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第7話 怖くて優しい

「…改めて、俺は今日からお前の上司として共に働くことになったガーディアン、氷室だ」


「…ち、チヅルです、よろしくお願いします」


 前回までのあらすじ。

 明らかにカタギじゃないお兄さんが私の上司になりました。


 どうしよう、とても怖い。


 前髪を後ろに流し、きっちりと整えた黒髪。高級そうな黒スーツがよく似合う、すらっとした高身長。

 知的な印象を与える眼鏡に、涼しげな目元。

 顔立ちはとても整っているが、眉間に皺を寄せこちらを見下ろすその姿はただのインテリヤクザ。


 初対面なのにニコリともせず、女の子相手にひたすら圧をかけてくる成人男性ってどうなのでしょう。

 比較的目付きが悪いムトさんだってあんなに無害そうなオーラを出してたのに。


「俺は今まで部下を持ったことがなくてな、お前が初めての部下になる」


「そ、そうなんですか…」


 初めて…というのはなんだか悪くない響きだが、相手はあくまでインテリヤクザ。

 素直に喜んで良いのかが分からない、というかどう接すれば良いのか分からない。

 なんかずっと不機嫌そうな顔だし。


「明日からは早速任務をこなす事になる、今のうちに分からないことがあれば聞け」


 そう言いながら彼は私に背を向け、早足で歩き出した。

 こ、この人、歩幅とか考えないで歩くぞ…一応私、病み上がりなのに…!





「訓練所ではどの武器を使っていた?剣や銃は扱いやすい初心者向けだが、お前なら杖のような上級者向けでも使いこなせるだろう」


 暫くして武器ショップに着いた私達は、さまざまな売り物の武器を眺めながら歩いていた。

 一番人気だの、最新式だの、色々説明文には書いてあるが…正直どれも扱える気はしない。

 というか、実際扱えない。

 私には攻撃の才能が一切無いのだから。

 氷室さんはこれが攻撃しやすいだの、これは高威力だの、色々と教えてくれているが…どんなに優れた武器であったとしても、私には到底使いこなせないだろう。


「…どうした、難しい顔をして」


 黙り込んでしまった私に気付いたようで、氷室さんは眉を顰めながら此方に視線を向けた。


「…その、言いづらいんですけど、」


 私は恐る恐る、自分には攻撃が出来ないこと。

 サポーター、後方支援として活躍していきたいことを伝えた。


 私の高いステータス値を見込んで部下に指名してくれたのだから、攻撃が出来ない…なんて知られれば間違いなく怒られるし、がっかりされるだろうと身構えながら話したのだが、予想に反して氷室さんは、今以上に眉間の皺を深くすることはなかった。


「そうか、…資料の確認不足だった、すまない。

 だが、それならいい武器がある。扱いは難しいが、お前ならば大丈夫だろう」


「えっ、…あ、ありがとうございます」


 予想外の反応に戸惑いつつも、思わず言葉を続けてしまった。


「その、がっかり、とかは…してますよね?」


 そうだな、と肯定されてしまえば私はただ凹むしかないというのに、何故聞いてしまったのか。

 だが、


「…?、…別にアタッカーが欲しかったわけではないが」


 彼は相変わらず皺を寄せたまま、予想外の言葉を返してきた。


「けどその、干渉力高い人は攻撃力が高いから、アタッカーとして優れてるんですよね?何というか、やっぱり宝の持ち腐れというか……あ、いや、しっかり後方支援頑張りますけど!!」


「役割として、アタッカーだけが特段優れているというわけではないだろう」


 私の自虐的な面倒極まりない言葉に気を遣っている訳でもなく、ただ事実を淡々と述べるような口調で、氷室さんはそう言ってくれた。

 

「…むしろ俺は、お前が攻撃が苦手で安心しているが」


 …え、安心?

 本日一番の予想外の言葉に思わず目を丸くし氷室さんを見る。


「見た目通りのお人好しという事だろう、…お前が優しい心を持っている証拠だ、恥じることじゃない」


「………」


 先程と同じように淡々と。

 しかし、どこか穏やかな声色と表情。

 マスクで口元が隠れていなかったら、きっと私は今、口をぽかんと開けた間抜けヅラを晒していただろう。

 

「とりあえず、武器は明日までに俺の方で手配しよう。

 通常の店では基本的にアタッカー用の武器が多いからな、お前に合う武器となると、俺が取り寄せたほうが良いだろう」


「…あ、ありがとうございます」


「服も俺が選んでしまって大丈夫か」


「あ、はい、お願いします」


「なら次は…」


 




__________________________



「今日は色々とありがとうございました、明日もよろしくお願いします」


「ああ、…明日また迎えに来る」


 

 買い物を終えた私は氷室さんに部屋まで送ってもらい、お礼を済ませベッドに飛び込んだ。

 

 橙色のライトで照らされた、薄暗い部屋。

 窓の外からは綺麗な星空と大きな満月、そして月明かりで輝く海が見える。

 ベッドに寝そべったままでも眺められるその光景は、いつまでだって見ていられそうなくらい幻想的だ。

 

 夢の世界の特権というべきか、この世界での自室は内装も窓からの景色も、何もかも自由に変えられるのだ。

 もちろんお金は掛かるが、この内装は案外手頃な値段だったし、程よく薄暗くて綺麗で、とても気に入っている。



「…でも、流石に疲れたな」


 やはり初対面の人…しかも自分の上司と買い物をするのは気疲れするものだ。

 装備品や武器は明日氷室さんが取り寄せてくれたものを使うとして…。

 今日は他にも回復薬を買ったり、クレジットカード(この世界ではコインや紙幣は使わず全てカードで支払いをするらしい)を発行したり、あとはそう、スマホを手に入れたり。


 まさか夢の中でもスマホが普及しているとは思わなかったが、これで皆とやりとりをしたり、撮影をしたり…任務の詳細などを確認したりも出来るのだから、便利なものだ。

 やはり夢の世界だろうとスマホは最強。


「…氷室さんも、見た目は怖いけど…案外悪い人じゃないみたいだし」


 見た目はめちゃくちゃ怖いけど、何だかんだ優しい人だと思う。

 夕食も奢ってくれたし、部屋まで送ってくれたし、一度も理不尽に怒ってきたりはしなかった。

 昼間に一瞬だけ見せてくれた穏やかな顔がどうも頭から離れなくて、少しもやもやするが…それでも、彼のおかげで、攻撃が出来ないことへのコンプレックスというか…後ろめたさ、負い目…のような感情が、和らいだ気がする。


 とにかく、私は私なりに出来ることをやらなくちゃ。


「明日はいよいよ初任務…頑張るぞーっ!」


 ベッドに寝そべりながら、手足をじたばたさせ、うおーっ!と自分を奮い立たせる。


 夢の世界でメアと戦うのは少し怖いけれど、それ以上に、夢の世界に行くのが楽しみだ。

 


 …夢の世界…どんな感じなのかな。

 満天の星空を自在に飛び回って、海の中を人魚のように泳ぎ回って…。


 そんな、夢のある世界なら良いな。

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