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最強姉弟 ~Lv0の弟とLv100の姉は世界を救う~  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章――3 『 騎士への招待とならず者の邂逅 』
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第38話 『 意外な再会 』


 ――三日目。夕刻。


「おめでとう~。見事全員合格~!」


 ぱちぱち、とやはり心の底では祝ってないように見える拍手を送るシエスタ。

 そんな拍手も、激闘を終えたならず者たちには届いていなかった。


「ぜぇ、ぜぇ……これで、美味ぇメシと酒にありつける」


 疲労困憊といった感じで地面に倒れるならず者たち。そんな彼らを無視して、シエスタは話を続けた。


「貴方たちが喉から手が出るお給金は来月までなしよ?」

「「はぁ⁉」」

「当たり前でしょう。それに、0番隊への入隊が決まったからと言って、過去の罪状が清算される訳がないでしょ。貴方が犯罪者である事に何ら変わりはないし、刑期も変わらない。貴方たちが粗相をしないよう、お給金の方はこっちが調整するから」

「それじゃあ俺たちは国の道具じゃねえか⁉」

「あら。元よりそのつもりで貴方たちに提案を持ち掛けたのよ。それに頷いたのも貴方たち。お国に尽くせるなんて素晴らしいじゃない」


 にぱっ、と笑みを魅せるシエスタにブーイングの嵐。

 シエスタに批判が集まる最中、そこに割って入ったのは大欠伸をかいたガエンだった。


「ま俺は金はどうでもいいわ」


 そんなガエンの一言に目を丸くするならず者たち。

 それからガエンは「なぁ」とシエスタに視線を送ると、


「騎士様よ。金の件はあれだが、寝床は牢屋(いま)よりマシなんだろ」

「えぇ。既に貴方たち専用の隊舎を用意してあるわ」

「ハッ。随分とまぁ気前のいいことじゃねえの」

「私を褒めなさい……と言いたいところだけど、そんな大層なこと私にできる権力はない。貴方たちに専用の隊舎を用意したのはリアン様」


 そこで姉の名前が挙がり、アノンはわずかに眉を動かす。


「そして王妃様が働いてくれたわ。初めは王妃様は貴方たちを王女様の護衛に任命を強く反対したけど、最終的に私の意見に耳を傾けてくれた」

「どんな話術使ったら王妃を落とせるんだ?」


 それは内緒、とウィンクするシエスタに、ガエンはうえぇ、としかめっ面になる。

 骨が一本折れるくらいの足蹴りをガエンにお見舞いしつつ、シエスタは続けた。


「そこからはまぁ、流し流されてって感じね。誇りある騎士の隊舎に犯罪者を置くことはできないと騎士長様とその他が。民衆から批判や不信感が募ることは容易に想像できたから、仕方がなく0番隊専用の隊舎を用意することにしたの」

「わざわざ俺らみたいな畜生の為に苦労してくれるとは。騎士様はお優しい限りだな」

「あ、勿論そこに関わる費用は貴方たちのお給金から差し引いてるから。設備を壊したらその分お給金が減ると思いなさい」

「やっぱクソ野郎だなアンタ!」


 シエスタの悪鬼のような所業に、ガエンが顔を歪ませる。

 当たり前でしょ馬鹿ね、と嘆息するシエスタは、視線をアノンに変えて、


「弟くんはお給金に関しては何も心配要らないわよ。アイツらと違ってしっかりとお給金は弾ませてあげるからっ」

「あはは。べつに僕も少しでいいですよ」

「ダメよ。そんな事したら私がリアンに殺される。隊舎に入れたいんだけど、って言ったら、本気で殺されかけた」


 どうやらアノンが知らない間に、また姉とひと悶着あったらしい。


「少し手間だけど、0番隊舎には訓練場があるの。あとはこの広場を使っての稽古を今後していく予定だから、弟くんは今リアンと住んでいる家から出勤してちょうだい」

「分かりました」

「……一応聞いておくけど、弟くんはどう? 隊舎暮らしに興味ない?」


 そう問われて、アノンは苦笑交じりに応えた。


「少しだけ、興味はあります。でも、あの家を離れるつもりはありません。あそこは、僕にとってかけがえのない場所だから」

「――そう。野暮な質問してごめんなさいね」


 柔和な笑みを浮かべるシエスタに、アノンはいえ、と首を横に振る。

 そして再び、視線をアノンからならず者たちへ移して、


「では、ひとまず入団テストご苦労様。明日は特別に休日にしてあげるから、ゆっくりと体を休めて。明後日から稽古を始めるから、全員、気を引き締めておくこと」


 反論の一ついわさぬ覇気を纏って言えば、ならず者たちは力のない声で返す。


「うっしゃ! とりあえず隊舎とやらに帰ってメシとフロだ!」

「ちょっと! オフロは女の私が一番だからね!」

「あぁ別にチンゲが湯舟にあろうがどうでもいいだろうが」

「悪寒が⁉ アンタたちの汗とアカまみれのオフロに入るくらいなら死んだ方がマシよ!」

「いじゃないかガエン。プリムだって気性は荒いが立派な女の子だ。年の近い子も近くにいるから気を遣うのも分かる」

「ちょっと! なに勝手にキモイ勘違いしてんの! 全然そういうんじゃないから!」


 騒ぐガエンたちを少し羨ましかった。


 姉と過ごす時間が何よりも大切だけれど、あんな風に肩を組む風景にわずかに憧れてしまう。


 そんなもどかしさを覚えた瞬間だった。


「――?」


 草木の揺れる音が聞こえて、アノンは何かと振り返る。


 獣か、と思惟してわずかに体を身構えると、それは薄暗い空間から一気に飛び出してアノンに吶喊してきた。


「――おに、いちゃん!」

「うえっ⁉ あ、アイリス⁉」


 吶喊とは名ばかりの柔らかな衝撃を受け止めると、それは満面の笑みをアノンに向けた。


 特徴的な長い赤髪。幼い顔立ち。ややぎこちない口調は、間違いなく、あの時助けた少女――アイリスだった。


 何故アイリスがここにいるのかと困惑していれば、数秒遅れてアノンの姉であるリアンが息を荒くしながら茂みの奥から出てきた。


「わ、私より先にアノンを抱くなんてやっぱり悪女ね⁉ 今からでも遅くない。あのクソ親父に返品しようかしら」


 何やら不穏なことを呟いているリアンは、アノンの顔を見るや否や「愛しの弟!」と目を輝かせた。


「アッノンー! 久しぶりのお姉ちゃんよー! 32時間ぶりの感動の再会を祝って強くお姉ちゃんを抱きしめて! いえ激しく抱いてぇ⁉」


 鼻息を荒くする姉が抱きしめようとしてきたリアン。その頬を手を抑えながら、アノンはリアンに訪ねた。


「ね、姉さんっ。どうしてアイリスがここに? 王城にいるはずじゃ……」

「ムグゥ……お姉ちゃんを片手で止めるなんて成長したわねアノン。説明する前にちょっと手をの温もりをご堪能。グヘヘ」


 勢いのあまり顔が歪んでてしまった姉は、言葉通りアノンの手に頬を擦りつけてから顔を離した。


 そして息を整えた後、リアンはアノンに向かってピースサインを送りながら、


「ふふん。褒めなさいアノン。お姉ちゃん、なんとあのクソ親父からアイリスを奪ってきました!」


 とドヤ顔で答えたリアンに、アイリスもまた、彼女に倣ってピースサインをアノンに向けるのだった。

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