第43話 『 姉の憂い 』
「こらっ、逃げるなアイリス!」
「あははっ! いやー!」
翌日になってもアイリスの元気っぷりは変わらない。
部屋の掃除をしていると暇になったのかアイリスが突然ちょっかいを掛け始めて、それに耐え切れなくなって叱ろうとした瞬間。また逃げ出した。
「くっ! 本当にすばしっこい⁉」
捕まえようと手を伸ばすも華麗に避けられて、リアンは奥歯を噛む。
全力を出していないのもあるが、それにしても【LV100】のリアンを手古摺らせているアイリスには思わず舌を巻いてしまった。
感嘆とはしつつも、しかし、
「あうっ!」
「ふふん。いつまでも調子に乗らないことね」
大人げないのは自覚しているが、いつまでもアイリスのちょっかいに付き合う暇はリアンにはない。
なので身体能力向上のスキル【バフ】を発動して、一気に距離を詰めてアイリスを捕らえた。
「観念しなさい」
「んううっ。お姉ちゃん、ズルイ!」
「ずるくありませーん。私の手を煩わせる悪い子には容赦なんてものは不要よ」
不服気に頬を膨らませるアイリスに、リアンは澄ました顔で言い返す。
「いいこと、私はアノンの前では寛容だけれど、アノンがいなければ話は別よ」
「……ごくり」
「さぁて。悪い子にはどんなお仕置きがいいかしらねぇ」
「……あわわわ⁉」
目の据わったリアンに、アイリスはダラダラと冷や汗を流す。
くくくっ、と悪魔のような笑い声の後、リアンはアイリスへお仕置きを実行した。
「悪い子はこうよっ」
「ふふっ……あははっ! お姉ちゃん、くすぐったい! あはははっ!」
両脇に手を突っ込むや否や、リアンはアイリスの脇をくすぐる。
リアンのお仕置きに、アイリスは声を抑えきれなくてゲラゲラと笑いながら涙を流した。
「ほれほれ~。私を揶揄った罰だぞ~」
「くるしっ……あははっ! お姉ちゃんっ……らめぇっ……あははっ!」
数分ほどこしょこしょの刑を続ければ、やがてアイリスは笑い疲れてその場に崩れた。
そんなアイリスを見下ろしながら、
「ふぅ、これで少しは分かったかしら。私を揶揄うのは程々にすること。いいわね!」
「は、はいぃ」
「……少しやり過ぎたかしら」
へとへとのアイリスを見て、少しだけ反省。
服が乱れて荒い息遣いを繰り返す少女の姿になんだかイケないような事をした気分になりながらも、リアンはふぅ、と息を吐く。
「本当に能天気な子。私は不安で仕方がないのに」
窓越しから空を見上げながら、リアンは呟く。
「大丈夫かしら。アノン」
今日は、弟が騎士としての訓練を受けるその初日。
ブラコンなお姉ちゃんは、弟の様子が気になって仕方がないのであった。