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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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この平穏なトキを後世にまで繋げていくこと

  




――――――

――――


――




 ゴブリンさんの巣穴に初潜入(初訪問)した日から数えて、早くも三日ほどが経ちました。


 あの後アルバンヌの村に戻ってからというもの、すぐに村長さんに事の経緯をお伝えいたしまして、対立ではなく共存への道を提言させていただきましたの。


 さすがに村長さんの一存では決められないとのことで、私たち自らが村の中を歩き回って、村民の皆さまを説得する流れになってしまったくらいなのです。


 それぞれの内容を事細かに話すと長くなってしまいますので割愛させていただきますけれども……!


 思えば、むしろゴブリンさんとのお話よりもこちら(人間側)の説得のほうが大変だったかもしれません。


 真っ当に渋られる方、必要以上に怖がられる方、挙げ句の果てには私たちとの面会すら拒絶なさる方……。


 実は結構ギリギリのところでしたの。

 追い出される寸前まで来ていたと思います。


 話の節々の選択肢を間違えていたら、きっと面会は叶ってはおりませんでしたでしょうね。


 いやはやド田舎の閉鎖環境の真髄を垣間見ましたの。

 特に最後の一軒が一番大変でしたの。


 一日中解きほぐして翌日を迎えて、本当につい先ほど終わったくらいなんですもの。


 軒先でいきなりお水をかけられてしまったのはさすがに人生初めての経験でしたわね。


 動揺と羞恥と屈辱のあまり、新しい癖の扉が開いてしまいそうになりましたの。


 ……ぅおっほん。

 もちろん八割方は冗談ですの。お構いなく。



「何にせよ、人の心を拓くというのは田畑を(ひら)くよりもずっと難しいコトなのかもしれませんわね……。

聖清への道は前途多難な道のり……ああっ、想像も出来なさすぎてテンションただ今絶賛爆下がり中ですの……っ」


 じっとりと濡れてしまった修道服を陽光で乾かしながら、とりあえずふぅっとため息を吐いておきます。


 頭を抱えておりますが、視界の端に映る私の薄金髪が煌めいております。

 ふふふ、まさに水も滴るイイ女ということです。


 おかげでちょっとだけ回復いたしましたの。

 やはりメンタルケアは自惚れるに限りますわね。


 近くに若々しい殿方でもいらっしゃればもっと早かったのでしょうが、お生憎、村期待の働き手たちは皆街の方に出稼ぎに行ってしまっていらっしゃいますからね。


 濡れた乙女が居ても誰も手を出してきませんの。

 イコール宝の濡れ腐れってヤツですの。


 同じく私と同じように服を乾かしていらっしゃるスピカさんをチラリと視界の端に映します。


 彼女のほうが私よりもずっと薄着ですので乾くのは早いでしょうが、その分濡れたままでは寒くないのでしょうか。


 さすがは今代の勇者サマってことでしょうか。

 小柄な乙女とは思えないほどタフですわね。


 むむ。視線に気付かれたのか目が合いましたの。



「村民さん方の気持ち、私はちょっと理解できちゃうんだよね。リリアちゃんが普通にゴブリンと会話してたの、横で見てた私でもまだ半信半疑なくらいだもん」


「そうは言っても分かってしまうモノは分かってしまうんですもの。

この際更にぶっちゃけますけれども。彼ら、その辺の人間よりもずっと物分かりのよい方々だと思いましたの。知能レベルが低い魔物だとは到底思えませんでした。

……この情報、単にお互いへの理解が及んでいないだけなのではありませんでして?」


 魔王との休戦協定だってそろそろ三百年にもなるのでしょう?


