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プロローグ また明日ね。
壁紙も置物も、全ての装飾品が煌びやかな一室にある大きな寝具の上で、少女は横たわっていた。柔らかく高級な素材で作られた毛布の下から出た若い肌の手のひらを握りしめて、死なないでくれと懇願する。
死なないでくれ。
死なないでくれ。
まだ何も為せてないじゃないか。
まだ何も得ていないじゃないか。
まだ、幸せになって、いないじゃないか。
「そんなことないよ。世界は平和になったし、沢山ありがとうって言ってもらえたよ。幸せだよ」
嘘だ。いや、違う。そうではないのだ。
お前自身の、お前だけの幸せを願ってほしかったのだ。
「そっかあ。でも、本当に幸せだからなぁ」
…………。
「ところで、あなたは幸せ?」
なぜそんなことを。
「みんなからお礼を言われて、たくさん幸せになった姿は見たけど、あなたからは何も聞かなかったなあって。ねえ、幸せかしら?」
幸せ、だと思うのか?
たったひとりの友達が。
この世界でたったひとり、自分を理解して手を差し伸べてくれたお前が消えゆくというのに、幸せなわけがないだろう!
幸せな、わけが…………。
何故、そんな幸せそうな笑顔で逝くことができるのだ、お前は。