第47話 『 姉の手腕 』
「うぅぅ」
「ほーら、いつまでも嫌そうな顔しない」
「でも……」
玄関前で顔をしかめるアイリスに、リアンは嘆息しながら説得を試みる。
「クソ親父と約束しちゃったんだから仕方がないでしょ」
「やぁ」
三日に一度はアイリスを王城へと帰還させること。本日はその約束の日だった。
しかし、アイリスは頑なに玄関から先に動こうとせず、リアンも彼女に無理を強いることはできずもどかしい時間が続いているという訳だ。
「そんなに行きたくない?」
「あそこ、一人。寂しい」
「……寂しい、ね」
アイリスの身に何があったのかはまだ知らないが、軟禁状態であったことはなんとなく想像がつく。
王城常務のシエスタやラオニスがアイリスの存在を直近まで知らなかったのだ。それだけ慎重に、ヴォルフはアイリスの存在を秘匿にしたかったのだろう。
それがアノンの時と同じようで、だからかリアンはアノンとアイリスを似重ねてしまうのだろう。
つい守ってあげなければ、と思ってしまう。
「大丈夫よ。今日は私も一緒についていくから」
優しく手を握れば、ほんのわずかに俯いていた顔が上がる。
まだ十五にもなっていないであろう少女。その小さな少女の頭に手を置くと、そっと撫でていく。
「何があってもアナタは私が守るわ」
「……お姉ちゃん」
少しずつ、アイリスの声に生気が戻っているような気がした。
「そうね。なら頑張ったら、アイリスにご褒美をあげるわ」
「ごほうび?」
「えぇ。帰る時に好きな物なんでも買ってあげる。お菓子でも髪飾りでもなんでも」
「本当に⁉」
嬉しそうに眼を見開くアイリスに、リアンは微笑みながら頷いた。
「だから、頑張りなさい。アナタなら大丈夫」
震える手。けど、その手はぎゅっとリアンの手を握り返してきて、
「うんっ。アイリス……頑張る!」
「ふふ。偉いわね」
眦に気合を灯したアイリスに、リアンはふぅ、と吐息。
「(本当に手のかかる子ね)」
この手があと何度通用するか分からないし、もしかしたら要求が上がっていくかもしれない。
アノンよりも手のかかる少女を預かってしまったと後悔しながらも、それでもリアンは元気を取り戻したアイリスを見て、
「――妹がいたら、こんな感じなのかしら」
もし妹がいたら、妹もアノンのように溺愛するのだろうかと思惟するのだった。