第37話 『 プリムとデニム 』
「――ねぇ、そこの二人~。何楽しそうに話してるのー?」
「べつに楽しくはないですけど」
ガエンと軽く(と言っても彼の話に適当に相槌を打ってただけ)話していると、桜髪の少女が寄ってきた。
「おー貧乳女」
「誰が貧乳だ殺すぞ肉団子」
ガエンの嫌味に、少女は本気で殺意を宿した目で睨む。
バシン、とガエンの頭を叩いた少女は、それからアノンに近づいてきて、
「ほぉ。見れば見るほど子どもだ。キミ、年齢は?」
「えーと、十五です」
「ふふん! じゃあ私の方がお姉さんって訳だ!」
「僕の姉は姉さん一人だけですけど」
誇らしそうに薄い胸を張る少女に、アノンは真顔で言い返す。
そんなアノンの言い分を無視して、少女は犬歯をみせると、
「私の名前はプリム! アンタは?」
「アノン、です」
アノンね! と名前を復唱する少女――プリムはそれから、
「入団テストで一番目に抜けたからって、アンタが先輩な訳じゃないからね。私より年下なら舎弟よ!」
「ハッ。お前よりコイツの方が強ぇのに何が舎弟だ。そういうのはコイツより強くなってから言え断崖絶壁」
「いちいち私の胸を指摘しなきゃ気が済まないのかクソゴリラ」
いがみ合う二人。
やがて強く鼻息を吐くと、プリムは苛立たし気にアノンに言った。
「この肉団子とは仲良くしない方がいいわよ。一緒にいると頭まで肉団子になるから」
「まぁ、頭が足りないという意味では納得できますけど……」
「んだとコラァ!」
「事実でしょう。でも、細かいことを気にしない性格はいいと思いますよ。女性に対して暴言を吐くのはどうかと思うけど」
「あら。貴方子どものくせに女性の扱いは長けてるのね」
アノンの言葉にガエンは眉間の皺を深く寄せて、プリムは上機嫌に鼻を鳴らす。
「ならこんな肉団子より私と話さない? ここにいる連中と話すのは飽きたし、何より品がないから自分が女だということを本気で忘れそうなの」
なんだかげんなりとするプリム。
「ハッ。囚人服着てる時点で男も女も関係ねぇだろ」
「牢屋は別ですぅ」
「けど便所は?」
「一緒ですぅ……」
声音を落としたプリムに、ガエンは「ブアハハハ!」と汚く嗤う。
悔し涙を浮かべているプリムを苦笑交じりに見ていると、
「――騒がしい連中ですまないな」
「うわっ」
突然背後から声を掛けられて、アノンはびくりと肩を震わせる。
心臓がバクバクと音を鳴らしがら声音の方へ顔を向ければ、そこにはやせ細った男がいた。
「い、いつから背後に?」
「? キミがプリムと話している時からずっといたが」
「……僕の後ろを取るなんて人いたんだ」
空間認識と気配感知に優れているアノン。男の言う通りならば、その時点で存在は認識できていたはずだ。
まさか自分の背後を取る人間がいることに驚嘆としつつ、
「ええと、貴方は?」
「申し遅れてすまない。私の名前はデニム。よろしくな、アノンくん」
「よ、よろしくお願いします」
これまで粗暴の目立ったならず者たちとは対照的に、デニムという男は社交的な礼儀をみせる。
それに戸惑いながらも、アノンはデニムに会釈する。
「粗暴な連中ですまないな。我々にとっては日常茶飯事だが、君にとっては強烈な光景だろう?」
「そう、ですね。こんな騒がしい人たちは初めてみました」
周りを見れば、まるで宴のように騒いでいるならず者たち。
それはデニムの言う通り強烈だけど……けど。
「見ていて面白いですよ――まぁ、交じりたいかと問われれば、絶対ノーですけど」
「ふっ。同感だ」
苦笑しながら答えたアノンに、デニムも蛮族の宴を眺めながら苦笑するのだった。