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最強姉弟 ~Lv0の弟とLv100の姉は世界を救う~  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章――3 『 騎士への招待とならず者の邂逅 』
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第36話 『 アノンとガエン 』


「お前、なんで夜になってもいるんだよ」

「興味本位で」


 二日目の入団テストも終了し、今は束の間の休息。


 本来であれば姉であるリアンからの参加条件で、アノンはならず者と違い家に帰宅できるのだが、今日は彼らと一夜を共にすることにした。


「(姉さん。すごく寂しそうだったなぁ)」


 説得した時の姉の悲壮感に満ちた背中を述懐しながら、アノンは焚火の温もりに耽る。


 リアンに今後の為に野営したい、と打診したアノン。数時間にも及ぶ末、なんとか許可が下りたが、その対価として三晩共寝することが決定した。


 何をされるか分からない恐怖がありながらも、野営することを許可してくれた姉の寛大さに今一度深く感謝した。


「まぁ、理由なんてなんでもいいけどよ、いいとこ暮らしのガキがこんなパサついた肉食って耐えられるのかよ」


 ゲラゲラと汚く笑うガエンは、今日倒したモンスターの肉を食らう。乱暴に噛みつく様は獣そのものだった。


 アノンはガエンの好奇な視線を浴びながらも、己の前に焼かれた肉を手に取る。


「貴方は僕の事を少し勘違いしてますよ」

「あ?」

「貴方が思ってるほど、僕は綺麗な人間じゃない」


 おそらく、王家と貴族の人間、領家の子どもたちはこの肉を食べることはない。それどころか、ゴミだと嘲笑して道端に捨てるだろう。


 ガエンがアノンに皮肉をぶつけてきたのは、きっとその連中と同じ立場の側と思っているから。


 けれど、それは間違いでしかなくて。


「はぐ……もぐ、もぐ……うん。美味しい」

「ははっ! 随分と食いつきがいいじゃねえか!」


 肉を歯で噛みちぎれば、ガエンが豪快に笑う。


 たしかにガエンの言う通り、肉に柔らかさはなくパサついている。焼き加減は調整したから硬くはないが、それでも筋が残る触感だ。


 でも、あの時に食べていたものよりはずっとマシだ。何よりも、温かいというのが最高の調味料だった。


「……お前、王家の人間じゃねえのか?」

「らんれすかきゅうに」


 まだ咀嚼中に質問されて、アノンは口の中の肉と戦いながら返す。


「お前、ずっと王女のことを姉さんと呼んでただろ」

「んぐ。……えぇ」

「脳ミソがミジンコの俺でも分かることだ。お前、王族の人間だろ」


 パチパチ、と揺れる炎の先でガエンが真剣な眼差しを向けてくる。

 それに背くことなく、アノンは無言で頷いた。


「そうですよ。僕は王族の人間です。……たぶん」

「なんだ、たぶんて」

「僕だって本当に王族の人間なのか分からないんですよ。物心ついた時には既に牢獄にいましたから」


 静かな声音で言えば、ガエンが無理解を示すように眉根を寄せる。


「どういうことだ?」

「僕だって知りません。でも、姉さん曰く、僕のレベルに原因があるらしいです」

「レベル? 余計理解できねえな。お前、あんな化け物ども一撃で倒してただろ」

「えぇ」

「なら、レベルだって相当上なはずだろ。少なくとも、俺よりは高けぇはずだぞ」

「確認してみますか?」


 首を捻るガエンに、アノンは挑発的に問いかける。

 それに躊躇う素振りをみせないのが、やはりならず者たる彼らの所以なのだろう。


「面白れぇ。見せろ」

「いいですよ」


 姉には散々「信頼できる人しか見せちゃダメ!」と強く注意されてきたが、それでもこの巨漢男には見せていいと思った。


