帝選の儀
どうも、沙羅誘イです。
連続投稿です。
「起きなさいサナ!!今日は大事な帝選の日でしょう?!」
「うおああ!!」
毛布を剥がれ、ベッドから転がり落ちる。
キンキンする耳を抑えながら、サナは恨めし気に自らに狼藉を働いた犯人をにらみつける。
「そんな睨まれる筋合いはありません!ほら、顔洗ってきちゃいなさい」
「へいへい」
そんな視線をかわして、姉貴分であるセナはサナに身支度を促した。
安眠を邪魔された苛立ちはあるがセナのいうことは事実。
渋々ではあるが手早く身支度を済ませる。
ここはセナリス孤児院。
サナと同じような境遇の子供たちがサナとセナ含め五人住んでいる。
カールとジェナとマリア。
カールが男の子でジェナとマリアは女の子だ。
全員サナやセナよりも年下で、サナはその精神年齢もあって保護者のようにふるまっている。
「あ、サナにぃまたセナねぇに怒られてる」
「くすくす」
「ていせんのぎ なのにね!」
「ね!」
「ぼくたちのほうがはやくおきてたよね!」
「ね!」
…保護者のようにふるまっている。
セナは諸々の仕事を、サナは身支度を終え食卓に着く。
「さ、神様に祈りをささげて?」
「「「うん!」」」
「へいへい」
「「「「天におられる我らが神よ、私たちに糧をお与えください」」」」
この国で信仰されている四女神に対する祈りを終え、やっと食事に手を付ける。
子供がするということでいくらか簡略化されているが毎日やっていれば面倒になってくるものだ。
そんな気持ちを隠そうともせずに表情に張り付けもそもそとパンをかじる。
「まったく。帝選でそんな表情しちゃいけないんだからね?」
「わぁってるよセナ。今は眠いからこうだけど、これでも楽しみにしてんだぜ?」
「サナにぃはどんないのうもらえるのかな!」
「【けんじゅつ】じゃない?」
「ちがうよ!サナにぃは【めんどくさがりや】がもらえるんだよ!たぶん!」
「「「あははは!!」」」
「あー、お前らそんなこと言うのか。もう今日は絵本抜きだな」
「「「えーー!!」」」
「こらこら大人げない。でも言って良いことと悪いことがあるって院長先生も言ってるよね?あんまり悪いこと言っちゃうとサナに怒られちゃうよ?ごめんなさいは?」
「「「ごめんなさい!」」」
こんな平和な一幕を経て、サナに運命の時が訪れる。
◇ ◇ ◇
村の入り口から、複数の馬車が入ってくる。
中にはとても豪華なつくりをした馬車もあり見る分にはきれいに思えた。
「なあセナ。あの馬車たちって…」
「ん?ああ、帝都の偉い人がくるって院長先生が言ってたわね」
洗濯物を干しているセナに聞くとそんな返答があった。
もう少し深く聞こうとしたがそれ以上は知らないようで、サナもそれ以上は聞かなかった。
「今回の帝選って何人だっけ」
「あなた含めて五人よ」
「んーまあこんな小さい村じゃそんなもんか」
馬車の数に帝都のお偉いさん、帝選の参加人数。
若干の違和感を覚えつつも、すぐにそのことを忘れて自分の異能についての夢想にふけった。
それから数分後、セナリス孤児院の院長であるギーア院長が帰ってきて帝選の儀が始まることをサナに知らせた。
「やっとか…!」
「いい異能がもらえたらいいのう」
「うっす」
「…では子供たちよ。準備は済んだかな?」
「「「はーい!!」」」
「ほっほ。元気がいいのう」
院長が扉を開け、それに続いて孤児院を出る。
孤児院は教会の近くに立っているため、すぐに到着した。
中に入ると、スタンドグラスから入った色とりどりの光が教会の内部を照らしていた。
参加者の子供たちはすでに集まっているようで、親と和気あいあいと話している。
「おおサナ。来たか。ではみんな始めるとしようか」
顔なじみの神父がサナのことを確認すると、そう言って裏に引っ込んでいった。
何か道具をとりに行っているのだろうか。
そのすぐあと、神父は抱えるほどの大きさの水晶を持ち出した。
あれが帝選に使う道具なのだろう。
「オホン。これより、帝選の儀を執り行う。無垢なる異能を授かりよりいっそう帝国の発展のために励むように」
「「「はい!」」」
「へいへい」
「サナ。返事は一回だ」
「へい」
「…まあいい。では教会に来た順番で前に来なさい」
神父のその言葉に、ひとりの男子が緊張を顔に張り付けて立ち上がった。
一番最初に教会にやって来たのが彼だったのだろう。
