はぅぁっ。ふわぁぅっ。
改めて、お空を見上げてみましたの。
そこにはなんと、大空を舞うミントさんの可憐なおパンツが――いえ、意外に見えませんでしたわね。むしろチラリともなさいませんの。
陽光が眩しかったせいなのか、大事なところが真っ暗だったのです。
何とか覗き見ようとクネクネとしてみましたが、どうしても無理でした。
おまけにこのままの体勢を続けていては首が凝ってしまいそうですの。
……まったく仕方がありませんの。ミントさんのおパンツ拝見会はまた今度の開催にさせていただきましょうか。
しばしのお預けってことですのっ!
そう悶々としているうちにミントさんがお空の上から戻ってきましたの。
スタッと音もなく慣れた足取りで私たちの目の前に着地なさいます。
「ぃよっと。ハイお待たせ」
「ハイ、おかえりなさいまし」
パッパとお召し物を整えなさいますと、もう一度その手で広域地図をお広げなさいました。
何やらふむふむと頷いていらっしゃいます。
「現在地、分かりまして?」
「そりゃあもちろん。アンタとちがってアタシは地図読めるからね」
「ふぅむぅ」
正直、グゥの音も出ませんの。
私は方向音痴の極みみたいなモノですゆえに。
けれどもお一つだけ言い訳をさせてくださいまし。
修道院時代の私は建物の中からあまり出させていただけませんでしたの。
ゆえに出歩き行為自体に慣れておりません。
だから道を覚えたりするのが苦手なのです。
まして、ただでさえ経験に乏しいと言いますのに、大きな目印も何もない場所でどうして自らの位置関係が把握できるとお思いでして!?
振り返って見てみた景色は、今まで私が歩いてきた道ではないのです!
全て初めて目にする未踏の道なんですの!
実際の景色でそんな感じなのですから、簡易的に描かれた道を見て、頭の中で想像して補完して道筋を辿るだなんて、高等技術の粋に等しい行為だと思いますの。
足の行くまま気の向くまま、常になーんとなくでお散歩をしている人生なんですのッ!!
「……こっほん。私は素直で敬虔な乙女ですゆえに、プライドなんてドブ池に捨てて地図の読めるミントさんを全力で頼らせていただきますけれども。それで、実際どうだったんですの?」
「そうね。予定よりちょっとだけ左に逸れたけど、もう何日か歩けば街道には辿り着けそうな感じね。神聖都市の関所までは、そこまで時間も掛からないと思うわ」
「あら、それはよかったですのー」
一時はどうなることやらと思いましたが、終わってみればそこそこ順調みたいですわね。
次なる目的地の神聖都市セイクリットも、もう目と鼻の先にあるってことですの。
そうと分かればいざ前進!
と、イケたらどんなに楽だったことか。
おあいにくながら、私の身体はそこまで頑丈な造りにはなっておりません。
基本はか弱い女の子なのでございます。
「進みたいのはヤマヤマですけれどもー。今日はさっすがに疲れましたのー。もう歩きたくないですのー。私もお空を飛んで移動したかったですのー」
私の弱音に呼応するかのように力が抜けて、ぺたりと草原に座り込んでしまいます。
見上げたミントさんがニヤニヤしていらっしゃいますの。
「フン。アンタの場合、真夜の日だけヒトの身体になってたほうが生きるの楽だったんじゃない? ま、今更無いモノねだりしたところで意味なんてないけどさ」
「ぐぬぬぬぬぬぅ……」
魔族のお身体のほうが何かと丈夫のようですし、今だけは確かにそう思えちゃいましたの。
眠るときに頭の角が邪魔になるコト以外は、基本的に魔族の身体のほうが有利な点が多いのです。
私の場合は、真夜の日は溜め込んだ負荷によって熱にうかされてしまいますけれども。
……ミントさんが少しだけ羨ましいですわね。
きっと今頃は私の目の前でドヤ顔でニマニマとしていらっしゃることでしょ――ふぅむ?
いえ、してませんでしたの。
むしろその逆、彼女は私とスピカさんの両方の顔を見つめては、ふっと柔らかな微笑みをお零しなさっていらしたのでございます。
あまりの珍しさに唖然としてしまいました。
といいますのも、お次の彼女のご発言に耳を疑ってしまったのでございます……!
「それでも、よ。アンタらがいてくれるから魔族のアタシでも神聖都市に潜り込めるチャンスがあるの。奴隷役をすんのは癪でしかないけど……ヨロシク頼むわね。信じてるわ」
「はぇっ……!?」
はぅぁっ。ふわぁぅっ。
と、トンデモねぇ破壊力でしたの。
バツの悪そうなウィンクまでなさいました。
しおらしさ全開のミントさんがそこにいらっしゃいましたのッ!
「んでっ……でででっ……!」
「あん? 何よ?」
「ミントさんが、デレましたのーッ!」
「……ハァ。バカ言ってないでそろそろ行くわよ。こんな駄々っ広い草原のド真ん中で野宿しちゃあ、それこそどうぞ狙ってくださいって言ってるようなモノよ。ほら、立ちなさい」
ぶぅー。
やっぱりデレてませんのー。
いつも通りの鬼畜なミントさんでしたのー。
足が棒のようですのって言ってますのにぃー。




