とある魔法使いの弟子の記憶
剣は苦手だった。斧も、槍も、格闘も苦手だった。せいぜい護身術程度の動きしかできなかった。けれど、持って生まれた体格の良さと金髪の組み合わせは、どうやら騎士のように見えるらしい。孤児だった自分には身寄りもなく、流れ着いた町でたくさんの人々に期待されては失望されていた。
『君には神秘を操る素養があるよ。やりたいなら魔法使い、やってみようよ』
無理やり武術大会に出させられ、見事に負けた自分に罵倒を浴びせた町の偉い人のせいで居づらくなって町を出た日のこと。次の町まで遠く、旅の途中に入った森の中で野宿をしていたら、綺麗な男の人がやってきて藪から棒にそう言った。
魔法使い。この世界でそれは、誰にでもできる職業ではなかった。しかし自分に戦士が向いてないとわかった後、色んな魔法使いのところへ行き弟子入り志願をしたことがある。けれど、自分の姿を見るや否、鼻で笑われたし、戦士の方が向いているとか、腕力だけじゃ飽き足らず神秘にも手を出そうとするのか等、散々なことを言われながら追い返された。誰も、私自身を見てはくれなかった。
『あ、あの』
『うん?』
『あなたは、魔法使いなのですか?』
『そうだよ~。あ、自己紹介がまだだったね、私の名前はね』
『あなたの弟子にしてください!私は、魔法使いになりたい……!』
合う、合わないではなく、魔法の輝きがずっと好きだった。あの輝きを、自分も出せたらいいなと小さな頃から憧れていた。あの輝きが、目の前にあるようだった。そうだ、私は本当は、魔法使いになりたかったのだ。
あふれ出る涙を、その人は優しく拭ってくれて、『じゃあまずは自己紹介からだね』と微笑んでくれた。暗い森の中で、この人だけは何よりも輝いて見えたのだ。