一番後方の席に座っていて神父と彼が何をしゃべっているかわからないが数合の会話ののち、男子が水晶に触り結果が空中に投影された。
そこに書かれていたのは【調理】の文字だった。
思っていた結果と違ったようで少しだけ肩を落とした彼が席に戻っていく。
男の子だもんね。
そのあとも速やかに進んでいき、特筆すべき異能はなく喜ぶもの肩を落とすもの涙を流すもの。様々な反応が見られた。五人しかいないのに。
そしてやって来たサナの出番。
すたすたと水晶がおかれた場所へと歩を進める。
水晶のまえで深呼吸をすると同時に神父が話しかけてくる。
「あの問題児もこんな年か。時がたつのは早いもんだ」
「そうだな。あんたもおっさんになったよ」
「その物言いもいつまで続くかな?」
「俺が俺である限りは続いていくよ」
「はっはっは」
神父のおかげでいくらか緊張もほぐれ、サナは表情を緩める。
「…結果に気絶したら介抱してくれ」
「そういうのはセナに頼め」
震える手で水晶を撫でる。
―――――花が咲いた。
後から、サナはそう形容した。
ステンドグラスから入る色とりどりの光が、土属性を表す茶色の光の爆発を彩っている。
サナが茫然とそれを眺めていると、急にその光が収束し始め最終的に、
女性の形にまとまり光がはじけたとき、そこには見覚えのある女の人がいた。
「あ、あんたは…」
「大地の女神様?!?!」
サナの中で遅すぎる答え合わせが行われる前に、その答えを神父が叫んだ。
そうだ。孤児院にある四女神に関する本を読んだときに目の前の女性と同じ容姿の姿絵を見た。
冷汗が流れるのを感じながら、目の前の女性、大地の女神に目を向ける。
騒然とする教会の中で、大地の女神は口を開いた。
『あなたが…わたしの後継者、ですか?』
「…え?いや、わかんないです」
『あ、あれ?おと、女の子じゃ、ないよね?』
「見てわかりますよね…?」
ここまでのやり取りでいくらかの余裕ができたサナは相手の容姿を詳しく認識することができた。
優しげなたれ目に、美しい緑髪、そしてバカでかい乳。
バカでかい乳。
サナはおろおろしている大地の女神を前にして変に熱を持った鼻をつまんで上を向いた。
(鼻血でそう…)
『うん。あなたが後継者で間違いないみたいです』
「えぇ?いや女神様。俺、男なん、だけど?」
『……本当にごめんなさい。まさかこんなことになるなんて』
「あ、はい」
『こうなったってことはあなた以外に大地の女神の適任がいないってことなの。それだけはわかっていてほしい』
「………」
『そして、適任が必要になったってことは、世界樹に異常が起き始めているということ』
「んなっ!それって!」
『ええ、文字通りの世界の危機。おそらくほかの女神の後継者も現れているはずです』
世界樹。
これは世界を構成する四大要素の一つであり、豊穣をつかさどる大樹だ。
世界樹の異常を放置したとき、世界中の土は朽ち再生に膨大な時間を要する事態に陥ってしまう。
そして死んだ土壌は魔獣の苗床でもある。
先々代の女神による行いで半分死んでしまった世界は先代女神の尽力で最大限、再生することができた。
まだその爪痕は死んだ土と多数の魔獣という形で残っているわけだが。
『わたしは、もはや死んでいる身です。ですから、頼むことしかできません』
大地の女神が顔を伏せ、意を決したかのように言った。
『どうか、世界を救ってはいただけないでしょうか?!』
もともとの性格は四女神という格式高い肩書を得ても変えられないらしい。
頭を低くして頼む女神にサナは、言った。
「まあ、仕方ないしな。
俺だって世界が滅んだら困るし」
『あ、ありg「礼はいいからさ、まあ、なんだ。心配しないで見ててくれよ」
『……っはい!』
感極まった様子の大地の女神を前にサナは慣れないことをしたと鼻をこする。
神父は大号泣だし、セナも泣いている。
『…ふぅ。女神の仕事に支障が出たり、困ったことがあった場合は私の生家か聖女院を訪ねてください。きっと助けになってくれるはずです』
「わかった」
『…上から見てます。きっと救って見せてくださいね?』
そういってウィンクして見せた女神は燐光を残して消えた。
後に残ったのは空中に投影された【大地の女神】【盾術】の二つの異能であった。
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