プロローグ
人は誰しも必ず、寝ている間に夢を見るものだ。
気になるあの子の夢だとか。
好きなゲームの夢だとか。
美味いモンを食う夢だとか。
自在に空を飛び回り、悪者を倒す夢だとか。
…まあもちろん、魘されて飛び起きるような、悪い夢もあるわけだが。
とにかく、夢ってモンはつまらん現実から逃れられる自分だけの理想の世界だ。
現実に疲弊し、友人も金も体力も…何一つ持っていない俺達にとっては、最後に残された希望…"夢"である。
少なくとも、俺にとっては間違いなくそうだった。
ところで皆はよく、同じ場所が頻繁に夢に出てくる、なんて経験はないだろうか。
実際に訪れたことはないはずの街や建物。
なのにどうしてか、夢の中で何度も同じ場所に訪れる。
建物の構造を覚えてしまうほどに、何度も何度も。
あるいは、やけに感覚がリアルな夢はどうだろう。
美味いもんを食えばしっかり味を感じる、なんかもそうだ。
或いは刃物で刺されれば痛みを感じたり、逆に自分が誰かを刺せば、決して柔らかくはない肉の嫌な感触がしたり。
だが、そんな夢を頻繁に見るようになったなら、それは"要注意"の合図。
夢は、ただ楽しいだけの世界じゃない。
夢の中には"怪物"が潜んでいるのだ。
だから、例えどんなに楽しい内容だとしても、夢を深追いし過ぎてはいけない。
夢に夢中になり過ぎた人間は、怪物にとっての獲物でしかないのだ。
――ベッドで目を瞑り、覚醒しそうな脳を再び深い暗闇に溶かそうと、必死に思考を止める休日の昼過ぎ。
もう眠くもないのに、どうにか楽しい夢の続きが見たくて。
しかしそれ以来、俺は二度と目覚める事が無かったのだ。