クッ……厄介な連携攻撃ですねぇ〜ッ
アコナさんの動向に警戒しながらも、更に続けさせていただきます。
「彼女の十八番はおそらく、麻痺毒の中でも神経系に作用するタイプのモノですの。気付いたときにはもう遅くて、身体を少しも動かせなくなっているのです……!」
私もあのときは女神様のご加護のおかげで他の人よりも早めに回復できましたが、何の祝福も備わっていなければ、長い時間、無様に気を失っていることしかできなかったはずです。
ホントに蛇に睨まれた蛙のように動けなくなりますの。
アコナさんは蛇のようなお人ですの……っ!
優しい顔をして、その実は私たちの敵で……ッ!
「遅効性の経口摂取毒でその症状だってんなら、即効性の毒の効果なんて考えたくもないわね。
……一応なんだけど。もしものときは頼むわよザコ聖女。無傷でイケそうなほど、今回の相手は柔じゃなさそうだからさ」
「お、お任せくださいましっ! 私の全力の治癒魔法は、巷の治癒魔法とは比較にならないほど効きますゆえにっ!」
聖女たる私の献身性を見せつけてさしあげますの!
先日の対亀モグラ戦は相手が動かなかったから私の独壇場だっただけで、格上の相手には手も足も出ないってことを、私は重々に理解しているのです。
弱さを知っているからこそ強いのです!
開き直りが一番の成長の鍵なんですのッ!
「っつーわけで、アタシたちの背中はザコ聖女が守ってくれてるわ。気にしないで一気に攻め込んでやりましょ。多少の誤爆も許したげる。ザコ勇者の好きに動いて構わないから」
「おっけぇー! そう言ってもらえると気が楽かも! ちょーっと本気出しちゃうからねー!」
腕をブンブンと振って、スピカさんがやる気を露わになさいます。
どうやらパワー不足感に対しても吹っ切れられたようですの。
スピカさんは伸び伸びと動き回っているときのほうが活き活きとしていらっしゃいますし、英断だと思います。
ホントに、私たちのことをよく見ていらっしゃいますわね。ミントさんって。
「フン。可能な限り、合わせてみせるわ」
サラリと髪を靡かせて、キメ顔をなさいます。
くぅぅーッ! もはやカッコいいを通り越してズルいですのっ。
大人なお姐さんって感じがするんですのッ!
私もお姐さんムーブやりたいですのーっ!
あ、でも、興味本位でやってみたところで空回りしてしまうのが目に見えておりますゆえ、今は地道に自分の役割をこなしておきましょうか。
お先に女神様への讃美祝詞を口の中で唱えておいて、いつでも治癒魔法を発動できるように構えておきます。
「ささ、いつでもどうぞ、お二方」
「「了解ッ!」」
返事と共に、いち早くスピカさんが姿勢を低く構えなさいましたの。
すると、次の瞬間ッ!
少し離れたアコナさんのところにまで、一直線に草原に細い道が生成されたのでございますッ!?
突然のことすぎてビックリいたしましたの。
こちら、スピカさんが目の前にある障害物全てを小剣でメッタ斬りにしながら、ものすごいスピードで一目散に駆け出していった跡だと思われますッ……!
まるでつむじ風のようでしたわね。
細切れになった草葉が遅れてサラリと宙を舞って、今になってふわりと風に乗って散っているくらいなのです。
もはや私の目ではスピカさんのお姿を目で追うことは叶いません。
いや、それでも咄嗟に舶刀でガードなさったアコナさんも、それはそれでどんな反射神経をしてるんですのってお話ではありますけれども……。
情けないですがそんな他人事な感想が出てきてしまうくらいのビックリ光景だったのです!
「……へぇ、やるわね」
一瞬、見惚れていたミントさんでしたが、彼女も負けじとスッと駆け出しなさいます。
さすがにまったく同じスピードでは走れませんでしょうが、ミントさんには彼女特有の特殊能力があるのです。
現に今、私の耳にはシュピンッシュピンッという空間を切るような音が聞こえてきております。
〝転移の異能〟を繰り返し発動することで、文字通り右や左に、つまりは不規則的に出現と消滅を繰り返して、的を絞られないように動いていらっしゃいますの。
こちらは攻撃前の予備動作を見せなくするメリットもございますゆえ、スピカさんの連撃の隙間を縫って、別角度からの攻撃も可能となるのです!
ふっふっふんっ!
ほら見てくださいましっ。
非力な女子二人であっても、超絶スピードタイプのお二人が上手く力を合わせれば、こんなにも予測不可能なタイミングと角度で連撃を繰り広げられるのでございますッ!!!
「クッ……厄介な連携攻撃ですねぇ〜ッ」
イイですのっ。
効いているみたいですのっ。
平面的な剣撃はスピカさんが、立体的な打撃はミントさんが担当することによって、本当にアコナさんに休むタイミングを与えませんの。
定期的に周囲に鳴り響く金属音が、この戦闘が白熱してきたことをお知らせしております……!




