5話 魔法使いの弟子
「おはようございますマイマスター」
「おはよう、シューズくん。またマスターって言ってるよ」
「あ、申し訳ありません。なつき嬢」
「よしよし!それじゃまたね!あ、おはよう遠矢くん」
翌朝、教室の入り口で黄色い悲鳴が上がって寝ぼけていた俺は思わず飛び上がった。そんな俺になつきはのほほんと挨拶をし、なつきの一歩後ろに立つ金髪の外国人の男は俺を見て軽い会釈をして去っていく。なるほど、大山と違い威嚇しないタイプの僕志願者か。ではなくて。
「なつき……お前、今のは?」
「ああ、シューズくん?シューズくんは前に話した蹲ってた外国の男の人だよ。隣のクラスだったんだー」
「あれかー……で、今度はお前のことなんだって?マイマスター?」
「えっとねえ、私はすっごい魔法使いで、シューズくんは弟子だったって言ってたよ」
「すっごい魔法使い……なんかふわっとしてんな……。どっちかってーとあいつ騎士っぽい風貌なのに魔法使いの弟子なんだな」
「そうだねー、カッコいいもんねー」
おっとー、俺にクリティカルのダメージが入ったぞー。
たしかに俺よりカッコいいけどさ、けどさ!しかも日本語も流暢で背も高くて紳士的だった。あんなイケメンが隣のクラスにいたなら気づきそうなものだが、全く気がつかなかったな。俺の疑問に気づいてくれたようで、なつきが補足を入れてくれた。
「シューズくんは入学式の少し後に転校してきたんだって。留学生かなぁ?すごいよねえ」
「……ま、まあ?たしかに?すげえとは思うけど?平凡だって良い所あったりするし?」
「そうだねぇ、こうやって遠矢くんにおはようって言って始まる一日も良いよねえ」
ああー。そういところそういうところー。好きー。
なつきのほわわんとした笑顔を見て始まる一日も素敵なんだ、なんてキザなこと俺には言えないので、赤くなった顔を隠すように横に向けて「おう、ありがとな」なんて素っ気なく言ってしまった。そんな俺をなつきは変わらず楽しそうに笑って見ていた。
「おはようございます、遠矢殿」
「どっ……あ、あのさ、普通に遠矢でいいぜ」
夜更かししたせいか少し眠たい登校中の朝。あくびをしながら歩いていたら、後ろから声をかけられた。背は高く、少し首をかたむけるようにしてこちらを覗き込む金髪の男は、なつきの僕志願者の一人だ。たしか前世は魔法使いの弟子だったと言っていたっけ。大山と違い俺に敵意なく挨拶してくれるイケメンは、寝不足の俺には眩しすぎて少し目を細める。朝から浴びるには刺激が強すぎるイケメンオーラだ。
「マイマスター……いえ、なつき嬢から仲がいいと聞いています。ぜひ私も仲良くしていただけたらと思い、声をかけさせていただきました」
「お、おお。別にいいぜ。そんじゃ、俺達友達な」
「!……はいっ!」
「あ、それと同級生だし敬語もいらねえけど、敬語の方が日本語話しやすかったらそのままでもいいぞ」
「あ、ありがとうございます。まさにその通りで、くだけた話し方は聞き取ることはできるのですが、自身で話すにはまだ苦手でして。さすがの洞察力ですね、遠矢。感服いたします」
「わああんやめてやめて!イケメンに褒められ続けるとどうしていいかわからなくなっちゃう!!好きになっちゃう!!」
「また色んなところに気をやっているのか貴様は」
乙女になりかけていると、すっかり聞きなれた冷たい言葉を投げつけられて自我を取り戻す。そうだ、俺はなつきが好きな平凡男子高校生だ。金髪王子様風イケメンに迫られて恋に落ちる乙女ではなかった。危なかった。
「つうか誰が浮気野郎だ!俺は本命一筋だわ!!」
「貴様はたしか、俺とは違う前世の縁でなつき様のところへ来た魔法使いだな」
無視しやがった!こいつこういうところあるよな!
「はい、シューズ・リベルタと申します。前世では大魔法使いマリーナ様、なつき嬢の元で弟子をさせていただいていました。以後、お見知りおきを」
「……ふん、まあ遠矢よりは使えそうだ。くれぐれもなつき様に迷惑はかけぬようにな」
「それはもちろんです」
「なんなの。大山はなんで俺にはツンギレなの」
「俺とて相手は選ぶ」
「こいつほんと嫌い!!」
そんな俺達のやりとりを、シューズは楽しそうに笑って見ていた。