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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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その小さなお身体で闘争を求められても

 

 それからまたしばらく村に滞在させていただきまして、和解の儀式を結んだ日から数えて三、四日ほどが経過いたしましたでしょうか。


 幸いにも予想していた量の半分ほどもコレといった問題は起きておらず、むしろその逆、異種族間の交流によって村に良い活気が溢れ始めてきたような気さえ感じております。


 意思疎通に関しても見ている限りでは大丈夫そうですの。


 和儀の最中に取り決めたマルとバツとで上手いことやりくりなさっていらっしゃるようです。


 それでも、もちろん初日こそ通訳の為に右へ左へと駆り出されましたけれども。


 二日目の午後を過ぎた頃からはトンと呼び出されもしなくなりましたっけ。


 きっとお互いにコツ(・・)をお掴みなさったのでしょうね。


 今ではもう、私は村の入り口に設置された簡易ベンチによっこらと腰掛けまして、あくせく働く皆さまのご様子をのんびりと眺めているだけなのでございます。


 はぁぁーっ。温かな陽の光を全身に浴びつつ、また村人の方に淹れてもらったお茶を啜りつつ、こうしてのほほんとした時間を貪り食らうだけの人生とは……端的に言って最高一歩手前です。


 あとはもう宿泊費さえ掛かっていなければ完全無欠の究極状態でいられましたのに。


 お財布事情の為にほんの少しだけ焦りを感じ始めた心とは裏腹に、あくまで周囲の皆さまを不安にさせないよう、終始にこやかな微笑みを頬に貼り付けたまま日々を過ごしているというわけなのです。


 束の間の仮暇を謳歌する私とは正反対に、村の外側では今まさに複数のゴブリンさんがせっせこせっせこと汗水を垂らして働いていらっしゃいます。


 さすがは職人ゴブリンさん一派ですわね。

 本当にお仕事を覚えるのがお早いんですの。


 オスゴブリンの皆さまは村の周りの柵を補強したり、畑の(ウネ)を起こしたり、農具の手入れをしたりなどなど、主に力仕事関係で役に立っていらっしゃるようで。


 対するメスゴブリンや老体ゴブリンの方々は農作物に水をやったり生えてきた雑草を抜いたりと、慎ましくも繊細な作業に従事していらっしゃるようで。


 適材適所という言葉がピッタリですの。


 最初は怪訝なお顔をなさっていた村人の方々も、数日も経てば考えを改め始めてくださっているらしく、ゴブリンさん方の真面目な働きぶりにご満足いただけているご様子です。


 両陣営、どちらもかなり緊張のほぐれたご表情で和気藹々と作業なさっているようです。


 中には一緒のテーブルでご昼食を召し上がっているグループなども見当たりましたの。



「ふぅむ。よかったですの。終始安心して見ていられますわね。私たちの出る幕もございませんの」


「むしろ私たちが一番お荷物になっちゃってるかもだよね。正直、一日中ずーっとここに座って見守ってるだけになってるし。ただの用心棒役ってのも手持ち無沙汰かも」


 スピカさんもまた私と同じようにベンチに腰掛けて、足をぷらぷらと揺らして暇を持て余していらっしゃいます。


 少し不満げに口を尖らせていらっしゃいますが、対する目元はとてもにこやかですの。


 彼女が三度の飯より戦闘狂(・・・)でなくてホントによかったと思っております。


 その小さなお身体で闘争を求められても困ってしまいますし。



「……何の問題もないということは、私たちの出発のときも近いってことに他なりませんわよね。次の目的地までの計画、今のうちから立て始めておきましょうか」


「そうだね。ほちぼち雑貨屋さんにも顔出しておこっか。お財布と相談してココで買って持っていくモノを考えとこ」


「おっけですの。私寝袋テントがほしいですの!」


 また近いうちに野宿に逆戻りしてしまいますからね。


 人知れずこの村から勝手に居なくなるのもそれはそれでカッコいいのですが、何よりも無責任すぎるというものです。


 きちんと区切りを付けてから、そして挨拶を交わしてから、順を経て私たちの旅に戻ることにいたしましょう。


 スピカさんは魔王城への道を、私は未来の旦那様探しの道を進み続けなければいけません。


 この村でのんびりと待っていても未来の伴侶さんが現れてくださる保証なんてどこにもございませんものね。


 状況が変わらないのであれば自ら掴み取りにいくだけのお話ですの。


 それにほら、たとえこの村がドンドンと豊かになっていっても、街から帰ってきてくださる殿方のほとんどは妻子持ちなのでしょうし。


 私個人としては多夫多妻な色恋事情でも断然ウェルカムなのですが、頭のお固い女神様が頑なに首を縦に振ってくださらないと思われます。


 そのうちにまーたグチグチガミガミと小言を言われてしまっても面倒ですの。さっさと華麗に柔軟に新たなチャンスに望めたらと思い始めているのです。


 ええ、そうですわよね。その場に停滞していたってこの旅は始まりませんし終わりもいたしません。



 改めて決意のため息をフッと吐き捨てたのち、思い立ったが吉日とベンチから立ちあがろうとした――まさにちょうどそのときでございました。



 前方から、二つの人影が近付いてきているのがこの目に映ったのでございます。


 片方は腰を曲げて杖をついていて、もう片方は太い腕をぐわんぐわんといからせながら歩いていらっしゃいましたの。


 ……どうやらアルバンヌの村の村長さんと、一番初めにお話を聞いてくださった職人ゴブリンさんらしいのです。


 私たちもベンチから立ち上がって、お二人に向けて軽く会釈をお返しいたします。



「村のご発展、順調そうで何よりですの。私も安心して見ていられますの。この調子なら今後も上手くやっていけそうですわね」


 私の言葉の投げかけに、村長さんが優しげに微笑んでくださいます。


 ゴブリンさんもまた納得するかのように深々と頷いてくださいました。



 ふぅむ? ……あら、どうなさいましたの?


 ゴブリンさんったら、そんなに乱雑にお召し物の裾の辺りをガサガサとしなさいまして。


 服に縫い付けられた簡素なポケットの中をしきりに探されていらっしゃるようですけれども。


 スピカさんと私と、そして村長さんの三人でゴブリンさんの行動を見守って差し上げます。

 

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