ついさっきに落とされたばかりですの
ええ、求婚が上手く行かなそうなことなど最初から分かっておりましたわよ。
ダメで元々と思っておりましたもの。
そもそも素敵な殿方には既にお相手がいらっしゃるというのが世の常なのでございます。
それにほら、いくら私が色恋に飢えているとはいえ、奪愛行為がマズいコトだとは重々に理解しているつもりですし。
まして人々の代表たる聖女がそんな不貞を働いてしまえば、基本的には温厚なはずの女神様も、血相を変えてグーパンチを放ってくることでしょう。
さすがの私でも殴られるのは嫌ですの。
ゆえに何も言わずに引き下がるしかないのです。
私の〝春〟はまだまだ先ということですか。
いや、不貞を働かなければよいのですけれども。
まだ完全に諦めるには早いですわよね?
「ちなみに、お隣の彼はいかがでして?」
「……コイツも同じくだ。というより、我々の集落は長らくあの洞窟が使えなかったせいもあって少々孤立気味でな。
各一族の血を途絶えさせないためにも、若者たちには早くからの婚姻を推奨している。ゆえに今は独り身はいない」
「ちぇー、ですのー。生存戦略、徹底されておりますことー」
エルフ族の方々はその長寿命のせいか出生率はあまり高くないと耳にしたことがございますが、そんな彼らが婚活を始めざるを得ないくらいには、孤立無縁さに切羽詰まっていらっしゃったのでございましょう。
ともなりますと、私たちが集落にお邪魔できたところで求婚作業はロクにできず、せいぜい安全な屋根と食事をご提供いただけるだけってことですわよねー。
はーぁー。いやですのー。
そんなの全然面白くないですのー。
何よりも私は、熱い一夜の燃えるようなアバンチュールを求めているのですーっ。
これはもう、もはや大森林には私の未来の旦那様とのご縁がないと暗示されてしまっているかのようなモノですの。
私の心の中の猛々しいキノコも、今回ばかりはしなしなに萎びちゃいそうな気分なのでございます……。
「っていうかリリアちゃん? あんまりはしたないことばっかり言ってると、また女神様に雷落とされちゃうよ?」
「ふっふん。ご安心をば。ついさっきに落とされたばかりですの」
「あちゃー。もう手遅れだったか」
ええ。私の恋愛憧れ脳につきましては別に今に始まったことではありませんでしょう?
スピカさんを呆れさせてしまうのも、もはや慣れっこになってしまいました。
しかしながら、半ば本気、半ば冗談なスタンスを続けていたところで前に進めないことも分かっているつもりです。
いつかどこかでマジガチの私を見せてさしあげませんとマンネリ化してしまいますわよね。
困ったものですの。
おちゃらけた雰囲気は一旦ここまでにして、話を進めさせていただきましょうか。
「こっほん。私たちの野営地はすぐ近くにありますゆえ、さっくり荷物をまとめてきますの。
近くまでお越しいただいてもよろしくて?」
「……ああ、それくらいなら構わんが」
「ふっふん〜二名様ご案内ですの〜」
乙女の花園に足を踏み入れられる殿方は激レアなんでしてよ?
そのまま朝までご一緒していただきたいところですが、不貞問題がございますので泣く泣く諦めますの。
このお二方が集落までの道案内役を担ってくださる旨をミントさんにもお伝えしなければなりませんし。
さぁ、そうと決まればさっさと向かいましょうか。
世の中何事も善は急げでしてよ。
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私たちの拠点テントへと戻ってまいりましたの。
ミントさんがのんびりとした様子でくつろいでいるのが目に映ります。
焚き火の炎上度合いを気にしつつ、昨日捕らえたお魚をまるまる串焼きにして、じっくりと炙っていらっしゃいましたの。
とりあえずお声がけしておきます。
「リリアとスピカの二人が戻りましてよー」
「あ、お帰り。案外早かったじゃないの――って、ソイツら誰よ。まーた変なモノ拾ってきた感じ?」
「変なモノって……。さては私をネコやカラスの類いだと思っていらっしゃいませんでして?」
「さぁどうだか。とにかくおあいにく、アタシは客人をもてなせるような大層な飯なんて用意してないからそのつもりでよろしく」
ええ。ご心配なさらずとも承知の上ですの。
元より明日食べるモノさえ決まっていないような、そんなその日暮らしの旅を続けている私たちなのです。
まして保存食も底を尽きておりますからね。
でもご安心くださいまし。
少なくともこれから数日の間は寝床とご飯に困らなくて済みそうになりましたゆえ。
安全で温かな布団で眠れるだけマシでしょう?
「ご説明いたしますの。こちらの方々は――」




