コレっていったい何故なのでしょう?【挿し絵有り】
はい、ごきげんよう、世間一般の皆さま方。
いきなりですが私は新米聖女のリリアと申します。
そして同じく突然ですが、ここはお城の王の間です。
金ピカな玉座の他にも、天井や壁の至るところにゴージャスな装飾品が散りばめられ――
いえ、少しだけ嘘をついてしまいました。
緊張のせいです。どうかごめん遊ばしくださいまし。
まだ、王の間には足を踏み入れておりませんの。
正確にはココは王の間へと続く大扉のド真ん前なのでございます。
この扉一枚を隔てた向こう側に、今まさに国王陛下が鎮座なさっていらっしゃるのでございましょう。
「……ふぅ。正直、プレッシャーがハンパないよね」
「ええ、仰るとおりですの」
前方からヒシヒシと伝わってくる圧に加えて、ただでさえ私たちのような非力な乙女ではビクともしなさそうな堅牢さが相乗されておりまして……!
それはもう身体がガッチガチに強張ってしまうのでございます。
実際のお話、両目に映しているだけで背筋にゾクゾクッという痺れが走ってしまうくらいなんですのよね。
私、肩書き上ではそれなりに尊まれるべき身分ではありますけれども……特異な出自のせいか、あんまり公的な場にはお呼ばれされたことがありませんでして……っ!
はぁぁぁーっ。国王様にお目に掛かったら、少しの粗相もいたしませんよう気を付けませんと。
ちょっと気を抜いたらすーぐにボロが出てしまいますからね。今一度気を引き締め直しておき――って、ちがいますの。
話の本質はそこには小指ほどもございません。
私ったら珍しく動揺してしまっているようですわね。
これでは上手くいくコトもそうはなりませんの。
今のうちから身も心もほぐしておきましょうか。
「あの、一緒にお呼ばれされた新米女勇者様のスピカさん?」
「うん? どしたの新米聖女様のリリアちゃん」
私のすぐお隣に佇む、これからの旅の相棒さんにサラりとお声掛けをさせていただきます。
この方、小柄でとっても可愛らしい少女さんですの。
私と同じく任命式の緊張の為か、顔付きをいつもよりも三割り増しにキリッとさせていらっしゃいます。
それがまた愛らしさと勇ましさの両方を感じさせてくださいますの。
この際ですから舐めるように全身を見てさしあげましょう。
「……ふぅむ」
ああ、何ともお可哀想なこと。
私と同じ齢18歳にしては身体の生育が著しく芳しくなかったのでございましょうか。
低身長かつほっそりスレンダーなご体型。
特に胸の辺りなんかは膨らみが全く足りておりません。
切り立った崖ともイイ勝負ができそうなレベルですわね。
少しくらい私のお胸肉を分けて差し上げても神罰は下らないかと思いますの。我ながらなんて慈悲深い思考回路でしょうか。
うふふ、おほほほ、うおっほん。
「ん? なぁにどしたの? 私の顔に何か付いてる?」
「いえいえ特には。とっても愛らしいお顔だなぁと思いまして。乙女の戯言と軽く聞き流してくださいまし」
「ふーん。変なリリアちゃん」
一人こっそりとニヤニヤしておりましたところ、あどけない疑問顔を向けられてしまいました。
短めの赤茶髪が光を適度に反射しております。
潤いの値が素晴らしいんでしょうね。
見た感じでは気丈に振る舞っている彼女も、きっと心の内では緊張と不安に苛まれていることでしょう。
肩に余計な力が入っていらっしゃるように見えますの。
ええ。おそらく、多分。そんな気がしております。
はてさて。二人して今からこんな具合ではお先が思いやられてしまいますわよねぇ。
早急になんとかしてさしあげませんとっ。
こんな調子では魔王城に辿り着けるわけがありません。
「……あの、やっぱりお一つだけ質問をよろしくて?」
「うん? どしたの?」
はじめにすぅーっと息を吸います。
その後にふぅーっと息を吐かせていただきます。
彼女の視線をコレでもかというくらいに浴びまして。
……そして。
「私ね、右乳首をクニクニってすると〝あふぅん♡〟ってなるんですけれども、逆に左乳首の方はフニフニってしても〝あ、ふーん〟程度で終わってしまうんですの。感度の差って言えばよろしくて? コレっていったい何故なのでしょう?」
「し、知らないよ、いきなりどうしたのリリアちゃん……」
うふふ、ドン引きなさったお顔が実に可愛らしいのです。
それはもう舌先で入念に転がしてから食べてしまいたいくらいに。
いつかはやってみたいものですわよね。
さすがに今実行に移すと怒られてしまいますので、断腸の思いで我慢しておきますけれども。
「コッホン。またまたこれまた冗談ですの。必要以上に緊張なさっていらっしゃるようでしたので、和ませてさしあげようかと」
「だったらもうちょっとやり方ってのがあると思うんだけど……まぁでもありがと。実際緊張しちゃってたわけだし。
そうだよね。今クヨクヨしてたって仕方ないもんね。
今日の為に任命式の練習だって繰り返しやったんだから……だ、だだだ大丈夫だよね……!?」
「ええ。世の中案ずるより産むが易しですの。この私がついてるんですからドーンと構えてくださいまし」
日々の修行というモノは裏切らないのでございます。
いや修行とはいっても私の場合はほとんどが女神様へのお祈りだけでしたし、武闘派のスピカさんとはちがって極端な肉体労働には励んでおりませんし。
その辺りが今後の旅にどう影響してくることやら……?
と言いますか、ぶっちゃけたお話、王様からお声掛けいただいた最初から最後まで暇を持て余していたくらいですの。
ナニか面白いことはないかと日々〝自己開発〟に励んでしまっていた最中のコトでしたけれどもっ!
おぉっと。純情乙女なスピカさんに聞かれてしまっては、まず間違いなくお顔を真っ赤にされてしまうと思います。
このタイミングで湯気を出して倒れられたら面倒ですので黙っておきましょう。
改めまして、二人して深呼吸をいたします。
それから私は左拳を、彼女は右拳を扉に添えます。
二人仲良くコンコンと、小気味よくノックさせていただきました。
それでは、まいりましょうか。
「「いざ行かん。私たちの」」
「正義と平和の旅へ! だねっ!」
「旦那様探しの旅へ! ですの!」
「「…………ん?」」
お互いに顔を見合わせてしまいます。
あらあら、何だか言葉が合いませんでしたわね。
コレは偶然か、それとも必然か。
私の言葉の意味もきっとお分かりになられますでしょう。
長い長い旅の最中に、必ずや、ですのっ。
こうして、合法ロリ街道まっしぐらな純情女勇者のスピカさんことエルスピカ・パールスターと。
超絶完全完璧スペシャル聖女の私、リリアことリリアーナ・プラチナブロンドのっ!
輝かしいセイ春の冒険が、ぱっくりくぱぁっとその幕を開けたのでございますっ!
あ、一応念のために釘を刺しておきますけれども。
決して乙女たちの尊い膜ではありませんでしてよ?
あくまで映えある冒険の幕ですの。
ふぅむ? 別に誰も勘違いなどしていない?
ふっふんっご安心をばっ。
この私が好きに口走ってしまいたいだけなのです。
他に大した意味はございませんので悪しからず。
無意味な思考を他所に、今まさに仰々しい重低音を響かせながら、目の前の大扉が開かれていきます。
真っ先に足元の真っ赤な絨毯が瞳に映り込みましたの。
ごくりと息を呑み込みまして、やけにフッカフカなその上を二人で歩幅を合わせて進んでまいりますっ。