絶賛恋人募集中の恋に恋する乙女二人組と言いま――
すかさずスピカさんとアイコンタクトをとって、ささっと近くの茂みの中に身を潜めます。
それから鼻から上だけをちょろっと出して覗き見てみましたの。
見えたのは二人組の男性エルフ族でございました。
前回の樹上集落の方々とはやや異なった風体をしていらっしゃいましたの。
全体的に地味な土気色で形成されておりまして、なおかつどこか薄汚れている印象なのです。
こちらはきっと、地面や木の幹に対しての保護色となっているのでございましょう。
ちなみに、なのですけれども。
「はっぇー。モノっ凄い久しぶりに、見目麗しき殿方を目にした気がいたしますのー……っ」
「シーッ。静かにリリアちゃんっ。声出すと居場所バレちゃうから」
無理矢理に頭を押さえつけられて、茂みの中に戻されてしまいました。
むぅ。もっと目に焼き付けたかったですの。
ホントにお久しぶりの目の保養だったんですもの。
……じゅるり。
お顔がなかなかのイケメンさんでしたの。
むしろ私の性癖をストレートに抉ってきていると言っても過言ではありません。
どちらも背がお高くてスラッとしていらっしゃいますし、適度に引き締まった感じのお身体は後ろから抱きついて舐め回してさしあげたいと思えるくらいに良さげに見えてしまったのです。
長らく冬に包まれていた私の恋の旅路にも、ようやく春が訪れてくださったのかもしれません……!
こっほん。お恥ずかしながらちょっとだけ興奮してしまいましたわね。
こうしてクセでつい隠れてしまったものの、別にエルフ族の彼らに警戒されたいわけでも敵対心を示したいわけでもありませんの。
不問な悶着を避けるためにも、さっさと私たちのほうから身を晒して、こちらの身分を証明してさしあげたほうがお話もスムーズに進みそうな気もしております。
どちらもそこそこお若そうなお顔に見えますが、見た目と年齢が一致しないのがエルフ族の特徴だとも言えましょう。
おそらくは私たちよりもずっと年上の、それこそもっと詳しく推察するならば、私の顔の知らぬお父様のお父様くらいのご年齢なのではございませんこと?
……そうなると途端に気が引けてきますわね。
オジサマは守備範囲の中ですが、オジイサマはその限りではありませんもの。
とりあえずよっこらと腰を上げ直し、改めてゆっくりと肌を晒す面積を増やしてさしあげようとした――ちょうどそのときでしたの。
足元の小枝がパキリと音を立てて折れたのでございます。
空気が一瞬で張り詰めたのを感じますッ!
「ッ!? そこにいるのは誰だ!?」
「んひぃっ!?」
「あ、ちょっとリリアちゃん!?」
聞こえた怒声に思わず飛び上がってしまいましたの。
ゆっくりじわじわと身を晒すどころか、その逆に、彼らのド真ん前に首を晒す形になってしまいます。
あ、これマジでヤバいヤツですの。
次に発する言葉を一言でも間違えたら即アウトかもしれませんの。
と言いますのも、つい先ほどまで彼らが背負っていたはずの弓が今はギリギリと引き絞られており、先端でギラリと光る鋭利な矢尻がガッツリと私に向けられているのです。
……咄嗟に無詠唱で魔法を展開できるほど私は器用ではありません。
念には念を入れての保険として、結界魔法を口の中で唱えておいてもよいかもしれませんけれども。
でも今はとにかく状況の打破が先決でしょう。
あくまで慎重に言葉を選びつつ、一番効果的な台詞を吐かせていただきます。
「わ、私たちは決して怪しい者ではありませんのっ。ただのしがない旅人と言いますか、絶賛恋人募集中の恋に恋する乙女二人組と言いま――」
「リリアちゃん」
「――うぅっ。こっほん」
ジト目で叱られてしまいましたので、咳払いで誤魔化した後に急いで訂正いたします。
「国王陛下からの命を受けて、平和の使者として旅を続けている者ですの。私が聖女のリリアーナ・プラチナブロンドで、こちらのお可愛らしい方が勇者のエルスピカ・パールスター。
他の集落の長様から、大森林を進む許可をいただいております。こちらをご覧いただければ、と」
収納鞄の中から、初めて立ち寄った集落でいただいた木製の彫り飾りを取り出させていただきます。
スッと手渡して見せてさしあげましたの。
始めこそ訝しげな目で見ていらっしゃいましたが、本物と分かってくださったのか、丁寧にお返しくださいました。
仏頂面のエルフ族さんが微かに眉間にシワを寄せながらお口を開きなさいます。
「……この近辺に不審な人物が野営を張っていると聞いてな。見回りをしていたのだ」
「ふぅむ。多分、私たちのことなんでしょうかね。ここ最近は洞窟の浄化作業に専念しておりましたから」
「洞窟、だと……?」
ええ、そうですの。
長らく殺人キノコに侵されていたであろう、あの洞窟のことですの。
もしかして、詳しく説明してさしあげたほうがよさそうな感じでして……?




