私のほうからも謝罪させてもらおう
スッと後ろを振り向いて見てみれば!?
つい先日に私の腕をぐるぐる巻きにしたあの白髪編みのエルフ女性さんがッ!?
物陰からサラッと現れなさいましたのッ!
「あなたはこの前のっ!」
目を細めるような微笑みを今日も変わらずお顔に張り付けていらっしゃいます。
口振りこそ気の抜けるようなのんびりスピードですが、彼女の醸す雰囲気にはどこかピリリと肌を刺すような緊張感がありますの。
縛るときの手際の良さといい、普段の振る舞いや仕草や身のこなしといい……まず普通の方だとは思えません。
絶対に戦い慣れしていらっしゃいますわよね。
今だってほら、またしても音もなく忍び寄られてしまいましたでしょう?
まるでつむじ風のようなお人……ならぬつむじ風のようなおエルフ族様と言っても過言ではないのでございます……ッ!
「はいどうも〜勇者と聖女のお二方。改めましてこんにちは〜。お外を歩けていらっしゃる感じ、疑いは晴れたようで何よりですね〜。
見たところ腕のほうにも特に何もなかったようで。ああ、よかったよかった〜」
「そ、その節はどうもですの。あんまり気にしないでくださいまし。どのみち最終的には腕も足も身体も全部ギチっと拘束されちゃいましたゆえに。手痛い仕打ちには慣れておりますし」
別に変に根に持っているわけではないのでご安心くださいまし。
確かにギチギチに縛られて痛かったのは本当ですが、アレもお仕事の範疇だったのだと理解できております。
もしも被疑者の腕を緩く結んでいて、それが原因で逃げられてしまっては元も子もありませんわよね。
おそらく彼女は彼女の務めを果たしただけですの。
それに対してどうして恨む必要があるというのです。
そりゃあ……かなり痛かったですけれども。
数日の間、跡が残ってしまっておりましたけれども。
たとえこの人にサドスティックな内面があったとしても、私がその欲求のはけ口になってさしあげたと考えれば、また一つ善き行いをしたとも言えますでしょう!?
今はポジティブに考えておきましょうか。
ただでさえ直面している悩みがかなり大きなモノなのですから。
まだ大森林攻略の鍵が見つかっていないのです。
今はまさにこの先路頭に迷う……もとい森頭に迷うか否かの瀬戸際に立っていると言っても過言ではありません。
姿勢を正して正面から向き合ってさしあげます。
すると、私の視界の隅っこに何やら別の動くモノも映り込みましたの。
「……コホン。私のほうからも謝罪させてもらおう。すまなかったな。悪く思わないでほしい」
「あら、アナタは……っ」
森林パトロール隊の隊長さん、でしたっけ。
これはこれはご丁寧にどうもですの。
近くにいらしたのは白髪さんだけではありませんでした。
あの緑髪のエルフ族さんのお姿もあったのでございます。
彼女は頬に大きな裂傷がある、とにかく凛々しいお顔の女性エルフさんですの。
集落を取り囲む大きな木の根に背中を預けるようにして、スラリとスマートに佇んでいらっしゃいます。
「なんだかお久しぶりな気がいたしますわね……」
別に同じときを過ごした期間が長かったわけでもございませんけれども。
それこそ数日の間しか一緒におりませんでしたし、何なら仲がよろしかったわけでもありませんけれどもっ!
私が洞窟牢に入れられてから今日に至るまで、お二方のお姿は一度も見ておりませんでしたゆえにもしかしたらまた集落の外にでも見回りに出られていらしたのではありませんでしょうか。
まさかずーっと遠巻きから私たちをご監視なさっていたとは思えませんし……。
であればさすがの私でも気配に気付けたはずです。
先日に察知のコツを掴んだも同然ですもの。
それでもバレないだなんて、さすがに隠密スキルが高すぎると思いますのっ。
……でも、ただでさえお忙しそうなお二方が、どうして今になって私たちの目の前に現れなさったのでしょうか……?
チラリとお隣を確認してみれば、私と同じようにスピカさんも戸惑いのご表情を浮かべなさっていらっしゃいます。
けれども彼女はすぐにハッと息を漏らして、新たなご質問をお向けなさったのでございますっ!
「そっかっ! わざわざこのタイミングで私たちの目の前に現れてくれたってことはつまり!?」
「ああ、長老から話は聞いている。貴様らの行脚に我々が同行してやっても構わない。ただし、一時的かつ限定的な条件にはなってしまうがな」
「はぇっ!?」
「ちなみに報酬金はいただきますよ〜。ただのボランティアに時間を割いていられるほど、私たちも暇ではありませんので〜」
まじですの!?
ベストタイミングなご提案ですのッ!
相変わらずにこやかな微笑みのまま、何ともドストレートに言葉をぶつけてきなさるのはちょっとだけメンタルに来てしまいそうになりますけれども。
これこそ歯に衣着せぬの典型例かもしれません。
強者のオーラをヒシヒシと感じてしまいます。
でも、ありがたい申し出なのは紛れもない事実ですわよね。
何度も何度も不毛な交渉を続けなくて済むようになると思えば、両手を上げて喜んでしまいたい私がいるのです。
……しかしながら、ですの。
「で、でもどういたしましょうスピカさん。さすがに渡りに船な気がしてなりませんの……私の気にしすぎでしょうか……」
この頭のアホ毛センサーが反応したわけでも、また聖女のビビッと警笛アラートが準備体操を始めたわけでもありませんけれども。
何故だか彼女方の思惑を勘繰りたくなってしまったのでございます。
彼女らの他にエルフ族の知り合いはおりませんし。
他に頼れそうなツテもないに等しいわけですゆえに、これが最後のチャンスだとも重々に理解しておりますけれども……っ!
無駄に時間をかけて、下手に彼女らの気を損ねる必要はないとも分かっておりますけれどもーっ!
ふぅむぅ。
私たちの旅にご同行いただける理由くらいは伺っておいてもバチは当たらないと思います。
何の難もなく、トントン拍子に話が進んでしまうのはそれはそれで不安になってしまうのでございますっ。
「えっと、あの……もしよろしければ私たちにご助力いただける理由とか、一時的かつ限定的という条件についても、軽ぅくお伺いしても?」
「いいだろう」
「あ、ありがとうございますのっ……!」
であれば素直に拝聴させていただくだけですの。
足元が地面でなければ即座に正座をしていたかもしれません。
それではどうぞ、お聞かせくださいまし。




