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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第2章 大森林動乱編】

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でも、これではっきりしましたの


 内容を読めば読むほどにイラつきが止まりません。


 私も聖職者の端くれですゆえ、事細かに刻まれている祝詞だって一目見ればすぐに解読することができちゃいますの。


 神に愛されし〜だとか、この者に祝福を〜だとか、出来うる限りの奉仕と献身を〜だとか。


 格式高い言葉を並べて誤魔化してはあるようですが、内容を要約いたしますと。



「……ふぅむ。〝神と教会への隷属〟ですか。なんと(おぞ)ましいことを……」


 尊厳もへったくれもないのです。

 むしろこうして言葉に表すのもイヤですの。


 すぐにでも剥がしてビリビリに破り裂いて、何も見なかったことにしてしまいたいほどの特急呪物とも言えましょう。


 証拠として押さえておかねばなりませんけれども。


 きっとこの護符のせいで満足にお身体を動かせないのでございましょう。



「おっけーですの。状況は理解しましたの。今すぐ取り除いてさしあげますから、ちょっとだけ我慢してくださいまし……!」


 腕力に任せてただ引き剥がすだけでは彼女の身体に悪影響を及ぼしてしまうと思われます。


 厄介なことに抵抗の術式も刻まれているのです。


 私のお声がけ自体に反応はございませんでしたが、処置がマズい行為なのであれば抵抗の意思を示してくるでしょうし。


 今ここでされるがまま(・・・・・・)でいてくださることが、擬態生物さんなりの肯定なのだと勝手に理解させていただきます。


 無駄に時間を掛けて、アコナさんに邪魔をされてしまっても困りますものね。


 なる早で解除を始めましょうか。


 手のひらに治癒の光を集めて、刺激しないように細心の注意を払いながら護符に触れさせていただきます。


 そのまま端のほうを摘んでは貼付面に魔力を送り込んで、少しずつ効力を弱めていくのでございます……!


 えっと、例えるならば、そうですわねぇ……。


 時間が経ってベタベタになってしまったシールの糊部分に、熱々のお湯を少しずつ塗り込んで溶かしていくことで、全体の粘着性を弱めていくような……?


 そういった感じのイメージでしょうか。

 ご経験があるか分かりませんけれどもっ。



「ぐぬぬぬぬ……精巧に作り込まれているだけあって、なかなかに手強いですわね……」


 実際には抵抗を司る術式に対して、その都度その都度、反対の術式をぶつけることで無効化しておりますゆえ、見た目よりも相当に気力を使う作業となっておりますの。


 汗も疲労感もトンデモないのです。


 複雑な術式を複数組み込まれているからこそ、パズルのピースを一つずつ嵌め込むように、丁寧に解除していく必要があるのでございます……!


 ある意味ではここ最近で一番集中しているかもしれません。


 ただ単に全力ブッパをするだけならわりと簡単なのですが、むしろその逆、指先に込める魔力量を微調整しながら治癒魔法を展開し続けるという、果てしなく気の遠くなる作業をしなければならないのです。


 飽きっぽい私にとって最も苦手な分野の作業とも言えるのですが、人助け――もとい魔物助けの施術となれば話は別なのでございます。



「……ご気分のほうにお変わりはございませんでして? 半分まではこれましたの。違和感があればすぐに教えてくださいまし」


 唯一の幸いとしましては、解除に手間が掛かるとはいえ、私の理解を超えるような超難解な魔法式までは刻まれていなかったことでしょうか。


 女神教の主言語で書かれていた点も地味ぃなラッキーポイントでしたの。


 さすがに私ではエルフ族の文字や信仰精神を読み解くことまではできませんからね。



 でも、これではっきりしましたの。


 この世界のどこかに。

 女神教を悪用している方がいるってことが。



 ……ともかく、この戦いが終わったら女神様を問い詰めなくてはなりませんわね。


 さすがに知らぬ存ぜぬでは困りましてよ。


 女神様が世界中の一つ一つを全て聞いて判断しているわけではないでしょうが、こんな裏ワザ的な強制力を発揮する祝詞を放っておいてもらっては困るのです。


 だってほら、もはや女神様へのお祈りではなくなっているんですもの。


 言ってしまえばこちらは、制作者の都合のいいように解釈して改造された、新訳・女神経典の一ページみたいなモノだと思うのです……ッ!


 いくら護符自体が廃れかけた技術だとはいえ、世の中にまかり通っていていいモノではないと、私は確信いたしましたの。


 ふつふつと湧き上がる怒りとイラ立ちを熱意に変えつつも、私は丁寧に丁寧に剥がしてさしあげました。


 修道服姿の擬態生物(ミミクリー)さんの無表情は少しも変わっておりませんが、それでも少しずつリラックスしたお顔付きに変わってきたような気もいたします。


 さぁ、あと少しの辛抱でしてよっ。

 私が必ず解放してさしあげますゆえにっ!



 しかしながら、私の手が止まってしまいます。



「くぅッ! 最後の祝詞が一番厄介ですの……ッ! 誰がこんな気色の悪い文言を思い付けるんでしてッ!? 打ち消し用の術式が構築しにくいことこの上なく……ッ!」


 私の指先にバチバチという火花が散っております。


 ある意味では無限の記号を描くような、そんな回文じみた祝詞が刻まれてあったのです。


 解こうとすればするほど、逆に脇を固められてしまって術式が復活してしまうような……!


 あまりの解除難易度に私の脳がパンクしそうですが、途中で放り投げるわけにはいきません。


 頭をフル回転させて対処術式を練り上げますの。

 私は治癒魔法のエキスパートなんですもの……!


 まして女神様のご加護を受けている身で、治癒に関する弱音など吐けるわけがありません。



「所詮は紙切れに刻まれた限定文ですの……ッ! 女神様もお認めくださる天才聖女の手腕にかかればこんなモノぉ……朝飯前と言ってさしあげますのッ!!」


 ついにピッコーンと閃けました。

 頭のアホ毛がブンブンと揺れ動きます。


 とにかく必死に解除の術式を連続展開いたします!


 額に滲んだ汗が頬を伝わって、そのまま顎から垂れ落ちるようになった頃に、ようやく。



「……ふぅ。イケましたの。本当に手強いお相手でしたの。でももう大丈夫でしてよ。綺麗さっぱり、ほらこのとおり」


 キチンと剥がしてさしあげましたからね!


 私の手のひらの中にはしわくちゃになった護符の残骸がございます。


 無事に撤去が終了したことを笑顔でお知らせしてさしあげました。


 もうアナタは自由の身でしてよっ!

 擬態生物(ミミクリー)の少女さんっ!

 

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