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最強姉弟 ~Lv0の弟とLv100の姉は世界を救う~  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章――3 『 騎士への招待とならず者の邂逅 』
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第49話 『 0番隊の訓練風景 』


「セイッ!」

「ダメだよプリム。もっと脇を締めて」


 本日も訓練。


 シエスタからは「弟くんは既に私たちと同じくらい強い訳だし、稽古なんてしなくても問題なさそうね」と言われてしまい、稽古する側ではなく稽古をつける側になってしまった。


 そして今は、入団テストを三番目にクリアしたプリムの相手をしている。


 木剣を振るう少女は、荒い息を繰り返しながらアノンを睨んだ。


「分かってるわよ!」

「あーほら、集中が乱れてる。相手の動きをちゃんと見て」

「見てる!」

「見てない」


 力任せに振るわれた木剣。それを容易くいなせば、プリムは悔しそうに奥歯を噛む。


「僕は次どう動こうとしてる? 僕の目は何を見てる?」

「――ッ。ああもう、うるさいっ」

「プリムもそうだけど、ならず者は忍耐力がないのが悪い癖だね」


 癇癪とともに振るわれた木剣。また容易く受け止めれば、流水のごとく滑らかな動きで剣撃を逃す。その勢いに体を持っていかれたプリムの頭に、すとん、と一撃を浴びせた。


「あった~~っ⁉」

「これは僕の言うことを聞かなかった罰だよ」


 頭を抑えながらうめくプリムは、キッとアノンを睨むと、


「戦闘中にいちいちうるさいのよ! 気が散るでしょ!」

「これも全部、戦いにおいて必要な技術だよ」

「そんなの知らないわよ! そもそも私たち、無駄にレベルが高いだけでまともな戦闘経験なんてないんだから!」

「でも入団テストのモンスターは倒してたでしょ?」

「あんなの勘でなんとかなるわ」


 ふふん、と薄い胸を張るプリム。


 勘が鋭いのはたしかに戦闘で役立つこともあるが、しかしそれだけでは足りない。


「戦闘中は常に冷静に立ち回ることが重要だよ」


 特に人間を相手にするならば。


「モンスターは基本本能で動くから動きが単調だけど、人間はそうはいかない。相手だって同じ知性を持ってるんだ。もし、さっきのプリムの攻撃をすれば、僕みたく隙を作られて殺されちゃうよ?」

「ああもうやだ⁉ 聞いてるだけで頭が爆発しそう!」


 鳥肌立ってきた! と癇癪を起すプリム。


 人が懇切丁寧に教えているというのに酷い態度だ。プリムたちが大雑把であることは知っていたが、まさかここまで細かいことを考えるのが苦手だとは思わなかった。


「(なるほど。だからシエスタさんは僕に任せたのか)」


 プリムの姿を見て、なんとなくシエスタの真意が読めた気がした。


 話をろくに聞かない上に大雑把。途中で癇癪を起す子どものような性格。そんな彼らの相手をするのは疲れる――要するに、アノンは厄介事を押し付けられてしまった訳だ。


 なんとなく姉がシエスタの事を「サボり魔」と呼んでいる理由が分かった気がして、つい苦笑がこぼれる。


「ガエン代わって!」


 ついに我慢できなくなって交代を懇願するプリムに、堂々と昼寝していたガエンが間抜け声を出しながら顎を引く。


「へへっ。いいぜ。俺も坊ちゃんと戦いてぇからな」

「ガエンはさっき僕と一時間みっちり稽古したでしょ」

「いいじゃねえか。プリムはやりたくねぇ、って言ってんだから」

「ダメ。ガエンは他の皆を稽古してあげて」

「コイツら弱ぇんだよなぁ」

「「やってやるよゴラァ!」」

「だからって束になって挑もうとすんな!」


 ガエンの言葉に、ならず者たちは武器を手に取って売られた喧嘩を買おうとする。しかし、一人ずつではなく束になっているので彼らの意地のなさが浮き彫りになってしまっている。まぁ、それだけガエンが強いという見方もできるが。


 もはや見慣れた光景になったな、と自分自身に呆れながら、アノンはプリムに向かって手を叩くと、


「はいはい。稽古再開するよ、プリム」

「プリムさん!」

「じゃあ僕から一本取ったらプリムさんて呼んであげる」

「はぁ、そんなんで私がやる気出すとでも思ってるの? アンタから一本取ったら〝プリム様〟って呼びなさい!」

「呼び方なんてなんでもいいよ。――それじゃあ、始めるよ」


 そしてまた、木剣と木剣がぶつかる鈍い音が空に響く。


 その日は結局プリムはアノンから一本も取れず、挙句には悔し涙まで流してしまったのだった。


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