言わば〝真実化の魔法〟ってヤツですわね
よっこいしょっ……とッ!
自由になった自らの足で大地に立ってみます。
踏み込み上等、ふぅむふむ。
とりあえず大丈夫そうですわね!
青々とした草原の感触が靴の裏からでも容易に伝わってきております。
そのままグーっと大きく伸びをいたします!
ああ、やっぱり心地いい外気ですの……っ!
大森林の外側に出られたからこそ、感じられる気持ちの良さにちがいありません。
そしてまた、アコナさんに邪魔される筋合いだってないのでございます。
私、改めて再確認いたしましたのッ!
こんなところで足踏みをしている暇などありませんわよねッ!
「こっほん。私だってただ闇雲に横たわっていたわけではありませんでしてよ。さぁさぁ準備は整いましたの。見ていてくださいまし! もちろん私のお背中は守っていただきながら!」
「はいはい。手のかかるザコ聖女様だこと」
悪態を吐きながらも頷いてくださいます。
安心して自分の役目を果たせそうですの。
「……ふぅむ。それでは始めますの」
胸に手を当てて、女神様に祈りをお捧げいたします……!
ここ最近はずっと口の中で祝詞を呟くだけでしたが、久しぶりに声高らかに唱えてさしあげましょうか。
そのほうがずっと高い効果を得られますものね!
「……お空の上におわします女神様。どうか聞こえているなら応えてくださいまし。
この敬虔な貴女の従僕に、ありったけの魔力操作能と、炯眼の益をお与えくださいまし……ッ!」
拳をギュッと握り締めながら唱えます。
今回の祝詞は普段のモノとは少し異なりますの。
ほとんど完治し終えた私に治癒魔法の強化補助は必要ありませんからね。
今欲するべきは浄化のチカラなのです。
敵さんの作戦やら思惑やらを赤裸々にッ!
全てをこの白昼に晒し尽くすためにッ!
早速ながら私の祈りが受理されたのか、身体の周りを真っ白い光が包み込み始めます……!
治癒を司るチカラは緑色の光を放つことがほとんどなのですが、一方の聖なる力は白や金色の光を纏っていることが多いのでございます。
今回のはご多分に漏れず、純白ですの。
浄化の分野は特に聖なる魔法ですゆえにっ。
「これより聖女の聖女たるチカラをお見せいたしましょう。偽りも誤魔化しも全て無効化する――真なる浄化の魔法をお見舞いしてさしあげましてよ、ふふふふふ……!」
「うげっ。まさかアンタ、あの亀モグラにブッ放したヤツ、またやるつもりなの? アタシらも無傷じゃ済まないと思うんだけど……」
何故だかドン引きされているご様子のミントさんがこの瞳に映り込みましたの。
けれどもご心配なく。
もちろん考慮しておりますゆえに。
「ちっちっちっ。ところがどっこい、今回の魔法は物理的に作用する類の浄化魔法ではありませんでしてよ〜。お二人に実害はありませんの。おそらくですけれども」
「イヤおそらくじゃあ困るんだけど!?」
「だ、大丈夫ですの大丈夫ですのっ。例えば得体の知れないチカラで衣服を形成しているだとか、常に認識阻害魔法で身を覆っているだとか、そういうコスいコトさえしていなければ、基本的には人畜無害な魔法となっておりますゆえにッ!」
少なくともミントさんやスピカさんがそういう類いの魔法を使っていないことを、私は存じ上げているつもりでしてよ。
ゆえにコレは私たちの敵さんにだけ作用する浄化魔法というコトですのッ!
言葉の言い切りと共に、右腕をグッと天に掲げます。
そして固く握り締めていた拳をパッと解き放って、それから頭の中に噴水をイメージいたしますの。
すると、どうでしょう。
開かれた手のひらから光の粒が噴き出して、私を中心に大きな放物線を描きながら周囲へと広がっていくではありませんか……!
いや、そうさせているのが私当人なんですけれどもッ!
効果範囲も形状も全て私がコントロールしているんですけれどもッ!
「えっと、リリアちゃん。この光は?」
「触れたモノ全ての付加効果を解除する――言わば〝真実化の魔法〟ってヤツですわね。ぶっちゃけ結界魔法の反対みたいなモノですの。
あくまで効果は解除のみで、浄化魔法のような現象そのモノを消滅させるまでのチカラは有しておりません」
だからおそらく大丈夫と表現させていただいたまででしてよ。
とはいえ女神様のご加護によって、効果範囲をここから見渡せる全ての場所にまで拡張してみましたの。
多少の認識阻害魔法などは全てお見通しにできちゃったりいたします。
ほーら、見てみてくださいまし。
言ってるそばから露見し始めたでしょう?
私の仮説の中にあった認識阻害のエリアが、それはもう点々と。
「なるほど、たまにはアンタの仮説も信じてみてもいいかもしれないわね……」
「えっへんっ。ですのっ」
胸を張ってドヤついてさしあげます。
ヒト一人が辛うじて通れそうな細い小道が、光の粒によって目視できるようになりました。
おまけに認識阻害の魔法が掛かっている部分だけ光の粒が色濃く集まっておりますゆえに、どこが範囲内だったのか一目瞭然なのでございます。
どうやら蜘蛛の巣のように周囲にあちこち張り巡らされていたようですの。
しかも一定の間隔で途切れさせてもありましたゆえに、偶然中に足を踏み込めたとしても、別の場所に隠れている存在を感知することまでは難しかったと思われます。
……いやはや、この魔法を戦闘の最中に設けられたのであれば、術者はかなりの結界魔法の手練れと言えますでしょうね。
隠密に長けた者、という表現はあながち間違いでもなかったのかもしれません。
やはり厄介極まりないお相手ですの。
「ほらお二人とも。ココ、見えまして? やっぱり私のすぐ後ろにも潜伏地点がありましたでしょう? きっとこの地点にまで回り込んで、それから隙を窺って私を襲ったのかと」
今はもうそこには人影はないですゆえに、背中を狙われる心配はありません。
むしろこの真実化魔法によって、隠れていたアコナさんを目視で捉えることに成功したのでございます……!
少し離れた位置にやっぱりありましたの。
アコナさんのお姿が二つも、ですの……!