 もう少しお互いに歩み寄ったほうがいいと思うのです。もっとお国レベルで異文化交流に励んでくださいまし。


 ずっと分からないままだから怖いままなんですの。


 それにほら、数多の生物の心が分かる特技の持ち主だって、別に私だけってお話でもないのです。街の中を探せば何人かは見つかるはずです。


 人間のほうがよっぽど頑固で偏屈で面倒ですの。

 もっともっと素直になるべきだと思うのです。


 むしろ村民への説得がたったの二日強で終わったのは運が良すぎたくらいなのでしょう。


 察するに、村民の皆さまも心の奥底では現状からの打開を望んでいてくださったようです。


 排他や討伐ではなく共存の道を見据えてくださったこと、まずは一人の心ある乙女として感謝させていただきます。


 とはいえ、ですの。



「……でも、今後も慈愛と友愛の精神を貫き通していくにはちょっと無理がありましてよ……気合と根性のほうがよっぽど大事そうですの。

使命感だけではどうしようもないことだってありましてよ……今回はなんとか上手くいきそうですので何も言いませんけれどもぉ……」


「そういうのもひっくるめて女神様の教えを説いて回るのが聖女様のお役目なんじゃない? ほら。艱難辛苦も修行の一環、とか何とか国王陛下も言ってたじゃん?」


「私自身は別に、救いを求めていない方々に恩着せがましく押し付けて回りたいほど、一途な女神様信徒ではないつもりですのー。各々、自由にやりたいように生きればそれが一番だと思っておりますのー」


「あっはは、超ドライで超ビジネスライクな聖女様ってのも斬新だよね。……あ、別に他意はないよ?」


「大丈夫ですの。分かってますの」


 むしろスピカさんもそう思われまして?

 実際のところ私も同じことを思っているのです。


 それこそ私以上に聖女に向いていそうな修道女なんて、世の中にはゴマンと居ると思われます。


 そういう物好きな方々で、どうぞお好きなようにドンドンと信徒を増やしていけばよろしいのです。


 私は少し離れたところから見守っておりますゆえに。



 おっと。お話が少し逸れてしまいましたわね。

 村民方への説得についてに戻しましょう。


 彼らがゴブリンに対して簡単には首を縦に触れなかったお気持ち、もちろん私だって分からないでもないのです。


 ただでさえお相手はヒトではなく魔物で、まして直接の言葉は通じないような存在で、更にはつい先日まで村の農産物に対して盗みを働いていたとなれば、警戒しないわけがありません。


 下手したら私が魔物サイドの悪者で、裏でこの村を貶めようとしているようにも見えてしまうかもしれませんもの。


 目先の安全だけを考えるのであれば、さっさと巣穴への入り口を封鎖して、そのまま火でも放ってしまえば万事解決なのです。


 しかしながらそういった短絡的な選択肢を取らずに、あくまで〝互いに協力して農業を発展させるコト〟を視野に入れていただけたのは、私の話術に説得力があったばかりではないのでしょう。


 きっとそれは私が聖女(・・)だったからですの。


 ただの小娘のイチ発言でしかなかったモノでも、この肩書きが言葉に重みと信憑性を付与してくださったのだと思われます。


 ある意味身分に助けられてしまったも同然ということですわね。これからも使えるときには積極的に行使してまいりましょう。


 基本頑固で融通の効かない女神様だって、善なる行いの為であれば許容してくださるはずですし。


 戦闘力がほぼほぼ皆無な私にとって、この肩書きこそがメインウェポンだと言っても過言ではないのです。


 ぶっちゃけ聖魔法よりもずっと使い勝手がよろしいですの。


 魔力量的な回数制限だって信仰心に訴えたお祈り行為だって一切必要ございませんし。




 というわけで来たる村民とゴブリンの会合日は翌々日。



 それまで私とスピカさんは準備に根回しに大忙しの日々を過ごさなければなりません。


 当日を迎えるまでにも何度かゴブリンさんの巣穴に足を運んで、事前の打ち合わせをしておかなければいけませんし。


 双方への橋渡し役としてやらねばならないことが非常に多いのでございます。



「はぁぁぁっ。魔王城への道すがら、ひたすらにドンパチ剣火を散らして突き進んでいくのが勇者ご一行、というわけではないんですのね」


「そうだね。一応、今はもう仮初の平和な世の中ってことになってるからね。私たちの役目は〝この平穏なトキを後世にまで繋げていくこと〟なんだよ。きっと」


 ええ。そうだと思いますの。


 たとえ地味な役回りでも、その一つ一つの積み重ねこそが最大多数の幸福を生み出していくってことですわよね。


 実に女神様の好きそうな行いですこと。

 まぁ、私も別に嫌いではありませんけれども。



 さてさて、一息吐けましたしそろそろ本日の根回し作業を再開してまいりましょうか。


 今から行うのは面会会場の確保と当日の動線の確認でしたっけ。


 こちらも至極重要なことですの。

 全部完璧にやり遂げて差し上げますのっ。

 

最近、少しずつブクマが増えていっております!

皆さまの応援とご継読ッ!

誠にありがとうございますッ!

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