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そいつは下弦の月を背にしていた。
ほっそりと背が高くて、風にさらりと長い髪がなびいている。
「おまえが最近、悪さをしている奴?別に恨みがあるわけじゃないけど仕事だから、死んでもらうよ」
声を発した人物が見下ろす先、木の影に体の半分を隠して獣がいた。
毛は白く、月の光に美しく照らされた犬……ではなかった、狼だ。
狼は犬歯をむき出しにして低い唸り声をだす。
「よっ」
女は木から飛び降りて、そのまま狼に向かって走り出す。
ボォッ。手が突然燃えだした、いや、その炎は手から離れて火の玉になりそれを女は投げつけた。
炎の塊が幾つも狼に向かう。
狼はそれを身を翻していとも簡単に避けた。木に塊がぶつかる。
ダッ、そのまま疾走する。
「逃がすかァ!」
どこからともなく、箒が飛んできて女を乗せて飛んだ。
どちらも風のような速さだった。
まわりが一瞬で過ぎ去っていく。
人氣の無い、山間部のバイパス道路。
「そこ!」
「キャン!」
狼は熱さと痛みに足を噛みつかれて転んだ。
後ろ足が焼け焦げ、動けなくなり、アスファルトにうずくまった。
「グルルルルルッ」
唸りをあげる。
狼から少し離れた場所、女は箒から降りた。
右手を上に上げると、炎の欠片が寄り集まり、形を変えて細長い槍の形を成した。
「ごめんね」
ぼそりと独語が漏れた。
槍が狼めがけて飛んでいく。