両者、静かな睨み合いが続きます
さすがにこのタイミングで双子がご登場、というのはあまりに唐突すぎるでしょうから、どちらか一方がアコナさんの格好をした偽物なのでしょう。
やや右前方にお一人、その左後方にもう一人。
両方のちょうど中間辺りにビシィッと指差して、そして声高らかに宣言してさしあげます。
「さぁご観念なさいまし! 貴女方の作戦、この敏腕聖女がまるっとビシッと解明いたしましてよ!」
敵さんの隠密作戦をこうして白日の下に晒してさしあげましたの。
お次は偽物の存在を暴きませんとね。
このまま終わらせるつもりはないですの。
私の真実化魔法は、単に結界魔法を解除するだけのモノではありません。
もしもお相手が擬態や偽装の類いを行っているのであれば、それもまとめて引っ剥がしてしまうという一度で二度美味しい便利魔法なのでございます!
普段遣いができれば便利なんですけれども……。
ちょっと扱いが難しい魔法なんですのよね。
工程の複雑さから、使う際は女神様へ正しく祈りを届けねばいけませんの。基本的には私の奥の手の一つとして分類させていただいております。
もちろん効果はピカイチですの。
ほら、実際見てみてくださいまし。
左手奥側のアコナさんの姿形が少しずつ変わっていったではありませんか。
エルフ族特有の薄い色素の肌から、私と同じような健康的な肌色になってきましたの。
そしてまた、つい先ほどまではそこそこ露出の激しい衣服を着ていらしたのですが、今は逆に肌色の少ない――こちらは白いローブでしょうか――服装になろうとしているのです。
女神教徒の衣装と似てはいるのですが、私の知らない独自のアレンジが加わっているようで。
あの服はさすがに白すぎますの。
逆に目立って清貧さに欠けるのです。
私の黒や濃紺を基調としたお淑やかな柔道服とは真逆の趣旨を感じられてしまったのでございます!
やがて、変形が完全に止まりましたの。
背格好から判断すれば女性だと思われるのですが、残念ながら髪も顔も深いフードに覆われて隠れてしまいましたゆえ、個人を特定することまではできなさそうですの。
それでも尖り耳が収まっていくところまでは見えましたから、ふぅむ……アレはおそらく。
「アナタ、もしかしなくてもヒト族ですわよね!? アナタもアコナさんと同じ〝反・魔王派〟に与する者なんですの!?」
強く問いかけてみましたが、残念ながら回答は返ってきませんでしたの。
完全な、無視ですわね。
全く動じていないと言わんばかりに少しも身動きをせず、ただひたすらに無言を貫きなさるばかりなのでございます。
その代わりに、なのでしょうか。
「なるほど〜。リリアーナさんも、ただの無能なマスコット聖女ではなかったということですか〜。これは一本取られてしまいましたねぇ〜。
それに私の麻痺毒も効いていないご様子。いやはやキショク悪いコトこの上ないですねぇ〜!」
姿形の変わらなかったほうのアコナさんが、やや興奮気味にお口を開きなさったのです。
きっとこちらが本物ですの。
お手元の舶刀の刃先を眺めては、毒液がキチンと塗られていることをご確認なさっていらっしゃるようです。
ふっふん。残念でしたわね。
私に毒が効きにくいのは、女神様から数多のご加護を受けているおかげ、そして私の中にほんの少しだけ流れている魔族の血のおかげなのでございます。
おまけに一度、アナタからは似たような神経系の麻痺毒を食らったことがありますし。
身体に耐性ができ始めているも同然なのですっ!
こう見えても普通のヒト族よりはずっと丈夫なつもりですの。
外見からでは分からないでしょうけれども!
もちろん手の内を明かしてさしあげられるほど私たちに余裕があるわけでもありませんゆえ、アナタ方と同じように無言を貫かせていただきましょうか。
願わくば私の毒耐性の高さを、私たちの毒耐性の高さと誤認していただければありがたいですの。
あの麻痺毒が厄介であることに変わりはないのですから。
両者、静かな睨み合いが続きます。
今のこの膠着状態のうちに、ミントさんとスピカさんの傷と疲れを癒してさしあげましょうか。
お相手への出し抜き合いならまだしも、単なるスタミナ戦なら負けるつもりはありませんでしてよ。
魔力にもまだ限界は来ておりませんゆえ。
アコナさん側にはバレないように、最小の動きで味方の二人に治癒の光を照射を始めます。
堂々とはできない分、効き目は少ないですゆえ、時間稼ぎも行っておきたく思いますの。
「さぁ、どうなさいますの? 実際問題、形成逆転かと思われますけれども。これでもうセッコい奇襲は効きませんでしてよ!」
ふふんと鼻を鳴らしてドヤ顔を見せつけてさしあげます。
一時的とはいえ、アコナさんとは一緒に寝泊まりしていた時期もありますの。
私の治癒能力の高さはご存知でしょうから、長期戦は不利だとご理解されているはずです。
「まさか、バレてしまうとは。どうしましょうねぇ〜? ここは退いておくべきでしょうか? とはいっても街の中にまで逃げられてしまっては、さすがに私では手を出せなくなってしまいますからねぇ〜」
相も変わらぬ糸目で微笑みながらも、目元にシワを寄せて苦笑い気味になっていらっしゃいますの。
やはり、神聖都市にさえ潜り込めれば、ひとまず身の安心は確保できそうですわね。
エルフ族であるアコナさんはそこまで自由に動き回ることができないのでございましょう。
女神教徒に非ずんば、人に非ず。
神聖都市はかなりの選民思想をお持ちとミントさんから伺っております。
ましてエルフ族は精霊信仰が主だと世の中に知れ渡っておりますゆえ、立ち寄るだけでも怪訝な顔をされてしまうのでございましょう。
昔から排他的な種族でもありますゆえ、大森林の外側には同族のお仲間は多くないはずですの。
つまりはここが正念場ってコトですわね……!
戦わずして退けるもよし、スピカさんとミントさんのおチカラを借りて、真正面からぶちのめしてさしあげるもよし……!
どちらに転んだとしても、私は頑張りますのッ!