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第8話 武器

 私達が暮らしている夢と現実の狭間の世界は、夢想郷レヴァリス。

 そして怪物メアが潜む夢の世界は、

夢界レーヴと呼ぶらしい。



 夢界には"深さ"という概念が存在する。


 深くに潜るほど強力なメアが多く生息し、我々にとって危険度が増す。

 私達にとって夢は海のようなもの。

 海が私達にとって生きられる環境ではないように、夢もまた、本来私達が生きる場所ではないのだ。

 だから浅ければ比較的安全で、逆に深くなるほどに未知の存在や危険が潜んでいる。

 

 だから、夢を深追いし過ぎては…例えクレセントの隊員であろうと、命を危険に晒すことになる。

 


 夢境域0%〜20%は、限りなく現実に近い、浅い夢。

 一人一人の記憶から創られる、その人だけの世界で、いわゆる記憶の整理として使われている。

 夢を見ている人が目覚めれば、すぐに消えてしまう不安定な世界。

 この区域には普通のメアは入り込めないから、私達も行くことは滅多にないらしい。



 夢境域20%〜50%は、まだ比較的安全で、弱いメアが多い区域。

 新人から一般隊員まで、多くのクレセント達の主な活動区域になっている。

 この区域には無数の夢の世界が存在しており、多くの人々によって共有されている区域らしい。

 つまり、0%〜20%は個室、プライベートルームで、20%以上の深さにある区域は、皆で使う共同スペースという訳だ。



 夢境域50%〜80%

 この区域になると、彷徨いているメア達はより強力になる。

 そのため、一定以上の実力を持つ隊員でなければこの区域に行ってはいけないらしい。

 私やムトさんがそうだったように、順応力が高い一般人が夢を見ているうちにいつの間にかこの区域に迷い込み、強力なメアに襲われ命を落とすことがあるそうだ。



 夢境域80%以上は、メア達の巣窟。

 普通の人間は入り込めないし、実力のある隊員達でも長居をするのは危険な場所だ。

 メア達は現実に近い浅い夢に上がっていくほど力が出せなくなるが、この区域は純度の高い夢の世界。

 メア達がほぼ100%の力を出せる場所のため、危険度は最も高く、隊員達がこの区域に降りることはほぼ無いらしい。





「…うーん、覚える事が多いなあ…つまり、深い場所ほど危ない、難易度の高い場所ってことだよね」



 翌日の朝。


 私は任務に向かうまでの待ち時間で、クレセント隊員用の教材に目を通していた。

 ムトさんは任務をこなす内に自然と知識は身に付くと言っていたけれど、やはりなるべくは事前に調べておきたい。

 とはいえ難しい単語も多く、ほとんど頭には入っていないのだが…まあ、不安や緊張を紛らわすには丁度良い。


 何せ私はまだムトさん達以外の隊員と交流したことがないものだから。

 上手くやっていけるかとか、失敗したりしないだろうかとか…正直今は、楽しみな気持ちより不安で一杯だ。



「…チヅル、起きているか?」


 コンコン、とノック音が聞こえ、急いで玄関の扉を開ける。

 私の上司になったスーツがよく似合う長身の男性、インテリヤク…いや、氷室さんだ。


「…顔色があまり優れないようだが、しっかり休めたか」


「は、はい、ばっちりです!本日の初任務、よろしくお願いします!」


 相変わらず威圧感があって怖い人だが、決して悪い人というわけではない。

 いまいちどんな風に接すれば良いのか分からないが、やる気がある部下の方が印象は良いはずだ。

 私はなるべく元気よく挨拶をし、頭を下げた。


「ああ、…任務まで時間もある。

 とりあえず、武器と装備品の確認をしよう」


 彼は部屋に入り、アタッシュケースを二つ、テーブルに置いた。


「お前のデータを参考に作らせた特注品だ。お前に最適な素材や重さ、性能が備わっている」


 オーダーメイドの武器に戦闘服…めちゃくちゃテンション上がるやつだ、それ。



 私はテーブルに置かれたアタッシュケースを一つ開ける。

 中には、黒い鉄製の折り畳み傘…のようなものが入っていた。


「これ…なんですか?折り畳み傘みたい」


 恐る恐る手に持ってみると、程よい重さで持ち運びには困らなさそうだ。

 よく手に馴染むし、何よりシンプルかつ上品な黒のデザインが気に入った。


「見た目通り、それは傘型の武器だ。

試しに軽く振ってみるといい」


 言われた通りに傘を軽く振ると、中棒が伸び1.5メートルほどの長さになった。

 鋼鉄製のそれは傘…というより、鋭い槍のように見えなくもない。

 手元のボタンを押せば傘が開き、大人2人くらいなら簡単に覆えてしまう大きさに広がった。


「…黒い鋼鉄の傘…って、なんだかかっこいいですね、思っていたよりは重くないし、折り畳めるから持ち運びもしやすいし」


「気に入ったなら何よりだ。

 市販の魔法書や杖はある程度攻撃技を使用する前提で作られているが、その傘は身を守ることに特化している。

 剣や銃による攻撃は弾いてくれるし、傘に力を纏わせれば強力なシールドになる。

 一点に集中するというよりは広範囲に力を振り撒きやすい設計になっているから、周りの味方の支援もしやすい」


 確かに、なんだか自分の力を注ぎやすいというか、手に馴染む気がする。

 氷室さんが言った通り、私のデータを元に、私に合うように作られているんだろう。


 そして今の話からすると、つまりこれは"盾"として使うのが良いのだろう。

 なるほど、それなら私にも使いこなせそうだ。


「そして、装備品…戦闘服の方は、お前のスキルである透過を行いやすいように、力を流し込みやすい素材で作られている。

 代わりに少々外部からの攻撃に対する防御力には欠けるが…内部からのお前の強い干渉力には耐えてくれるはずだ」


 戦闘服…黒い上着に黒いインナー、タイトな黒いズボンに黒ブーツ、そして口元の傷を隠す黒いマスク。

 全身黒ずくめな上に、武器まで真っ黒な傘ときた。

 だが、決して安くはないであろうしっかりとした素材と、私の体型に合うように作られているデザインのおかげか、洗練された格好良さのようなものを感じられる。



 …私だけの、私のための、戦闘服と武器。

 それが何だかとても嬉しくて、必要以上に身体を動かして着心地を確かめてしまう。


「サイズは…問題無いようだな。では早速だが、本日の任務に向かってもらう」


「はい、よろしくお願いします!」


 準備も整い、いよいよ初任務だ。

 正直緊張はするが、氷室さんもいてくれるのだし大丈夫。

 ムトさん達に胸を張って会えるように、しっかりと初任務を成功させよう。


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