……我ながら、本当に情けないですの
「ッ! リリアちゃんッ!?」
急に足にチカラが入らなくなりましたの。
そのまま膝から崩れ落ちて、地面にパタリと倒れ込ん――
「ザコ聖女ッ!!」
いえ、倒れ込むまではいきませんでした。
ミントさんが瞬間移動して支えてくださったのです。
出現と同時に回し蹴りをして、更なる連撃を加えようとしていたアコナさんに牽制の一発をぶちかましなさったのが視界の端に映ります。
けれども……ふぅむ……。
目に映せたのはそこまででさたの。
目が……じわりと霞んできましたの……。
おそらくこの症状は毒に侵されてしまったことによるものなのでございましょう。
おまけに背中がズキズキと痛むのです。
あの鋭利な刃物で修道服もろとも斬りつけられてられてしまったようで、幸いにも傷は浅そうなのですが、今も血が滲んでいるような気もいたします。
「しくったわ。まさかアンタが一番に不意打ちを喰らっちゃうとはね。いつもなら適当に笑い飛ばしてやってるところなんだけど、大丈夫そう?」
「……ええ。少しばかり頭がガンガンといたしますけれども……多分……コレくらいなら、ギリ大丈夫ですの。しいて言うなら、手足が痺れてまったく動けないって感じですわね」
「そっちのほうが大問題よ、まったく」
そうだと思いますの。自分でも。
それでもたった今自身に対して治癒魔法を施し始めてみましたゆえ、もうしばらくじっとしていれば自力で動けるようになるはずです。
女神様のご加護を舐めないでくださいまし。
そして今代の聖女も、ですの。
伊達にこの肩書きを名乗っているつもりはありません。
我ながら自己治癒能力に関してはピカイチだと思いましてよ。ただ単に筋力とスタミナがないだけなんですの。
「……こっほん……私を庇いながらの戦闘は、やはり大変になってしまいまして?」
「そりゃあね。でも、それでいいのよ。むしろ寝転んでてもらったほうがかえって百倍動きやすいってもんよ」
「……本当にすみませんの。解毒を終えたらすぐにお二人用の治癒魔法を展開いたしますゆえ、もうしばらく辛抱してくださいまし」
「バーカ。なーにカッコつけて気負ってんのよ、アンタらしくもない。せいぜいアタシらの華麗な活躍に嬉し涙を流しめおきなさい」
フン、と誇るように鼻を鳴らしたのち、ミントさんは改めて周囲を警戒するために、スピカさんと背中合わせになられましたの。
早く私を安心させたかったのか、いつも通りの余裕そうな笑みを見せてくださいましたが、その手はいつも以上に固く握り締められております。
プレッシャーのためか、それとも敵討ちに燃えてくださっているのか……。
どちらにせよ私がまた足を引っ張ってしまったことに違いはないのです。
……我ながら、本当に情けないですの。
私がもう少し前線で気兼ねなく戦えるようになっていたら、お二人に余計な負担をかけずとも済みましたのに。
……ふ、ふぅむ。ダメですのっ。
思考の悪循環に陥りかけておりますのッ!
これ以上お荷物にはなりたくありませんゆえ、今はとにかく自己治癒に専念させていただきます。
この戦場の真っ只中ですが、じぃーっと目を閉じて傷口と体内の毒に集中いたします。
外界から受ける感覚を極力シャットアウトして、代わりに己の感覚を全てそちらに向けるのでございます……!
患部の鎮静化と毒の無効化を行いませんと……!
ひとまず頭の中に針と糸とを想見いたしました。
光り輝く魔法の針で、背中の傷口を少しずつ縫合していくのです。
もちろん想像上のお話ですゆえに実際に縫っているわけではないのですが、こういう治癒時は鮮明なイメージを持てていればいるほど、傷の治りも早くできるのでございます。
毒の無効化なんてのは完全に塗り薬と同じ感覚ですわよね。
患部に善なる魔法をぬりぬりすることで、表面の毒を拭い去ると同時に薬も塗布することができるという……とにかく便利な想像をいたしますの。
かなり強引なイメージですが、大きな焼きゴテで無理矢理傷口を烙印してしまうというのも案としては悪くありません。
とにかく傷口をまるっと覆える何かさえイメージができれば、その範囲に対してより詳細に照準を合わせることに繋がって、より強力な解毒魔法を展開できるようになるのでございます……!
私の編み出したとっておきの、言わば今代の聖女の〝表〟の必殺技ですわね。
ちなみに〝裏〟の必殺技は〝重さの異能〟となっておりますゆえに、ご承知おきをば。
更にちなむと、今この地に突っ伏した状態でも異能を発動することはできるのですが、瞼の向こう側の世界がどのようになっているのか分かりませんゆえ、発動は最低限身体を動かせるようになってからにいたしましょうか。
今はただひたすらに頭と魔法を動かすのでございます。
……ふぅむ。
あと、そういえば、なんですけれども。
なんか引っかかることがあるんですのよね。
思えば、妙で仕方ないことがお一つほど。
スピカさんもミントさんもフルで警戒なさっていらしたと言いますのに、どうしてアコナさんは私の背後に忍び寄れたんですの?
さすがにこの私が無警戒じみていたとはいえ、戦闘の最中に敵さんの動き出しの気配を完全に見逃すほど、どんくさいつもりはないのでございます。
……いやはや、なーんかタネがありそうですの。
私たちがこの戦闘の最中において特段触れようとしてこなかった盲点にこそ、本日最大のヒントが眠っていそうな……何故だかそんな乙女の艶勘が働いて仕方がないのでございます。
ふぅむふむ、ふむ。
……あら?
そういえば、ですけれどもっ!
最初にアコナさんと一緒にいらした〝情報伝達役〟の非戦闘員さんは、今はどちらに消えてしまったのでございましょうか。
逃げ足が早いとは話していらっしゃいましたが、戦闘の最中にいなくなってしまってはそれこそ結果の報告ができなくなってしまうはず。
まして私たちが勝ってアコナさんを退けてしまえば、その後の足取りなんてのは完全に追えなくなってしまうはず……!?
もしかしてこの戦闘は三対一ではなく、スタートの時点から元々三対二だったりして……?
やーっぱり! なんだかキナ臭いですのっ。
修道服のベールに隠された私のアホ毛センサーがビンビンと反応し始めているのでございます……!
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