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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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この見た目の痛々しさこそがミソなのです

 



 スベスベとした白い漆喰の外壁に、頑丈そうな白塗りの扉門に、清さを前面に表したような真っ白な兵装に、と。


 関所の様相から察するに、どうやら神聖都市セイクリットはどこもかしこも白をメインカラーとした堅牢な壁に周囲を覆われているようですの。


 しかも、そこかしこに女神教のシンボルである白き両翼も描かれておりました。


 明らかに女神様最推しの印象です。もはや他の信仰などはお呼びでないと言い放てるレベルのヨイショぶりに思えましたの。


 もちろんその意向は出入り口の関所においても例外ではなく。


 まるで白くすることを強いられているのではないかと思えてしまうくらいに真っ白な関所が、私たちを待ち受けていたのでございます……!



「あちら、ですわよね」


「そうよ。ヨロシク頼むわね」


「合点承知のスケベェですの!」


「……ハァ。先が思いやられるわ」


 幸いにも門は大きく開け広げられているようでしたが、代わりにその両脇を固めるように門兵さんが立っていらっしゃいましたの。


 私たち三人の姿を目にするや否や、その手に持っていた長槍をバッテンの形に重ね合わせることで、サッと通せんぼを試みなさったのでございます。


 見るからに訝しむような顔で睨んできております。

 いやー、そりゃあそうですわよね。


 何のアポイントメントも無しに美少女三人が歩いてきたら私だって警戒すると思いますもの。


 門兵としての丁寧なお仕事、ご苦労様ですの。

 けれども今は何も言わずに通してくださいまし。


 私たち三人は決して不審な人物ではありませんゆえに。


 まずはニコッと営業スマイルを浮かべながら目の前でぺこりと一礼して、礼儀正しさと己の潔白さを全身で示してさしあげます。


 こういうときは下手にアタフタせずに、粛々たる姿をお見せしたほうが印象がよろしいんですの。


 お二人の目をキチンと見つめてから、あえて一呼吸置いたのちに、ゆっくりと語りかけてさしあげます。

 


「ごきげんよう。私たちは今代の聖女と勇者ですの。ほらこの通り、身分証明となる勅命書も肌身離さず持ち歩いております。どうぞお手に取ってご確認くださいまし」


 御託を並べて誤魔化すよりも、結局はモノで説明したほうが早くて上手くて安心なのでございます。


 私たちの最終目的である〝休戦協定の延長書〟を門兵さんに直接見ていただくことにいたしましたの。


 いくら他国の王様のモノだとはいえ、王族直筆のサインが刻まれているとあっては、もはや疑う余地はございませんでしょう?


 まして私は正規の聖女様なんですの。


 本来ならば地面に頭を擦り付けて無礼を詫びていただきたいものですけれども、私の寛大かつ慈悲深い心で赦してさしあげようと思います。


 おぉーっほっほっ。


 この神聖都市セイクリットは何を神と定めているのか、またその存在(女神様)に最も近しい者はいったい誰だというのか。


 ほら、考えてみなくとも分かりますわよね?

 もちろんそれを知覚した上で関所の門兵を務めていらっしゃるんですのよね?


 ええ、そうですの。言わずもがな。


 ズバリ聖女様は尊くて偉いんですのッ!

 さっさとこの関所を通してくださいましッ!



 案の定、門兵さん方は互いに顔を見合わせなさったあと、こっくりと頷いて、クロスさせていた鋭槍を解除してくださいましたの。


 きっと通ってもよいとのことなのでございましょう。


 ふふっ。案外チョロいもんですわね。


 ネタに走らずに大真面目に振る舞わせていただいたおかげなのでしょうか。


 とりあえずまず初めにスピカさんが門を堂々と通り過ぎて、それからお次に私が小さな会釈と共に優雅に横を抜けて、最後に灰色のフードを深く被ったミントさんが小走りになって駆け抜けようとした――そのときでございました。


 再びにガシャンと、槍と槍が重なり合う音が聞こえてきてしまったのでございます……!


 振り返って見てみれば、ミントさんお独りだけ外側に取り残されておりましたの。


 彼女から小さな舌打ちが聞こえてきたこと、今は聞かなかったことにいたします。



「待て。そちらのフードの者は? 身分証には名前も経歴も書かれていなかったのだが」


 右方のコワモテな門兵さんが、静かに私たちを牽制をするかのように、そのお口をお開きなさいました。


 やはり若干の睨み顔でしたの。

 どうやら一筋縄ではいかないようなのです。


 ですがご安心をば。

 対策もしっかり思案済みでしてよ。


 すぐさま軽く引き返してミントさんのお隣に駆け寄って、あらかじめ考えておいたフォローの言葉を言い放ってさしあげます。



「こっ、この人は――あ、いえ、この者は私たちが旅の最中に捕えた魔族の罪人ですの。ご覧の通り、キチンと拘束具を嵌めておりますゆえ、安全性のほどは保障いたしましてよ」


 スタートのセリフに若干挙動不審になってしまいましたが、すぐに平然さを取り戻しました。


 あえて私自らの手でミントさんの被るフードを取り払って、その内側に隠れた巻き角と全身の拘束具を晒すことで、こちらの優位性を全面にアピールしてさしあげたのです。


 何重にも巻いた鎖の手錠も、赤い締め跡が残るほどガチガチに固めた首輪も、どちらもよく見えるようにマジマジと晒してさしあげましたの。


 この見た目の痛々しさこそがミソなのです。



「なるほど罪人の連行か。ならばその者は我々のほうで牢屋に――」


「いえ、今回はお気遣いのみありがたく受け取らせていただければと思いますの。と言いますのも」


 そうくると思っておりました。すぐさまお断りして、その理由を畳みかけてさしあげます。



「こっほん。まだ彼女には、今代の勇者と聖女として聞き出しておかねばならぬ情報が山ほどございますゆえ。それに、罪滅ぼしのために奴隷として働いていただく必要もあるのでございます。

この者の引き渡しにつきましては、時期が来ましたら私たちのほうからご依頼させていただければと思いますの」


 この辺は練習しておいてよかったですわね。

 おかけで言い訳がスラスラと出てくるのです。



「理由は理解した。だが、ご麗人二人のみで魔族を管理されるのはいささか危険なのではないか?」


「ふぅむ? そちらもご安心なく。既にキバもプライドもベコベコにへし折っておりますゆえ、今更反撃してくる恐れはありませんでしてよ」


「そうか。ならば、気を付けるように。魔族は油断ならない生物だからな」


「……ご理解いただき、感謝いたしますの」


 ホッと一息吐いておきたいところでしたが、変に目立ってしまってもよろしくありません。


 もう一度ペコリと礼儀正しく礼を見せてさしあげたのちに、ミントさんの手錠から伸びる鎖を掴んでそそくさと関所を後にさせていただきましたの。


 グイと乱暴に引っ張るそぶりはあくまでアピールのつもりです。


 あの、見た目よりは痛くありませんわよね?

 ちょっとの間だけですから我慢してくださいまし。

 

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