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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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パンが無ければ作ればいいだけですのっ

 

 これだけ沢山のご家族を養わねばならないとなれば、さぞかし沢山の食糧を集める必要がありましょう。


 森の中だけで全てが完結していれば問題はないのですが、上手く回っていないがゆえに、あの村から度々に拝借しなければならなくなっている状況なのです。


 そんな罰当たりな行為はダメですの!


 と、そうお伝えするだけなら簡単なのですけれども。


 ありがたぁいお言葉だけで世の中が良くなるほど現実というモノは甘くはありません。甘いのはお菓子だけで充分です。


 私は女神様に仕える聖女の身ではありますが、だからといって夢見がちなふわふわ系乙女ではないつもりですの。


 根っこのほうはかなり現実的なほうなのです。


 人よりもだいぶ浮ついた(へき)のせいで、よく勘違いされてしまいますけれども……っ。


 目の前に問題があるならさっさと的確に片付けてしまうのが吉ですの。


 困ったときの神頼みほどアテにならないものはございませんからね。


 やれることは自分たちでやるつもりですのっ。



 さてさて、今ここで大事になってくるのは問題点の洗い出しと打開策の掲示でしょう。


 盗みは罪ですのー。

 いけないことですのー。

 罪には罰が必須なんですのー。


 口を酸っぱく、お耳に小っちゃなクラーケンが出来てしまうほどに牽制させていただきますけれどもっ。


 愚直で安直で結論を選んでしまってはいけません。


 今後、悲しいイザコザが起こらないようにするにはどうするべきなのか。


 ……そういえば持続可能な自立社会を形成するにはナンタラ・コウタラが必要だと、近年やけに頭の天辺が涼しくなり始めた王都の司祭様が説うていらっしゃいましたっけ。


 ふぅむ。キチンと聞いておけばよかったですわね。



「あの、お先に確認させていただきたいのですが、アナタ方は別にあの村に害を及ぼしたいわけではございませんのよね? あくまで食糧確保の為に仕方なく、なんですのよね?」


「アア。モチロンダ。我々ハ第一ニ平穏ヲ求メテイル。必要以上ノ欲張リハシナイ」


 その口から発せられたキーキーいう鳴き声には、ほんの少しだけ憂いが帯びているように感じてしまいました。


 心なしか彼の口角も下がっていて、尖った耳と鼻もシュンと力無く垂れているように思えます。


 そのままゴブリンさんが静かにお続けなさいましたの。



「……ココ数年ハ森自体ガ狭クナッテキテイル。内側ダケデ得ラレル実リニモ限界ガ有ル。森ノ外ノ植物ハ人間ガ育テテイルト承知シテハイタガ……生キル為ダ。止ムヲ得ナカッタ」


「ふぅむ。自覚と認知はございましたのね。正直に打ち明けていただけてヒト安心いたしましたの。

大船に乗ったつもりでドンと来なさいまし。私は聖女ですゆえに、迷える子羊をより善き方向へお導きするのが使命なのでございます」


 彼の懺悔を耳にしているうちに確信できてしまいましたの。


 真摯な言動と態度に、嘘を吐いているようには思えません。


 私は己の選美眼に絶対の自信を持っております。

 心の(きたな)さには人一倍にビンカンなんですのっ。


 もし彼が偽りの言葉(外鎧)で身を塗り固めているのであれば、きっと(聖女)の中に眠る神聖パワー(乙女の直感)が黙っておりませんでしょうし。


 それにほら、彼のお顔は悪鬼のソレではなく、一人の立派な父親の顔をなんですもの。カッコいいですの。


 ついお力になって差し上げたくなるのが恋に恋する乙女というモノです。


 会話の始まりから小指の先ほども悪センサーが反応していない以上、彼を信じて差し上げる以外の選択肢は出てきません。



「ふぅむ……となりますと、まずは〝盗むしかない〟という状況を改善するのが手っ取り早いかもしれませんわね」


 この問題は人間側とゴブリン側、双方の理解が足りないだけなのかも、とも思えるのでございます。


 お互いの現状を理解し合うことが叶えば、目先の問題を解決するどころか、より良き未来を築いていけるキッカケにもなり得るのではありませんでしょうか。


 ましてこんなにも技術力の高いステキな巣穴を築き上げることができる一族さんなのです。


 さすがにゴブリンたちだけで自給自足はできないかもしれませんが、あの村と〝共存する〟ことくらいはできるかもしれませんの。

 


