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第1話 時計代わりの目覚まし音

「せんぱーい、ムト先輩ーっ!起きてくださいよ!お仕事の時間ですよー!」


 ドンドンと扉を何度も強く叩く音に、ゆっくりと上半身を起こす。

 生前ならば何時間寝ようと、目覚める際には必ず付き纏っていた眠気。だがそれは、今となってはあまり縁のない感覚だ。

 しかし、眠気があろうとなかろうと、ベッドから出る、という行為自体に強烈な面倒臭さを覚えるのは相変わらずで。


「せーんーぱーいーっ!!」


 とはいえ、起き上がらない限り扉の向こうから聞こえる催促の声は止む事はない。

 仕方なく、俺はベッドから這い出て扉を開ける。


「へーへー、起きてるっての。相変わらず、朝っぱらから元気だなお前は」


「もうっ、それならさっさと出てきてくださいよ!今日は大事な任務があるから早めに起きて用意しててくださいね、って言ったじゃないですか!」


 そう言って頬を膨らませ俺を叱り付けるのは、

 うっすらと青みがかった綺麗な銀髪をお団子ツインにした、可愛らしい顔に低めの身長…成人こそしているものの、どこか幼い雰囲気を持つ女性。

俺の後輩、リリィだ。


「昨日も遅くまで任務をこなしてたから疲れてるんだって…ったく、お前は体力馬鹿過ぎるんだよ」


「むむむっ、失礼な!元気さが私の取り柄なんです、いつも疲れた顔の先輩と違って!」


 悪かったな、いつも疲れた顔で。


 なんて反論する気力も今は起きず、後ろでギャーギャー騒ぐリリィを無視して床に落ちているスーツのジャケットを掴み取る。

 この世界では身体は一切汚れないため、風呂に入る必要がなく、朝の支度は楽で助かっている。

 とはいえ、綺麗好きなリリィには嫌な顔をされるため、軽く歯を磨いたり顔を洗うくらいはするのだが。


「さあ、準備が出来たなら早く行きましょう!」


「分かったから押すなって…」


 痺れを切らしたリリィは急かすように俺の背中をぐいぐいと押す。

 観念して部屋の外に出ると、星々が輝く薄暗い廊下を歩く。

 見慣れた光景ではあるが…何度見ても幻想的な光景だ。

 天井を見上げれば満点の星々。

 硝子の床には星々の光に染まった水が流れているが、不思議と靴が濡れることはない。




 ___俺、葛木かつらぎ 睦人むとは、元々は普通の社畜サラリーマンだった。

 毎朝必ず起こしに来てくれる可愛い後輩はもちろんいなかったし、こんな風にのんびり誰かと話しながら仕事場に向かった経験もない。

 毎朝時間ギリギリに起きて寝癖直して歯磨いて、駅まで走って満員電車に乗り込み夜遅くまで残業して。

 貴重な休日は丸一日睡眠時間として消費して、夢の世界に逃げ込んで…。


 そんなある日、いつも通り夢を楽しんでいた俺は、夢の中で醜い見た目をした化け物に襲われた。

 ただの悪夢かと思ったが、俺は目覚めることなく、夢にしてはやけにリアルな痛みを味わいながら、抵抗も出来ずに怪物に身体を喰い千切られ続けた。


 どうやら、夢の中にはただの悪夢では終わらず、現実世界にまで影響を及ぼし命を奪う怪物がいるらしい。


 大抵は襲われても少し体調を崩したりする程度で、命を奪えるくらい強力な個体に遭遇することはないそうだ。

 だが、現実から逃げて、長時間夢の中に入り浸る俺みたいな奴の場合は、運悪く強力個体に襲われることがあるらしい。 

 

 まあ、普通ならそこでゲームオーバー。

 大抵の場合はそのまま魂を全部、ぺろりと喰われちまうか、喰われなくとも現実には帰れず、二度と目覚めないまま夢の中に溶けて自然消滅するかだ。


 しかし俺は、運良く助け出された。

 夢の中で、怪物退治をしている組織…とやらに救出され、何とか魂は消えずにすんだ。

 結局現実世界には戻れなくなったが…俺は消滅することなく、こうやってその組織の一員として働いている。


 現実にまで影響を及ぼし、人々を襲う夢の中の怪物…"メア"

 メア達から人々を守り、現実と夢の世界の均衡を保っているのが、俺が所属しているこの組織。

 夢幻秩序維持機関、通称"クレセント"


 俺はクレセントの一員として、後輩のリリィをはじめとした仲間達と共に夢の世界で日々働いている。

 

 今日の任務は新人教育。今日からクレセントに入ることになった新人に、色々と世話を焼いてやらなくてはいけないのだ。



「新人さん、どんな人でしょうね〜」


「確か、そいつも俺みたいにメアに襲われてたのを救出されたんだろ?かなり酷い状態で、暫く集中治療室にいたらしい」


 そんな雑談をしながら透明なガラスのエレベーターに乗り込む。


 クレセントには日々、沢山の新人が入隊してくる。

 その中でわざわざ新人一人だけのために先輩隊員数人を教育係にする、ということは。

その新人には隊員数人を使ってでもサポートをする価値がある、つまり才能があるという事だ。

 ならば俺も張り切って面倒を見るとしよう。

一日でも早く、その子がこの世界に馴染めるように。

 

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