのかもしれません。


 私が思うに、ミントさんは〝魔族〟であることに対して人一倍に誇りを持っていらっしゃるようにも感じているのです。


 一方の私は混血の身ゆえに、完全には分かってさしあげられないのが悔しくて虚しいですけれども。


 とにもかくにも、こんな陰鬱とした場所で私たちまで卑屈になる必要はございませんでしてよ。


 伸び伸びと堂々と生きるのが一番ですの。



「こっほん。言いたいことは山ほどありますでしょうが、今は早いところ今晩のお宿を見つけておきましょうよ。くまなく探せば、別種族の宿泊にも寛容な施設があるはずです」


「別にいいわよ。アタシは最悪、独りで野宿したって」


「ミントさんがよくても私はイヤなんですのっ! この三人で川の字になって眠るんですのッ! 最強にフカフカのベッドでッ! 最高に仲良く穏やかにッ!」


「………………ったく。分かったわよ」


 私の熱弁が伝わってくださったのでしょうか。


 プイと横を向いた彼女の頬に、ほんの少しだけ照れ隠しの色が見えたような気がいたしました。


 この都市の人間がミントさんを差別したとしても。私は決してミントさんを見捨てたりしませんの。


 貴女はもう私たちの大事なお仲間なんですもの。



「ミントさん。えっと、歩けそう?」


「ええ。足枷は付けてないから」


「本当は手錠も首輪も外してさしあげたいんですけれども……ふぅむ。罪人設定にしたのは間違いだったでしょうか……」


「普通に外を出歩けないのがおかしいんだよ。私も変だなって思うもん。こんなの」


 清く正しく美しい場所だと思っていた神聖都市は、初っ端から不自由で息苦しくて窮屈な場所に思えてなりませんでしたの。


 聖女特権でもあればよろしかったですのに。


 そうすれば私の言ったワガママが全部実現していって、誰でも気軽に過ごせるようになって……そんな夢のような……。


 私も、教会のお偉方にお会いして、直接お話を聞いてみたくなってしまいましたの。


 今の神聖都市は何を信仰の対象としているのか、そこにどんな意味があって、どんな裏と闇が隠されているのか。


 魔王城までの旅を目的とする私たちがあえて首を突っ込む必要はないのかもしれませんが、放っておけないのが勇者と聖女の(さが)なのです。


 早いところこの街の拠点となるお宿を見つけて、これからのミントさんの行動をサポートしてさしあげましょう。


 うかうかしていると夜になってしまいましてよ。

 

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