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それじゃあまた!

 


 翌々日の朝になりました。


 今日は、私たちの出発の日ですの。



「それでは皆々さま、短い間でしたがお世話になりました。餞別もこんなにドッサリいただいてしまいまして……大変に痛み入りますの」


 よく乾いたパンが沢山詰め込まれた紙袋を抱えながら、村の入り口にまでお見送りにきてくださった村人さんやゴブリンさん方にに深々と一礼いたします。


 出発に際しまして、手ぶらでお(いとま)しても何の問題もございませんでしたのに、ご厚意で三、四日分もの食糧までお譲りいただけましたの。


 乙女二人で持ち歩くには少々多すぎる量ではありますが、日持ちする食べ物ならいくらあっても困りませんからね。そのまま食べても美味しいパンなら尚更ですの。


 しかも、淡白な味に飽きないように調味料やチーズも恵んでいただけました。感謝感激雨小麦ですわね。


 私たちのお財布事情と食料調達の手間を考えればっ。


 これらは何よりも嬉しいお土産なのでございますっ!



 あ、そうですの。お財布事情といえば、です。


 今後の旅の必需品をこの村で買い揃えたこともあって、早くも国王陛下から渡された資金がゼロに近しくなってしまいました。


 これでも上手い具合にやりくりしたほうなんですの。


 雑貨屋の店主さんには結構な値引きにしていただきましたゆえに、もし旅立ちの日に王都で集めていては必要数の半分も揃えられなかったと思われます。


 野宿用の超小型軽量テントをはじめ、湯沸かし用のお鍋に火打ち石に、柔肌美容オイルに植物由来のリンスにシャンプー……乙女の長旅に欠かせない諸々をピカピカ新品の鞄に詰め込ませていただきました。


 こちらはスピカさんに託しております。


 非常灯など魔法で代用できるアイテムを省いたとしても、これくらいの物量にはなってしまうのです。


 それにいつでも誰でも都合よく魔法が使えるわけでもありませんからね。


 特にスピカさんは魔法の才はからっきしのようですし。道具を使った方が手っ取り早いときだってありますの。

 

 何事も備えあれば憂い無しってことなんですの!



「……それにしても、お次の滞在先では少しばかりお金稼ぎをせねばなりませんわね。正直カッツカツですの」


「……そうだね。歩きながらざっくり考えておこっか」


 周囲の皆さまに怪しまれない声量で確認し合います。


 お財布が空っぽなことについてはスピカさんも気にされていたようで、ほんの少しだけ苦笑い気味でしたの。


 早めに何とかしなければなりませんわね。


 やはり銀貨と銅貨だけでは全然足りなかったのでございます。

 

 別に修道院時代にしぽしぽと貯め込んだ貯金を崩してもよろしいのですが、私的には問題なくともスピカさんがGOサインを出してくれないと思われます。


 彼女は生粋の生真面目さんみたいですし。


 旅の資金は旅の最中で調達するべし、などというストイックな自分ルールを定めていらっしゃる可能性もありますの。


 ふぅむ。となれば仕方ありませんわよねぇ。

 出不精でぐうたらな私もたまには清い汗水を垂らしてみましょうか。



 スピカさんがもう一度村人の皆様に向けてぺこりと軽く礼をなさいます。

 


「それじゃあまた! 旅の終わりに絶対立ち寄らせていただきますから、それまでどうかお元気で!」


「豊かな小麦畑を沢山広げておいてくださいまし〜。お次は荷馬車いっぱいにパンをいただいて帰りますゆえ〜。むしろ畑ごと買い取るつもりもマンマンのマンでーすの〜」


 苦笑しながらも快く見送ってくださる村人さんやゴブリンさん方に、私もまたひらひらとお上品に手を振り返しながら。


 こうして、数日寝泊まりさせていただいたアルバンヌの村を後にしたのでございましたっ。


 さぁて、せっせこせっせこ歩きますわよぉーっ!




――――――

――――


――





「こっほん。スピカさん。早速ながら旅の作戦会議をしておきませんこと? ズバリ、次なる目的地はいずこになりまして?」


「そう、だねぇ。ただ闇雲に歩いても疲れちゃうだろうし」



 ただ今は私たち、アルバンヌの村から伸びる一本砂利道をひたすらに歩んでいる真っ最中ですの。


 麦の出荷の時期であれば王都へと向かう荷馬車に途中まで乗せてもらう手も考えられたのですが、残念ながら今は絶賛茎葉の成長期みたいでしたの。


 収穫はまだ随分と先の季節なのでございましょう。


 もちろんのこと村から町へと売りに出すモノがなければ、馬車を走らせることもなさいません。


 各家それぞれ多種多様なお野菜などを育ててはいらっしゃいましたが、どれも地産地消する程度の小規模であって、王都で売り捌くほどの量は作っていないらしく。


 基本は閉鎖的で交通不便なド田舎村ですものね。


 人の往来が無いのが常であり、大した問題もないのです。


 ゆえにこうして仕方なく、テクテクと地道につい数日前に通った道を辿っているというわけですの。


 大通りに立てられていた分岐路看板が見えるまではひたすらに砂利の一本道が続いていたはずですの。


 さすがの方向音痴でも迷うことはございません。


 ちなみに両手が塞がっているせいで胸内にしまい込んだ周辺地図を取り出すことはできませんのであしからず。


 どうか脳内補完でご勘弁くださいまし。



 さてさて。


 改めて今の状況を整理いたしますと、王都から郊外へと伸びる街道の途中、私たちはアルバンヌの村へと寄り道をいたしました。


 つまりはもし寄り道などをしていなかったとしたら、今頃はとっくに王都からの最寄り街へと辿り着いていた頃合いと言っても過言ではないのです。


 となれば最寄りのそちらが次なる目的地となりますでしょうか。


 見た目で分かりやすいように小首を傾げて差し上げます。



「うーんとね、とりあえずの選択肢は二つになるかな。このまままっすぐに大森林の方に向かっちゃうルートと、その手前の街をいくつか転々としていくルート。

正直今の状況ならどっちを選んでもいいのかも」


 数々の旅グッズを納めた鞄を肩に斜めがけしつつ、トコトコと歩くスピカさんが意気揚々とお答えくださいます。


 うおっほんと仰々しく咳払いをなさるお姿は、まるで手のかかるお子さまの面倒を見る先生さんのようでしたの。


 ……ふぅむ?

 となると件のお子さまは私ってことになりますの?


 スピカさんがそのまま澄んだ声色でお続けなさいます。

 

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