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最強姉弟 ~Lv0の弟とLv100の姉は世界を救う~  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章――3 『 騎士への招待とならず者の邂逅 』
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第40話 『 交渉と見えぬ真相 』


 弟が頑張っているのに、姉も健闘しなければ威厳など保てるはずがない。


「――一言もなしに急に来るとは、何の要だ、リアン」

「本日はお父様にお願いがあって参りました」


 執務室にて。リアンは父であるヴォルフ=グレアと対峙していた。


 獅子のような瞳がリアンを一瞥するも、それに怖気づくことなくリアンはヴォルフに懇願する。


「要件は一つ。アイリスを私に預からせてもらいたんです」

「ならぬ」


 否定されるとは分かっていたが、まさか即答だとは思わなかった。


 ヴォルフの反応にわずかに驚きつつ、リアンは説得を続ける。


「何故、お父様はそこまであの子に固執するのですか?」

「お前に理由を明かす必要などない」

「この事を母様は知っておられるのですか?」


 母であるリーシアの名を上げれば、それまでヴォルフの眉がわずかに動く。


「そのご様子だと、母様は存じ上げられていないようですね」

「ならばリーシアに告げると私を脅すか? それは結構。お前の好きにしろ」

「――っ。本当にご報告してもよろしいのですね?」

「それで私に疑心の目が向けられようと、どうにかできる権力はリーシアにはありはしない」

「母様に何をするつもりですか」


 険の込めた声音で問えば、ヴォルフは「さぁな」と澄ました顔で返す。

 しかし、その口角がわずかに上がると、


「少し、夫の尊厳というものを教えてやるだけだ」

「――ッ! ……どこまでもクズね」


 それはつまり、リーシアを監禁……あるいはそれ以上の口封じを強要するという事だろう。


 非情。それに尽きるヴォルフに、リアンはより一層彼に対しての嫌悪感を強める。


「分かりました。母様にこの事は報告しません」

「賢明な判断だ」


 沸騰する頭をどうにか寸前で堪えて、深く息を吸う。


 リアンの言葉に嘲笑したヴォルフは、机に膝をつくと、


「お前こそ何故、そこまであの少女に関わりたがる?」

「それは……」


 質問にたじろげば、ヴォルフは容赦なく追及を続ける。


「これ以上この件に関われば面倒ごとに巻き込まれると、馬鹿ではないお前なら容易に見当がつくはずだ。今の安寧が気に入っているなら猶更な」


 安寧、とはおそらくアノンとの生活の事だろう。


 たしかにヴォルフの言う通り、アイリスと関われば厄介事に巻き込まれることは目に見えている。アノンとの穏やかな日々が、そのせいで壊れるかもしれないということも、理解している。


 しかし、リアンにだって矜持というものがある。


「お父様の言い分は何も間違っていません。しかし、目の前で恐怖に怯えていた少女を見放すのは私のプライドが……時期女王としてのプライドが許せないんです」

「ハッ。己が我欲の為に危険に足を踏み込むか」

「これでも、危険な綱は渡ってきた方です」

「青二才が何を言う」

「その青二才にレベル負けしているのは誰でしょうか」


 言うようになった、とヴォルフが鼻で笑う。


 それからヴォルフは背もたれに体重を乗せると、


「いいだろう」

「――ぇ」

「そこまであの少女に会いたいというのなら、もう一度会わせてやる」

「どういう風の吹き回しですか?」

「お前の覚悟を受け取っただけだ」


 折れた、というより、まるでリアンの挑発に乗ったような態度だ。


 懐疑心を止めないリアンに、ヴォルフは同じ色の瞳で睨んでくると、


「ただし、条件がある」

「何でしょうか」

「建国際のスピーチと、そこで社交パーティーに必ず出席することだ」

「――――」

「それだけか、と言いたい顔だな」


 心を読まれたかのようなヴォルフの指摘に、リアンは頬を硬くする。


「当然、それだけではない。先の条件と少女をお前の保護下に置くのは建国際までだ」

「なぜ建国際までなんですか?」

「べつにそれ以上でも構いはしない。ただし、当日彼女には王城にて待機させてもらう。安全を鑑みてな」

「本当に何なんですかあの子は。なぜ、そこまでお父様が執着なさるのです?」


 アイリスの保護を最優先としているような態度だ。それに異義を唱えるも、しかしヴォルフは「お前の知らなくていいことだ」と一蹴した。


「分かったらアイリス様を連れて帰るといい。そうだ、三日に一度は王城へアイリス様を帰還させろ」

「なぜ?」

「お前が知らなくいいことだ」


 終始黙秘を貫くヴォルフに、リアンは反射的に舌打ちしてしまう。しかし、ヴォルフは気にすることなく書類に視線を戻した。


 失礼します、と頭を下げて執務室から出ると、一気に張っていた緊張が解けるような感覚が襲う。


 それと同時に、ヴォルフの態度に堪えていた怒りも際限なく湧いてきて、


「絶対ッ、クソ親父の隠し事暴いてやるんだから!」


 爪を噛みながら、リアンは父親を見返すべく行動に移ったのだった。


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