清貧? 何それ美味しいんですの?【挿し絵有り】
――――――
――――
(時が経った旨をお知らせする記号ですの♡)
――
―
「――まーったくあの国王陛下ときたら、最初から最後までお話が長いんでしてよー。
権威の振りかざしはお腹いっぱいですのー! 無駄にありがたぁいお説教を聞きたくてお伺いしたわけじゃないですのーッ! パッパちゃっちゃと送り出してくださればよろしいものを」
「まぁまぁ。思ってたよりずっと格式高い式典だったし、何より国民の皆に見られてたからね。
国王様だって結構ストレス溜まるお仕事だと思うよー? 本当にはこんなこと言っちゃいけないんだろうけどさ」
「ふぅむぅ。別に構いやしませんでしてよぉ。聞かれて困るようなコトまでは言っておりませんしぃ」
ぶーぶーと口を尖らせてしまうのも仕方がありませんの。
動きやすさ重視で仕立てていただいた旅用の修道服の裾をピラリと翻しながら、右に左にと舞い踊るかのように街道のド真ん中を歩いてさしあげます。
王都の検問所を通り過ぎてしまえばコッチのもんですの。
私たち以外には誰一人として道を歩いておりません。
みんな、便利で暮らしやすい王都から出ませんものね。
駄々っ広い街道が余計に広く見えてしまいます。
さてさて。
あれから少しばかり時が流れまして。
無事に国王陛下との謁見を終えることが出来ましたの。
そうして正式に勅命を預かることも叶ったのです。
〝遠く離れた地に住まう魔王の元へと赴いて、休戦協定を更新・延長してくること〟
これが私たちに課せられた使命なのでございます。
どうやら私たちは目的地まで己の足で出向いて、己の口で交渉して、己の手で更新書を預かってこなければならないらしいのです。
……本当は面倒で面倒で仕方ありませんけれども。
コレが聖女としての使命というならば逆らえませんもの。
基本的にズボラでちゃらんぽらんな私ではありますが、今回ばかりは旅の目的も事の重大さも、相応に理解しているつもりなのでございます。
「……は〜ぁ。中途半端に真面目というのも生きづらいことこの上ありませんわね。もっと愛に恋にと自由に生きたかった人生でしたのーっ。己の才覚と天運とが実に悩ましい限りですのーっ」
私は女神様に選ばれてしまった聖女なのですから。
人並み以上の正義感は持ち合わせているつもりです。
なるべく潤滑かつ誠実に遂行してさしあげて、早いところ国民の皆さまに安寧をお届けしたい慈悲深さは言わずもがな。
それ以上に自分のことを甘やかしたい性分なんですのっ。
人よりも数倍に私的欲求が強すぎるだけなのですっ。
叶うのならば毎日ぐっすり二度寝してお昼寝してご飯を食べてぇ、その後また温かなお布団で眠るような毎日を貪り尽くしていたいのですぅぅっ。
はーぁっ。聖女サマって本当に大変なんですのーっ。
何から何まで責任重大な存在なんですのーっ。
「ったく。だいたい今の世の中、超長距離用の意思伝達魔法だって開発されつつあるのですしぃ。ぺぺぺっと停戦継続の意思を相手方に飛ばしてしまって、それでもってぱぱぱっと了諾の意思も受け取ってしまって!
さっさと今回の更新を締結してしまえばよろしいのではなくって?」
「そうは言ってもコレも一つの外交政策の一つらしいからねぇ。何だかんだで由緒正しき通例行事。便利な魔法もイイんだけど、まだあんまり実績のない手段にこの国の未来を委ねるのは怖いんじゃない?
私は魔法使ったコトないからよく分からないんだけどさ」
「そのお気持ちも分からないでもないですけれども……っ」
勇者と聖女が旅をするからこそ意味が生まれるのです。
その辺は大いに理解しておりますの。
私だって幼い頃は英雄譚に目を輝かせておりましたもの。
この魔王城訪問は今や我が国の通例行事になりつつあるのだと、国王陛下からも各大臣様からも何度もお聞きしております。
おおよそ五十年に一回、そのときの見習い勇者と見習い聖女が伝達役を担うことになっているのだそうです。
今回の私たちが六代目の勇者と聖女なんですの。
確かに危険な旅ではありますが、先代たちは皆無事に務めを果たしてこの国に戻ってきては安寧を届けてくれたらしいのです。
先人の勇者様ご一行については、数多の歴史書にその功績を書き記されて、こうして後世にまで名を残されていらっしゃいます。
聞いたところによれば、皆一様に莫大な報酬を手にして、そして穏やかで安らかな余生を過ごされたそうだとか。
私だってそうありたいものですの。
骨折り苦労に見合った見返りをいただけるのであれば、私だって身を粉にして働かせていただきますのっ。
だからっ! 苦難に見合う報酬をお寄越しくださいまし。
でないとちっともヤってられませんの。
清貧? 何それ美味しいんですの?
きっと今回の旅はそれなりに長いモノとなることでしょう。
初代からはある程度時代が経った今であっても、行って帰ってくるまでには早くても3年か4年か、もし面倒事や天変地異に巻き込まれてしまっては、それこそ10年単位で帰還までの期間が変わってきてしまうはずです。
もちろんのことその間の定期的なお給金などは見込めませんし、もっと言えばこのお国から離れれば離れるほど、私たちはただの旅人扱いを受けてしまいますでしょうし。
知名度だけで何とかなるほど世の中は甘くはありません。
ほとんど〝自力〟を余儀なくされているも同然なのでございます。
……それだと言いますのに。
「でもでもでもっ。コレだけは言わせてくださいまし」
「ん?」
「勇者と聖女の映えある旅立ちに渡す賃金がたったのコレっぽっちぃ!? こちとら命懸けの長旅に出るんでしてよー!? あの人、玉座に座り呆けて平和ボケしてるに違いありませんのー!」
国王陛下から手渡されたのは、手のひらサイズの皮袋に、中身はたった数枚の銀貨と銅貨だけでございました。
ぶっちゃけ端金もイイところだったのでございます。
これでは旅の序盤で尽きてしまうに決まっておりますの!
各地の素敵なお宿に泊まれないではありませんか!
スウィートなルームなんて夢のまた夢なのでございます。
つまりはわりと早い段階でっ!?
私たちの身銭を切ることがほぼ確定してしまっているも同然なのでございますぅ!
ええ、そうですのッ!
端的に言って死活問題なんですのッ!