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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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さすがの女神様も目を瞑ってくださいましょう

 

「大前提としてさ、私たちの旅ってそこまで急ぐものでもないんだよね。そりゃ予定よりも早く着いちゃっても全然問題はないと思うけど、期限内に辿り着いちゃえばいつでもイイって話だったし」


「国王陛下も〝なるべく期限ギリギリを狙って休戦協定を更新してくるべし〟とオーダーなさってましたの。

正直、途中で何度か足止めを食らっても大丈夫なくらいの時間はある気がしてますの」


「実際、その通りっちゃその通りなんだよなぁ」


 どちらかと言えば私たちには俊敏性よりも確実性のほうを期待されているはずです。


 ホントに切羽詰まっていたのであればもっと激しめに背中を押されていたでしょうし、そもそも資金や資材の提供も惜しまれなかったでしょうし。

 

 幸か不幸か、私たちの生まれたこの時代は既に仮初の平和が築かれておりますの。


 だからこそ先ほどのアルバンヌの村でもゴブリンさん(多種族さん)と平和的な交流を選べるだけの余裕があったのです。


 もしもただ今が魔王勢力との戦争の真っ最中であれば、互いの主義主張に関係なく討滅を選ぶしかなかったはずでしょう。


 冷たくて、よそよそしくて、繋がりも何も必要としない……そんなつまらない未来はイヤですの。


 私は人の温もりを何よりも大切にしたいのです。


 歴代の勇者と聖女に与えられた使命はこの仮初の平和を維持し続けることですの。


 初代勇者様(約300年前)から続く伝統を後世にまで引き継ぐ必要がありますの……!



「……それでも、一応はその最短のルートとやらも聞いておきましょうか。判断材料は多いに越したことはありませんし。何だかスピカさんが話したそうにしていらっしゃいますし」


「えへへ。分かっちゃう? こういうルート考察ってワクワクしちゃうんだよね。ただの一本道だとつまんないかなって」


 ご機嫌そうなスピカさんがぽふんと手のひらを打ったかと思いますと、すっくとしゃがみ込んでは砂利道に絵をお描き始めなさいましたの。


 私もまた、まじまじと見つめさせていただきます。


 おっきな丸が一つと、それを迂回するかのように、細かな丸が連なるように転々と。



「えっとね。とりあえずの時間的な効率を考えたら、まず間違いなく大森林直通ルートを行くべきなんだよね」


「時間的な効率、ですの?」


「そそっ。今回の滞在で長旅用のグッズもだいたい揃えられたわけだしさ。貰った食べ物が底を尽きちゃったとしても、その場その場で現地調達していけば案外イケそうな気するじゃん?」


 どこからその自信が湧いてくるのかは分かりませんが、なかなかの笑みを浮かべていらっしゃいます。


 ウキウキなお顔でお言葉をお続けなさいます。



「つまりは寄り道せずにとにかくまっすぐ進む最短ルートってことだね。お金をあんまり使わないで済むってのもプラス材料ではあるのかな。大変そうだけど」


 まさに旅の醍醐味が味わえそうだよね、と最後に一言お付け加えなさいました。


 本日イチの満面の笑みを浮かべていらっしゃいます。


 冒険的な行為は元来からお好きなのでございましょう。


 確かに仰る通り、自給自足なキャンプ生活は楽しそうではありますが、その分文明からも遠ざかってしまいますので予想もし得ない苦労が待っていそうな気もいたします。


 もしかして、場合によってはその辺に生えている色鮮やかなキノコとかも口にしなければならない感じですの?


 私の扱える治癒魔法にだって限界はあるんでしてよ?