「最後に。別にアナタ方は楽して糊口を凌ごうとは思っていらっしゃいませんのよね? ソレ相応の報酬が担保されているのであれば、多少の労働は許容できますのよね?」


「無論ダ。我々ハ既に物作リノ醍醐味ト喜ビヲ知ッテイル。……ダガ、先程カラオ前ハ何ノ話ヲシテイルノダ?」


「ふっふんっ。足りないパズルのピースを埋めているだけですのっ。お陰様でだいぶ集まってきましたの。案外イケるかもしれません」



 ならばこの私が架け橋になって差し上げましょう。


 私のこの特技を用いて、双方の誤解と誤認を解くのです。


 たとえ言葉を交わせずとも。

 互いに敵意がないと分かれば。

 害を及ぼすつもりもないと分かれば。


 同じ目的(食糧確保)のために汗水を垂らすことができると分かってしまえばっ。


 未来に憂う必要なんて無くなるはずです。



 このスペシャル聖女様が導いて差し上げましょう。



「パンが無ければ作ればいいだけですのっ。奪い合うのではなく、隠し合うのでもなく。全部晒しておしまいなさいまし。

美味しいご飯に人も魔物も関係ありません。生まれたときは皆、裸。心も身体も素っ裸なんですのッ!!」


「…………ツマリハ、ドウイウコトダ?」


「アナタ方、建築業のお次は農業に挑戦してみませんこと? 人間と一緒に農作物を育ててみるのでございますっ! 共に農地を広げて食糧問題を解決してしまえばよろしいのですっ!」


 むっふっふっふっ。


 そうすれば私たちが長旅から帰ってくる頃には、この辺り一帯には一面豊かな麦畑が広げられていて、それはもう美味しいパンが本当にお腹いっぱいに食べられるようになってくださるはずです。


 短絡的な欲求を満たすだけではダメですのっ。


 いざ私たちが凱旋をした際に、国民の皆さまから褒められる以外の楽しみがあったほうが旅の士気が上がるに決まっているではございませんか。


 情けは人の為ならず、ですの。


 ……念のため釘を刺しておきますが、わざわざこんなド田舎の小村に立ち寄ったというのに、満足に食事も楽しめなかったというつらみをなんとかしたいわけではありません。


 私は合理的かつ利己的かつ才色兼備をウリにしたクレバー聖女なんですのっ。


 転んでもタダでは起きないってことですのっ!



「となれば善は急げですわよね。急いであの村との会合の場を設けましょう。

ご安心なさいまし。私の慈悲深さをもって必ず成し遂げて差し上げますからね。さすがに今回ばかりは女神様にも胸を張って善性を誓えましてよっ」


「普段ハ違ウノカ?」


「ついつい約束を破って叱られること日常茶飯事ですのっ。日課の黙想よりも頻度が高いですのっ」


 てへぺろりと茶目っ気を見せて差し上げます。


 ふっふん。いかがでしょう。

 この私の聖女ジョーク、略してセイ・ジョーク。


 全人類、抱腹絶倒間違いなしでしてよっ。




 ……ふぅむ? 意外に辺りが静かですわね。



 私の鉄板ネタでしたのに。お珍しいこともあるようで。


 きっとお相手がゴブリンさんだからですの。

 せめてスピカさんくらいは笑ってくださいまし。

  

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