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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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いいえ。ぶっちゃけ運だけでしたの

 

 私のお隣にちょこんと座る可憐な乙女さんを、今一度まじまじと見つめてさしあげます。


 肌の露出はそこそこ有るラフめな服装ながら、膝やら胸元やらはキチンと革製の防具で固めていらっしゃいます。


 ショートの赤茶髪がとってもキュートで、同い年の私から見てもとにかく魅力溢れる女の子さんですの。


 私のボンキュッボンな体型とは真逆に位置するスレンダーなお身体をお持ちですが、それはそれで好きな人にはトコトン刺さると思われます。


 需要が無いわけではないんですもの。

 世の殿方の好みは熟知しておりましてよ。


 彼女もまた、すれ違った男性十人が皆一様に振り向くであろう、絶世の美少女のお一人なんですから。



 エルスピカ・パールスター、19歳。


 50年に一度の務めを果たす、今代の勇者様でいらっしゃいます。



 好きな食べ物は甘いモノだそうで、いくら食べても太らないとのことで。


 まったくブ厚い聖典の角でブン殴りたくなるほど羨ましいご体質ですわよね。


 私なんて一口食べただけですーぐにお腹のお肉の糧になってしまいますのに……っ。


 そしてまた、先ほども申し上げたとおり誰がどう見ても子供と見紛うほどの細っそり体型ではございますけれども。


 幼い頃から同年代の男性よりも遥かに力持ちで、動きもとにかく素早くて、おまけに基本的な武術はほとんど体得なさっているという類い稀なる才能をお持ちでいらっしゃるのです。


 神は簡単に二物を与えてしまいましたの。

 彼女こそが天に望まれ恵まれた人ですの。


 そしてまた己の才に驕れることもなく、また甘んじることなく、数多の試練を乗り越え今に至っているのだと小耳に挟んだこともございます。


 私も百も二百も納得しておりますの。

 この点に関しては異論のイの字もございません。


 努力家成分にプラスして、元来から持ち合わせている人懐っこさと誰とでも仲良くなってしまえるような明るさが加われば、もはや彼女を嫌う人なんて世の中にいるわけがございませんの。


 時折世間知らずなところやピュア過ぎる一面が垣間見えたりすることもありますが、そういった足りない部分も含めて、全て可愛らしいの一言で片付けられてしまうのが彼女の一番の魅力と言っても過言ではないくらいです。


 彼女の愛らしさを裏付けるのは育ちの良さですの。

 何よりもきっとお家の影響が強いのだと思われます。


 パールスター家と言いますと、かつて二度(・・)も勇者をご輩出なさった名家中の名家なんですもの。


 三代目勇者様と五代目勇者様がそのお人ですわね。


 (くだん)の五代目が彼女の実のお祖父様でいらっしゃいます。


 ……残念ながら数年前に老衰で亡くなられましたの。


 国を挙げての盛大な告別式が執り行われたこと、今もしかと記憶しております。まだ修行中の身でありましたが、私も参列させていただきましたもの。


 スピカさんは先方から直々に剣技の稽古を付けていただいていたこともあり、血筋と経験と真面目さの相乗効果によって、まさに成るべくして今代の勇者様に抜擢されたというわけですわね。



 私とは血の高貴さが異なるのです。

 まさにケットウショ付きのご令嬢さんですの。



 焚き火の枝をツンツンと整えながら、勝手にお話を続けさせていただきます。


 

「私がスピカさんと初めてお会いしたのは……えっと? 確か、まだ13の頃でしたっけ」


「そうだね。あの頃のリリアちゃんはとにかく暗くて物静かな子だったよねー。いっつもムスーっとして無愛想で唇尖らせてさ。何て言うか〝私に近寄らないでオーラ〟を全開に醸してた感じ?」


「孤児院をたらい回しにされていた真っ最中でしたからね。その後に今の修道院に拾ってもらって、ようやく生活が落ち着きましたの。

……代わりにおかげさま(・・・・・)で色々とよいことよろしくないこと、先輩方に沢山仕込まれてしまいましたけれども」


「あっはは……その辺は私の知らない世界だなぁ」


 ええ、ピュアな貴女にはまだ早い世界だと思いますの。


 むしろ薄汚れた大人の裏の顔など人生の最後まで知らないでいてくださいまし。


 勇者様には輝かしい未来だけが待っていればよいのです。そうなるように、聖女の私が責任を持ってサポートしてさしあげますの。


 大船に乗ったつもりでドンと頼ってくださいまし。



 こっほん。そろそろ熱したパンにも焦げ目が付いてきた頃合いでしょうか。


 刺していた長枝を手繰り寄せて確認してみます。


 ……ふぅむ、もうあと少しですわね。


 チーズのトロけ具合も本当にあとちょっと、というところでしょうか。


 きっと今すぐに頬張ってしまっても問題無いのでしょうが、せっかくなら一番の食べ頃を味わいたいところですの。


 その為の我慢ならいくらでも出来るつもりです。

 というわけでもう一度火の近くに刺し直します。

 

 挟み込んだチーズが端からこぼれないように細心の注意を払っておきますの。


 今後はもう一瞬たりとも目を離す気はございません。



 と、思っていたのですけれども。


 視界の端っこに何やら浮かない顔をしたスピカさんが映り込んでしまいました。


 お話を私から振った以上、このまま勝手に放っておくわけにもまいりません。


 ちらりと疑問の意を込めた視線を送ってみました。


 見届けた彼女がフッと小さなため息をお吐きなさいます。



「……私の場合はさ。親の七光りっていうか家の七光りとか言われないように、とにかくひたむきに前向きにがむしゃらに頑張ってきたって感じなんだよね。

勇者見習いになるのと同じように、聖女様見習いになるってのもやっぱり大変だったでしょ? 重圧とか責任とか周りの人からの目とか。選ばれる為にもたっくさん修行してきたんだろうし」


「ふぅむ? いいえ。ぶっちゃけ運だけでしたの」


「うんうん、そりゃそうだよ――え、あ、運!?」


「ええ。ただの幸運、むしろ悪運とも呼ぶべきシロモノでしょうか……おぁっと! そんなことより今こそがパンの食べ頃ッ! この焼き具合を逃すは何よりも罪深きことッ! 続きの話は後回しですのッ!」


 再度突き刺した枝を地面から抜き取って、ほんの一瞬だけフーフーと息を吹きかけてから、思いっきりかぶりつきます!


 うぅっ……あっつぅぅ……けれども香ばしい焦げとチーズの濃厚な舌触りぃ……口いっぱいに広がる麦の芳醇な旨味ぃぃ……軽い火傷くらいならあとで魔法で治してしまえますゆえにぃ……今は最高の食事時を楽しむ他に選択肢はございませんわよねぇぇ……っ。


 ぅあっつぅぅ……んでもぉぉぉ……っ。


 んぁぁ……トロけるチーズ挟み焼きパン……んっまぁ……ですのぉぉ……っ。


 思わず顔も頬もふわっと蕩けてしまいますっ。

 

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