 ただの腹痛毒くらいならまだしも、幻覚や卒倒レベルにまで至っていたら難易度が軽く跳ね上がりますの。


 それにいくら今が平和な世の中だとはいえ、一切の危険がないわけではございませんからね。


 人里から離れれば離れられるほど、魔物に遭遇する可能性だって上がってしまうのです。


 魔物さんの中には一切のお話が通じない方々だって沢山いらっしゃるんですもの。


 今回のゴブリンさん方は運良く(・・・)理性のある方々だっただけですの。


 イザコザこそ起こりませんでしたが、これが血気盛んな魔物さん方であったらもっと大事(オオゴト)になっていたかと思われます。


 他にも休戦を是とする現魔王の意には沿わない〝反魔王派〟に属していたりだとか……人間に対して必要以上に恐怖や敵対心を抱いてしまっていたりだとか。


 人間も一枚岩ではないように、魔物(彼ら)にもまた彼らなりの信条や事情があったりするのです。



「ふぅむぅ……大森林に入ったら確実に野宿をしなければなりませんのよね?」


「そりゃあね。言っちゃえば大森林は人間にとっては未開も同然な場所だもん。

いずれにせよ何をしたって避けては通れない道なんだったら、早めに早めに過酷な環境に慣れておくのもアドバンテージだろうなってのは思う」


「むぅ……それも確かに……」


 なるほど、どのみちいずれ野営は必要になりますのね。


 早めに経験しておけばいざというときに焦らなくて済む、というのは極当たり前なことですの。


 この子の言うことは何一つ間違っておりません。

 好みと経験の差もあるのかもしれませんけれども。


 いくら私が超絶有能な聖女様であって、そしてスピカさんもまた稀代の女勇者様であったとしても、苦労と苦難は少ないことに越したことはないと思ってしまう自分もおりますの。


 まだまだ始まったばかりののんびり乙女紀行ですゆえに、余裕がある最初くらいは夜も安心して眠っておきたいというのが率直な感想ではあるのです。


 ヒリつくようなスリルを味わい始めるのは、もう少し旅に慣れてきてからでもよろしいかなぁ、なんて。


 さすがに甘えたちゃんな考え方でございましょうか。



 ……そして何より、文明から長らく離れるということは、私の中の殿方好き好きエネルギーが枯渇してしまう恐れがあるのでございます。


 こちらはとにかく定期的な補充が必要なんですのっ。

 不足したら私のパフォーマンスダウン間違いなしですのっ。


 元来の出不精ゆえに人混みの中は好きではありませんが、まったく人と交流をしないというのもそれはそれで悲しくなってしまう面倒な質なのです。


 せめて数日に一回くらいはイケメンさんのご尊顔を拝ませてくださいまし。


 そしてあわよくば美味しいご関係(・・・・・・・)にまで発展させてくださいまし。


 常に我慢やお預け状態でいるというのも健康面によろしくないと思うんですの。


 私のお肌の艶や潤いだけでなく、魔法操作やパフォーマンスのほうにまで影響が及んでしまう可能性が大なのです。


 避けられるのであれば避けておきたいですのよね。



「……こっほん。結論を急ぐ前に。後者の〝最寄り街を転々としていくルート〟はどのようなメリットやデメリットが考えられまして?」


「野宿よりも安全な分、何よりもお金と時間が掛かるかな。各街のお宿に泊まるんならもちろんそうだし、場合によっては関所の通行料とかも払う必要があるかも。簡単には切り離せない問題だよね」


「確かに、そっちもある意味では死活問題ですの」


 お金稼ぎをするためにはある程度街に滞在し続けなければなりませんでしょうし、時間とお金は簡単には切り離せない間柄だと言えましょう。


 安心と安全をお金で買うとも言い表せそうですの。



「あ、でもアレだ。定期的にお風呂には入れると思うよ」


「くぅぅぅ。それは何よりも魅力的なご甘言んんんっ」


 むしろ心が揺らぐ隙も生じ得ないくらいにそちらを選ぶしかない気さえしておりますの……っ。


 聖女にとってお風呂とは何よりも身近にあってほしい神聖な儀式場と言っても過言ではありませんもの……っ!


 最悪温浴までは叶わずとも沐浴(水浴び)さえ出来れば私としては文句ありませんのォ……ッ!



「おっけですの。決めましたの。問答無用に後者のルートを採用させていただきますの。お金のほうはこれから頑張って工面していけばよろしいのですっ!」


 ビシィッと天に腕を掲げて宣言いたします。


 一瞬、パンの袋がまるっと宙に浮いてしまいました。


 ハッと途中で気が付いて袋ごと掴み直します。


 い、今のは本当に危なかったですの……!

 キャッチに失敗してたら地面に落としてましたの。



「あっはは。でもリリアちゃんならそう言うと思ってた」


「あら、やっぱり?」


 さすがスピカさんは分かっていらっしゃいますわね。


 あくまで生活に必要なお金稼ぎであれば、たとえ私が敬虔な修道女であっても不問にしていただけるはず……っ!!


 さすがの女神様も目を瞑ってくださいましょう。

 っていうか黙認していただかないと困っちゃいますの。


 だ、だって定期的な身清めはモテる乙女の絶対条件ですゆえにぃぃ……ッ!!!


 綺麗好きな私には必要不可欠な行為なのでございます。

 

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