殲滅型黒魔導師の殺戮~味方が邪魔だと気付いた死神少女はソロで無差別にデバフを振り撒く。結局、最後に私だけが立っていればそれでいいんです~
物理白魔とは逆のコンセプトな主人公の短編です
「クロエ・フィルモニカ。すまないがパーティを出て行ってくれ。理由は……言わなくても分かるだろ?」
「はい……ご迷惑をおかけしました」
「いや、こちらこそすまなかった。君の能力を見誤っていた。今の俺達では、とてもじゃないが君についていけない」
「いえ……私が悪いんです。きちんと魔法を制御できないから皆さんに迷惑をかけて……本当にすみませんでした」
パーティを抜けるように言われた黒髪の少女、クロエ・フィルモニカはまるでそう言われるのが分かっていたかのように受け入れ、薄く笑い、謝罪と共に頭を下げた。
パーティリーダーの男もその謝罪を受け、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
こんなやり取りもクロエにとってはもう何度も繰り返したもので、とっくに慣れてしまっていた。
険悪な様子もなく、互いが互いの非を認め、頭を下げる。
そうしてつつがなくパーティは解消される。
クロエはまたしても、仲間との付き合いを短いものにしてしまった事を嘆き、もう何度目になるか分からないため息を吐いた。
◇
クロエ・フィルモニカ。
年齢15歳。職業は黒魔導師。主に使う魔法はデバフ魔法。
敵の攻撃力や防御力、敏捷性を下げたり、行動を妨害したりする魔法を得意としていて、直接的な攻撃力には乏しいがパーティのサポートを担う重要な役割だ。
そんな黒魔導師の少女クロエは、本日通算8回目となるパーティの追放を受けた。
その理由は彼女自身が一番よく分かっている。だからこそ、クロエは落ち込んで俯いているのだ。
「またやってしまいました。どうして私はこうなんでしょう……」
クロエの黒魔導師としての腕は確かなものだ。
決して、実力が不足していてパーティを追い出されたわけではない。
むしろ、その逆。クロエが入ったパーティをすぐに抜けることになるのは、クロエの魔法が強すぎるからである。
「どうして私の魔法は味方を巻き込んでしまうんでしょう? 無差別に魔法の効果が及んでしまうから私はいつも……」
クロエが使う魔法はとても強力だ。
敵の攻撃力、防御力を削ぎ落し、行動を不可能をするほどに動きを鈍らせる。
最強のサポートといっても過言ではないそれを無に帰すのがクロエ自身が抱える欠点。
それは、強すぎるがゆえに効果範囲を制御できず、味方諸共巻き込んで魔法効果を及ぼしてしまうというものだった。
そのため、クロエが魔法を発動させた暁には、もうそこに立っている者は他にいない。敵も味方もすべてが力なく倒れ伏し、皆が苦しそうにクロエを見上げているのだ。
そうやって敵も味方も地にひれ伏せさせ、クロエはそれを見てオロオロとする虚無の時間を過ごす。
結局のところ、クロエの支援は何一つ意味を為さない。何も生まない。ただただ無駄な時間を過ごすだけになる。
そのためクロエはこれまでにもパーティをやんわりと追放されるというのを繰り返していて、こうして膝を抱えて蹲るのにもそろそろ慣れてしまいそうだった。
「……ちょっと泣いたら落ち着きました。さて……そろそろ帰らなければいけませんね」
クロエはさっきまでパーティだった冒険者と共に討伐依頼を受けていた。
その依頼は結局クロエが役に立てることはなく、最後には何もしないでくれと頼まれる始末。
そして追放、からの現地解散。
クロエは帰路に着くことなく、その場で泣きはらしていた。
涙を流して落ち着いたところで、ようやく帰ろうとして立ち上がる。
そこでクロエは魔物に囲まれていることに気が付いた。
「そうでした……ここは安全な場所じゃなかったですね。ですが……ごめんなさい。黒の肆」
クロエは落ち着いた様子で呟いた。
その詠唱で発動された魔法の効果は瞬く間に行き渡り、クロエが観測するすべての魔物が力なく倒れる。
その間を抜けて悠々と歩くクロエは、困ったように笑った。
「ここで立っていられる方がいれば……この魔物たちも簡単に倒せるのに。みんな一緒に倒れてしまって……ってこんな言い方よくないですね。元はといえば私の魔法が制御できないのが原因なのに……」
つい、本音がポロリとこぼれてしまったクロエは慌てて口元を押さえた。
デバフの効果が敵に及んでいる間に誰か一人でも動ける者がいるのならば、それだけですべて解決するのに――――。そう考えたクロエは、ふと今更ながら思った。
「誰か一人でも……? それは……他人である必要はあるのでしょうか?」
クロエが魔法を使うと、敵も味方も倒れてしまう。
最後に立っているのはクロエ・フィルモニカただ一人だけ。
そう――――クロエただ一人だけ。
クロエだけが、ただ一人立っていられる。
「ここにいるではありませんか。立っている人間が……!」
クロエは立ち去ろうとしていた足を止め、振り返る。
倒れ伏して、苦しそうに荒い息を上げる魔物たちに冷たい視線を向け、気付きを得た。
「……味方を巻き込む? いいえ、味方が邪魔だから全力で魔法を使えなかったということですか。今なら、何の心配もなく全力で魔法を……!」
クロエの身体から黒く禍々しいオーラが噴出した。
これまでは味方を巻き込まないことを意識して抑えめに使っていた力を全力で解放したことで、クロエの無差別デバフの質はこれまでとは比べ物にならないものになった。
「――――ふぅ、黒の壱」
その一言で倒れ伏した魔物たちからさらに力を奪い去る。
デバフを振り撒いて、ゆっくりと足音を鳴らす。
コツコツと奏でられるそれは、死神の足音だった。
「私は決して強くない。だから、私が攻撃を担うのはお門違い、そう思っていました。ですが――――みんな最後には私より弱くなっている。それなら、私でも倒すことができる……!」
クロエは狼の魔物の頭に足を乗せ、ゆっくりと体重をかける。
弱々しい抵抗があるが、華奢なクロエの足蹴をどうにかするにはあまりにも力ない。
ミシミシと嫌な音が響き、やがて――――。
「……思ったより呆気ないですね」
命を奪い去るのにそれほど時間は要しなかった。
クロエのデバフは魔物たちから一切を奪い去る。
「随分と簡単な事でしたね。ですが――――これから私はこのやり方で歩いていけそうです」
その蹂躙こそが新たなるクロエ・フィルモニカの産声。
後に死神と呼ばれる黒魔導師の――――始まりの瞬間だった。
物理型白魔が魔法の効果範囲が狭すぎてソロになるとするなら殲滅型黒魔は魔法の効果範囲が広すぎてソロになるという、真逆のコンセプトになります
ひとまず短編での公開となりますが、需要がありそうだったら時間が出来た時にでも連載版を作っていけたらと思います……!
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追記※連載の方向で進める予定です
応援よろしくお願いしますm(*_ _)m
物理型白魔導師の軌跡を未読の方もよければ下のリンクからぜひ……!