第46話 『 ラオニスの要求と騎士団の現状 』
「やぁ、シエスタ」
「……ラオニス」
王城へ帰還すると、まるでシエスタを待ち構えていたようにラオニスがいた。
「何の用かしら」
「0番隊はどんな様子かと思ってね」
爽やかな顔に真意を隠すラオニス。
そんなラオニスにシエスタは息を吐くと、
「どうもこうもないわ。曲者ぞろいで扱うのが大変よ」
「はは。だろうね。だって相手は犯罪者、ならず者たちだ。国ですら制御できなかった蛮族たちを、僕ら一個人の力でどうにかできるものではないよ」
まるでシエスタに言い聞かせるように呟くラオニスは、苦笑を引っ込めて神妙な顔を向けた。
「どういうつもりだい、シエスタ。リアンの弟くんはともかく、あんな野蛮な連中を騎士に仕立て上げるなんて」
おそらく、ラオニスの質問は全騎士の思っていることだろう。つまり、彼はその代弁者。
そんな代弁者に、シエスタは表情一つ変えず答える。
「目的ならちゃんとあるわ」
「へぇ、是非聞かせてくれたまえ」
「戦力の増強よ」
「それだけ?」
騎士長にはもっと具体的な説明をしたんだろう、とラオニスはそれと同等を求めてくる。
はぁ、と嘆息して、
「もっと言えば――称号持ちを生ませる為かしら」
「……称号」
ラオニスが復唱して、シエスタは厳かに顎を引く。
「現在、この国で確認されている称号持ちは二人。国王・ヴォルフ=グレア様と、リアンだけ。私たち一番目はおろか、騎士長ですら【LV85】には至っていない」
「――――」
「称号を誰一人持っていない騎士団なんてあっていいと思う?」
「それは……けど他の国だって称号持ちはかなり稀少なはずだろう」
反論するラオニス。
彼の言うことは事実だ。称号持ちはこの世界に十万に一人現れるか現れないか程度の極稀少な存在。
戦力であれば一国の軍に勝るとも劣らぬ力を持つ者たち。称号持ちが国にいるかいないかで、戦況は大きく異なる。
「他国は既に数名ほど出ている。けど、この国は?」
たしかに、称号を持っている人間ならばこの国だっている。
しかし、だ。
「私たちの称号持ちは、皆王族の人間。そんな人間に戦争に出てくださいなんてお願いできる訳ないでしょう。王族は本来であれば表立つことはなく国の顔として、権力を自国と他国に知らしめるのが務め。ラオニス、貴方はリアンに戦争に出てくれとお願いできる?」
「…………」
顔をしかめるだけで、答えを出さないラオニス。
この国が他国に攻め入れられない理由は、人類で唯一【LV100】となるリアンがいるからだ。
人類最強と謳われる彼女がいるからこそこの国は他国から攻撃されないだけであり、彼女がいなければ今すぐにでも侵攻されても不思議ではない脆い国なのだ。
「リアンは本来守られる立場でなければいけないの。それなのにこの国の連中も騎士も彼女がいるから安心なんてふざけてるわ」
「だから、リアンたちを守る為に一番目がいるんだろう?」
「彼女より弱い私たちが、どうして彼女を守れるのよ?」
「――っ」
一番目でありながら称号を獲得できるレベルにまで至っていない自分たちが、王族を守ろうとなどと馬鹿げた話だ。
このままでは守る立場が、彼女に守られる立場になってしまう。
そうなれば、騎士なんてものは必要ない。
「騎士長にもこの事は言ってあるわ。危惧すべき未来に向けたから、0番隊を設立させた」
「彼らなら、称号持ちになれると?」
「それは分からないわ。けど、可能性は私たちの誰よりも高いはず」
ならず者の中には既にシエスタやラオニスに近しいレベルを持つ者もいる。
あとは、彼らがいかにアノンに触発されるかどうかだ。
――私の見込みが間違っていなければ、弟くんもきっと。
彼はおそらく、もう既に持っている。
今はまだ、分からない。
だがもし、リアンの思案していることが正しければ、きっとこの国は他国も一歩――いや数歩先を行く国になるだろう。
そうすれば、大切な友人が剣を振るうこともない。
「私ももたもたしていられないわよ。称号持ちになれる可能性がない訳じゃない」
「いたっ。急に背中叩くの止めてよ」
落ち込んでいる友人の背中を叩けば、不服そうに口を尖らせた。
「シャキッとしなさい。私たちは一番目でしょ」
「そうだね。僕たちは、この国で最も強い騎士だ」
瞳に矜持を取り戻したラオニスに、シエスタは「そうね」と口許を綻ばせながら共に歩くのだった。