今更自分を棚に上げたところで意味ないわよ
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はてさて。
私たちはミントさんと合流してから、早々に身支度をまとめましたの。
そうして当日の間に、エルフ族の殿方お二人に、実際に集落に招き入れていただいたのでございます。
森の木々を抜けた先に集落がありました。
道中、下草がだいぶ減ってきておりまして、もはやかなりの土肌が見えるようになっておりました。
ココは草木も生えない不毛の地ということでして?
「は、はぇー。ここがアナタ方のお住まいの集落なんですのねぇ。えっと、何と言い表せばよろしいのか、その……」
「かなりサビれてるわね。他ンとこの集落に比べると」
「んもうっ。ストレートが過ぎますのッ!」
私がせっかく言葉を選ぼうとしておりましたのに!
これでは善良な客人設定が台無しでしてよっ!
「……気にするな。その娘の言うとおりだ。確かに我々の集落は、他と比べればだいぶ簡素な造りになっている。色々と理由があってな」
ほら、余計に気を遣わせてしまったではありませんか。
「ウチの率直担当が本当にすみませんの……」
彼の仏頂面にも微かな苦笑いが混ざっているように見えてしまったのでございます。
何かを思ってもすぐには口に出さないのが淑女の嗜みというモノでしょう!?
それにほら、集落全体がサビれているというよりは……その、単にシンプルなお家が多いだけで、これはこれで趣き深い気がしてまいりましたしっ。
きっと住めば都というアレなのです!
一応ながら見た感じを補足させていただきますと、どうやらこの集落は土と石をメインの建材にするご文化みたいなのです。
良く言えば古風で趣き深いお家たちですの。
悪く言えば何とも原始的な穴倉式住居とも言えちゃいますの。
狭いところにぎゅぅっと堀り穴が寄り集まるようにして一つの集落を形成しているらしいんですの。
えっと、その、ふぅむ……。
やっぱり正直にぶっちゃけますと。
ツノウサギの巣穴の集合住宅版ですわね。
一度雨が降ってきたら入り口からグイグイと水が流れ込んできそうな、そんな不便さを見た目だけでも存分に感じ取れてしまったのです。
まして今までの集落でお借りできたお宿は、どこも手入れが行き届いていて小綺麗な感じでしたからね……。
その上ツリーハウスだったりログハウスだったりと、全体的に乾いた木製のモノが多かった記憶がございます。
ゆえにこんな密度と湿度の高そうなお家は初めての経験になっちゃうわけでして。
単に寝泊まりするだけでもお召し物が汚れてしまいそうな気がしておりますの……っ。
せめて茣蓙などが一枚敷いてあるだけでも結構変わってくるんでしょうけれども、中を見てみないと判断のしようもなく……といった現状なんですの……っ!
「それにしても、ミントさんは配慮って言葉をご存知ありませんの……?」
ちょっとだけしゃがんでミントさんに目線を合わせてから、軽く睨んでさしあげます。
あくまで今回の私たちは客人でしかありませんの。
声を大にしてズケズケと要望を出せるような身分でも立場でもないのでございます。
しかしながら、彼女は私の意見を真っ向から突っぱねるように、フンとつまらなそうに一蹴しなさいましたの。
「あのねえ。下手に取り繕って言葉を濁すくらいなら、最初からキチンと思ってること言っといたほうがイイのよ。中途半端に誤魔化したところで相手には伝わっちゃうモンなんだから」
「そうはおっしゃいましても……!」
「言ったところで変わらないのが常だとしても、もし変わるってんなら御の字でしょ? 初っ端から可能性を捨てるのはもったいないも思うわけよ」
深みのある溜め息までお吐きになりましたの。
単に思い付いただけの適当なことを呟いていらっしゃるわけではないようですの。
むしろ、彼女の人生経験からそのような結論に至っていらっしゃるのでございましょう。
その眼差しには確固たる自信が見え隠れしております。
「ふぅむ。そのお口振りからお察しするに、どうやら面倒なご経験がおありのご様子で」
「まぁアタシも長命種の端くれだからね」
それ以上は何もおっしゃいませんでした。
こうなったらもうしゃーなしですの。
歯に衣着せぬ物言いを是とするか否とするかどうかは一旦置いておくとして、私は聖人淑女の代表として、この場の誰よりも先に一肌脱いでさしあげたほうがよろしいかもしれません。
すーっ、ふーっと息を整えておりましたところ。
「えっと、リリアちゃん。なんだか急に分かってるようなドヤ顔し始めたけど、大抵いつも空気読んでないのはリリアちゃんのほうなんだからね」
「そうね。今更自分を棚に上げたところで意味ないわよ」
「はっぇー!?」
ぐっふぅぅ……完全に出鼻を挫かれましたの。
誤魔化す隙さえも与えていただけませんでしたの。
咄嗟によよよと倒れ込む演技をさせていただきましたが、冷たい目で見てくるだけの女性陣なのです。
唯一私に反応してくださったのは、仏頂面の彼の隣の、若くて素直そうなエルフ族さんだけでございました。
彼の差し出してくださったお手を拝借して、スタタと立ち上がらせていたたきます。
そのまま柔らかな微笑みを見せてさしあげますと、顔を赤くしながらそっぽを向かれましたの。
ふふふふふふ。
初々しくて本当に可愛らしいですこと。
こんな女性慣れしていない方に奥様がいらっしゃるだなんて、ホントに現実が信じられませんわね。
もし独り身ならばすぐに私が即刻嫁入りしてさしあげましたのに。
「御託はいいわ。それでもって、これからアタシたちはどう動けばいいわけ? すぐにでも今日のお宿に案内してもらえる感じ?」
「……いや、宿に向かう前に、まずは長老に面会してもらおう。貴女らの旅の目的を自ら伝えてほしい。長老ならばチカラになれることもあるだろう」
「なるほどご配慮痛み入りますの。諸々内容かしこまりっ! ですのっ!」
集落の長様のお家は……きっと中央に空いた大きな洞穴の奥にあるのだと思われます。
一目見ただけでも何となく伝わってきますもの。
豪華さがちがうのでございます。