ついてに乙女の素敵愛情パワーをドンッ!
それからざっくり七日ほどが経ちまして。
「ふぅぅぅ……我ながらイイ仕事をいたしましたの〜」
先日に亀モグラとバトルした広場から最初の入り口の滝壺付近に至るまで、私は毎日、真摯に浄化作業に努めましたの。
それはもう、岩の裏や瓦礫の下などもとにかく念入りに行ったのでございます。
ほぼ全ての場所に細かな白いホワホワの胞子が付着しておりましたゆえ、今回の浄化作業によって、この洞窟の本当の岩肌を初めて見られたくらいですの。
……意外にスベスベ系だったんですのね。
確か鍾乳洞とか何とか言いましたっけ。
つい先日に丁重に弔ったはずの亀モグラの死骸跡に、早くも殺人キノコが生えかけていたのはビビりましたわよ。
どんな成長速度ですの。
普通なら手に負えてませんの。
これはおそらく、単に空気中や壁天井の表面だけでなく、地面の奥深くにまで胞子が到達しまっていることを意味しているのです。
上っ面だけの浄化ではダメだと認識を改めましたの。
この数日間、アリの子ノミの子一匹たりとも通さぬ精度で、私の生み出し得る最高照度の光で浄化を続けてまいりました。
一日の間にも何度かフラッと気を失ってしまいそうなタイミングもあったのですが、それでもキチンと責務を全ういたしましたの。
再三にも再四にもなる報告ですけれどもッ!
私の類い稀なる根気強さの甲斐がありましてッ!
「むっふぅー! まさか洞窟内で深呼吸ができるようになるとは思いませんでしたわよねぇー!? これでもう無意味に咳き込む心配も、空気汚染を危惧する必要もありませんでしてよーっ!?」
たとえ地面にゴロゴロと寝転がったりしても、宙に舞い上がってくるのは微かな土埃だけで、もはや胞子のホの字も視認できなくなりましたの。
胸を張って断言してさしあげましょう。
浄化活動、これにて完了なのでございますッ!
「いやー、お疲れリリアちゃん。まさかこんな短期間で終わらせちゃうだなんて、ホントに無尽蔵の魔力を持ってるんだねぇ。相方として鼻が高いよ」
「ふっふっふんっ。そんなに褒めたところでこの通り、メチャメチャ眩い光しか出せませんでしてよ?」
光の魔法の扱いも上達いたしました。
明るさの調整もチョチョイのチョイですの。
「あっはは、そっちはもう足りてる感じだから、もう少し抑えてもらえると嬉しいかな……目が痛いもん」
「冗談ですの。分かっておりますのっ」
力量の誇示のため、頭上の光球をピカーッと輝かさせていただきましたが、案の定スピカさんは眩しさのために目を細めて迷惑そうな顔をなさいました。
もちろんすぐに弱めてさしあげます。
別に嫌がらせをしたいのではないのです。
「こっほん。ご覧のとおりお掃除は終わりましたが、これからは、この環境を維持し続けることが大切ですの。自然のチカラは強大ですもの。人の手を加えなければ、いずれまた元通りになっちゃいましてよ」
「その辺はエルフ族の方々が上手いことやってくれると信じるしかないよね。今までもこれからも、彼らはそうやって大森林に寄り添って生きていくんだろうからさ」
「ですのですのっ」
私はただ、変に歪だった環境をゼロに戻しただけで、自らの手で新たなイチへと変えるつもりはありませんの。
この地に根を生やすつもりも、ここで生きていくわけでもないのです。
私たちはただのしがない旅人なのです。
治安の維持は現地の方々に任せましょう。
「それじゃあミントさんと合流しよっか。テントでのお留守番も大変だろうし」
「薪集めに食事の支度に周囲の安全確認に、と。独りきりではそれはそれで忙しいんですのよね……」
「だけど、各自の分担作業が私たちのパーティの暗黙のルールだからね。っていうかせめて料理係はローテーションにしとかないと絶対に困るし」
何より味とお料理が偏りますものね。
各々、得手不得手がはっきりと分かれておりますもの。
私は修道女という立場上、ヘルシーな精進料理についてのレパートリーをたくさん知っておりますし、対するスピカさんはシンプルかつワイルドなお肉お料理をかなり得意となさっていらっしゃるようですの。
ちなみに今回の担当であるミントさんはスパイシーな香辛料理系をよくお作りになる印象がございます。
と言いますか、基本的に彼女は辛いか酸っぱいかの両極端な料理しか出してきませんの。
そりゃあ刺激の多い味は食欲を唆りますけれども、毎日ずっと同じようなパンチでは飽きが来てしまうのも早いのです。
だからこそのローテーションですのっ。
「そういや最近、リリアちゃんの謎草料理食べてないなぁ。お肉入れてないのにお肉みたいな味がするアレ、本当に凄いよね」
「むっふっふっ。修道院時代に編み出した、文字通りの苦肉の策ですの。企業秘密ですゆえに、さすがのスピカさんにもレシピは教えてさしあげられませんの」
複数の芋を練り合わせてから蒸したり、熱した油に衣を付けてから丁寧に揚げたりすると、ただ単純に焼いたり煮たりするだけでは生まれない独特な食感やコクを生み出すことができるのです。
ついてに乙女の素敵愛情パワーをドンッ! ですの。
とにかくジューシーな肉になぁれー、と。
あわよくば脂の滴る最高級の肉になぁれー、と。
固くて太くて逞しいお肉にもなぁれー、と。
ありったけの劣情を込めたら案外それっぽい味に仕上がったりするんですのっ!
世の中念じと思い込みが大事なのでごぞいます。
味を思い出して思わずお腹が鳴っちゃいましたの。
「あーあー、ご飯のお話ばっかしてたらお腹空いてきちゃったや」
「私も同じくですのー。戻ったらきっとミントさんが素敵なお昼ご飯を用意して待ってくださっておりましてよ。昨日生け取りにしていたお魚を、今頃は香草焼きにでもしてくださっていることでしょう……!」
想像するだけで良い香りがしてきます。
早いところ仮拠点の辺りに戻りましょうよ。
こうして大きな仕事も終えられましたゆえ、いつも以上に足取りを軽くできちゃいますしっ。
というわけで私たちはスタコラと洞窟の出口を後にして、茂みの向こう側に展開したテントのほうに、やや駆け足気味に向かっておりますと……!
ふぅむ?
何やらこの耳に届いてまいりましたのは。
知らない誰かと誰かの、話し声でして……?




