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息が切れるまで。
男は走り疲れて、どっと倒れた。
後ろを振り向くと、斧を持った黒い影が立っていた。
男は道の脇にとめてある原付バイクの横に体育座りをしていた。
顔は死んだように蒼白だった。
「あの人懲りたかな」
「さあ、またやったら、また怖い目にあわせてあげるだけよ」
「私たち、悪者みたいだね」
一人が楽しそうに笑顔になる。
「必要悪なの」
「なんで悪いことするんだろうね」
「心が弱いからするんだよ」
「強いからじゃなくて?」
箒に乗った二人の魔法使いの影が月の中でゆっくり動いていた。
ソファで横になって漫画を読んでいるとおねえちゃんが寝室からでてきた。
「夢を見たわ」
「いつもでしょ」
「うるさい、聞きなさいよ」
「はいはい」
「かずさの隣に大きな犬がいたの」
「それで?」
「それだけ」
「なにそれ。お腹空いた、ご飯食べたい」
私はまた漫画を読み始めた。