何と言いますか、ぬらぬらともテカテカとも……!
「なるほど、少しは連携という言葉を覚えたようですねぇ〜。そちらから来られないのであれば、こちらから仕掛けさせてもらいましょうか」
彼女の糸目の向こう側に、一緒だけ瞳が見えたような気がいたしましたの。
それが、開戦の合図でございました。
瞬きの間に、屈むように体勢を低くなさいますと、その手に持っていた舶刀を逆手に構えながら突進してきましたのッ!
ひとまず後衛の私目当てでないようですのでホッといたしましたが、一息ついている暇はありません。
致命の一撃であっても即座に回復できるよう、口の中でお祈りを呟いて、いつでも治癒魔法を唱えられるようにしておきます。
「……グッ……おっもっ……ッ!」
「アナタの弱点はその非力さにあると、毎日のように教えてさしあげましたよねぇ〜?」
「それは、そう……だけどッ!」
ガキィィインッ! というつんざくような金属音が周囲一体に鳴り響きます。
スピカさんが咄嗟に小剣で攻撃を受け止めたようですが、体格差的に分が悪いようで、そのままジリジリと押されてしまっておりますの。
しかしながら、すぐさま横からミントさんのフォローのローキックが飛んでまいりますッ!
刃の届かない、かつアコナさんの死角から攻めた絶妙な角度の攻撃ですのッ!
「あらあら、後ろから攻めるのは少々卑怯ではありませんか〜?」
けれどもいち早く察知されて、真上にジャンプされてかわされてしまいますっ。
去り際に体勢を崩されてしまうスピカさんでしたが、すかさずミントさんが手を伸ばして引っ張り上げてくださいました。
なかなかよろしい連携ですのっ。
「まったく。ヒト族の身体なんて基本的にザコザコの貧弱ゥなんだから、別に気にする必要ないわよ。アンタはアンタの長所を伸ばしなさい。あんなヤツの言葉に、傾けるだけ無駄ってモンだわ」
「み、ミントさん……ッ!」
清々しいほどの笑みまで見せてくださいます。
きっとお久しぶりのバトルによって気が大きくなっていらっしゃるのでございましょう。
でも、こういうときに頼り甲斐のあるミントさんは、やっぱり私たちの姐御さん的な存在だと思いますのーっ!
さすがは亀の甲より歳の功……っと、こちらは言葉にすると怒られてしまいますわね。
失敬失敬、ですの。
ミントさんが勇ましくお続けなさいます。
「それにね。アタシもアイツに一言物申してやりたいのよ。アタシらが卑怯だってんなら、そっちだって一緒じゃないの?」
「ふぅむ? でも、三体一という構図はさすがに……」
「それはそれ、コレはコレ。いい? おそらくなんだけど、あの刃には毒か何か塗ってあるんじゃないかしら。さっきから照り方が妙なんだもの」
「ふぅむっ!?」
確かに言われてみれば、スピカさんのお手元の小剣と比べてみますと、あちらのほうがやたらと陽光を反射させているようにも見えますの。
何と言いますか、ぬらぬらともテカテカとも……!
さすがに液体が滴るまではいきませんが、何か液体が塗ってあることは間違いなさそうなのです。
「あらあら〜。そちらの女性はガサツなように見えて、なかなかに鋭い観察眼をお持ちのようで〜。
ふふふふふ〜。ご明察のとおり、この剣先にはドラゴンでも即座に動けなくなる、超強力な麻痺毒を仕込んであるんですね〜」
「「ま、麻痺毒ッ!?」」
「ええ。私は事前に解毒剤を飲んでいますから大丈夫ですが、はてさて、か弱いヒト族のアナタ方なら、どうなってしまいましょうねぇ〜?」
いやらしく微笑みなさいましたの。
ど、どどどどうなるも何も、ただのか弱い乙女が毒を受けてしまっては、一瞬でバタンキュー間違いない、超ド級の厄介毒だと思いますのッ!
下手したら急性の発作が出て、呼吸困難にも陥って、わけも分からぬままジ・エンドを迎えてしまう可能性だってあるのです!
医療の分野もかじっている私から言わせていただければ、少なくとも生身のヒト族であれば、まず避けるべき危険物であると断言できましょう。
私は女神様から数多の加護を受けておりますゆえに毒の巡りはかなり遅いほうですが、それでも劇毒には間違いありません。
「……なるほど、やっぱり厄介極まりなさそうね」
「ええ。そもそも、あの人には底知れない怖さがありますゆえ。全てが油断大敵ですの。いやホントに」
ミントさんと共にゴクリと息を飲み込みます。
考えてみれば、殺人眠りキノコの胞子もある意味では毒と同じようなモノだったかもしれません。
そしてまた、今なら分かりますの。
私はかつて、アコナさんの麻痺毒をこの身をもって経験したことがある気がいたしますの……ッ!
「こっほん。参考になるかどうかは分かりませんけれども。私は以前、あの人の毒キノコスープを実際に食したことがありますの」
「えぇっ!? いつ!?」
「いいわ、そのまま続けて」
終始冷静なミントさんと、嘘でしょ信じらんないっ! というお顔でこちらを見つめるスピカさんでしたの。
あのときはもう、スピカさんはぐっすりと眠っていらっしゃいましたからね。
私の場合は中途半端に自然解毒していたせいか、目が覚めたときにはもう全身が鉛のように重たくなっておりましたの。