 初めて自分と対等に戦った、好敵手と思える相手になら、見せてあげてもいい。


 そんな思案しながらアノンはガエンと握手すれば――


「なんじゃこれ⁉」


 両者の意思が承認され、アノンとガエンの前にそれぞれのステータスが虚空に表示される。そして、アノンのそれを見た瞬間、ガエンは目を白黒させた。


「【Lv0】……だと⁉」

「驚きました?」


 まだ驚愕に打ち震えているガエンに、アノンは愉快そうに尋ねる。


「あ、当たり前……うええ。こ、こんなレベル見たことねえぞ」

「姉さんも、同じことを言ってました」

「マジでどうなってんだ。てかなんだこのパラメーターは⁉ レベルと比例してねえだろ⁉」


 アノンのパラメーターを見て、また目を剥くガエン。


「この数値、ほぼ【LV100】と同等じゃねえのか?」

「いえ。姉さんより少し劣ってます。やっぱり姉さんは凄いですよね」

「今姉ちゃんのこと褒めなくていいんだよ」


 ブレないアノンに、ガエンは呆れたように嘆息。

 それから手を離せば、何か納得したように腰を下ろした。


「どうりであの化け物どもを一撃でぶっ飛ばせる訳だ。レベルはともかく、パラメーターが異常なら強ぇに決まってら」

「あまり驚かないんですね」

「ま細かいこと考えるのは苦手でな。お前さんのレベルは相当レアだが、俺が重要してるのはそこじゃねえ。強いか、弱いかだからな」


 ガハハッ、と豪快に笑って、ガエンは肉に食らいつく。

 それからガエンは咀嚼しながら言った。


「ひょっとしてだが、お前が牢屋にぶち込まれてたのはそれが原因か? 俺もあんま覚えちゃいねえが、王族ってのは最初からレベルが高く生まれてくんだろ?」

「えぇ。そうみたいですね」


 実際、姉であるリアンも、生まれた当初から【LV15】とかなりハイレベルだったらしい。庶民でいえば、そのレベルならば10歳くらいの子どもがなっているくらい。


「興味無ぇから忘れてるだけかもしんねえけど、そういえば王族の息子が誕生したなんて聞いたことがねえな」

「姉さんによれば、僕は生まれたその日に死亡したことになっているそうですよ」

「はっ。そら王族からすれば、レベルに異常があるガキが生まれたなんて世間には知られたくねえだろうよ。お前を殺したことにするのは妥当だな。つくづく汚ねぇ連中どもでメシが不味くなるね」


 そう言いつつ、また肉を貪るガエン。やはり、ならず者だ。


「お前も、わりと過酷な人生送ってたんだな」

「同情ですか?」

「誰かそんなバカなことするか。俺らは誰にも同情しねぇ。お前のその話も、内心クソほどどうでもいいね」

「頭まで脳筋ですね」

「考えることはめんどくせぇからな!」


 そう言って、ガエンはゲラゲラと笑う。

 同情しない、そう言ってくれるのは内心嬉しかった。


 アノンも、同情されたくてあの牢屋で生きていたわけではないから。

 アノンもあの場所で、必死に生きていたのだ。


 それを、ガエンは不本意にも認めてくれたような気がして。


「貴方……名前は?」

「ああん? ……そういえばまだ名乗ってなかったな」


 名を問えば、巨漢男は配給された果水を飲もうとした手をピタリと止めて、凶悪に口角を歪ませて告げた。


「ガエンだ」

「……ガエン」

「そういうお前こそ名前は?」

「僕はアノン。アノン=グレアです」


 お互い、戦い合って、その存在を認めた。


「よろしくな。アノン」

「こちらこそ。ガエン」

「ハッ。呼び捨てかよ」

「嫌ですか?」


「いいや、お前が好きなように呼べばいい。呼び方なんてどうでもいいからな。ガハハ!」


 相手はならず者。まだ信用に足る存在ではないが、ひとまず、同じ部隊となる仲間としてその実力だけは認めることにしよう。

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