第35話 『 スロースターターと抜け駆け三人目 』
「ブッハハハ! さっきまでの威勢はどうしたガキンチョ!」
「むかつくっ」
火花が飛び散る。
ならず者たちが必死にモンスターと戦っている最中で、アノンとガエンの合格者同士が戦っていた。
「僕の邪魔しないでもらえますか」
「そら無理な相談だな! お前を邪魔しねえと、他の連中がモンスターを倒せねえからな!」
「あの人たちだけで果たして倒せますかね」
「ならず者を心配するなんてお優しい坊ちゃんだなァ!」
「別に心配なんてしてませんよ。貴方の仲間が死ぬんじゃないかって言ってるだけです。僕には貴方たちが死のうが食われようが関係ない」
「ならお前は俺と戦うこったなぁ!」
モンスターを倒して自身がついたのか、ガエンの動きが急激によくなっている気がした。
一撃。一撃振るうごとにその威力が増していく。反応の良さも、先の戦いとは見違えるほどだ。
「チッ。スロースターターか」
時間が経過していく事に強くなっていくガエンに、アノンはそれ以外ないと判断する。
厄介な相手だ。
こういう相手は温まりきる前に倒すことが鉄則なのだが、ガエンとの戦闘は初見な上にこうして妨害してくるとは想像していなかった。
故に、ガエンの体が温まりきることを許してしまった訳だ。
「オラァ!」
「――フッ!」
鈍色の輝きと火花が交じり合って、衝撃が腕から全身へ伝う。
「お前いいな! 俺の本気を受け止めたのはお前が初めてだ!」
「そりゃどうも」
両者の武器が引かれ合って、そして弾かれる。
お互いに重量級の武器を使っているからか、弾じかれた体も強く外側へと引っ張られていく。
「楽しくなってきた!」
「僕は不快感が増す一方です」
首の骨を鳴らすガエンに、アノンはしかめっ面で返す。
一瞬視線をガエンからモンスターとならず者たちへ移せば、彼らは順調にモンスターの体力を削っていた。
「何よそ見してんだァ!」
「そんなの僕の勝手でしょ」
視線を外されたことに自分は脅威ではないと思ったのだろう。ガエンは憤りをみせ、この試験の内容すらも忘れてバスターソードを振るう。
その一撃をメイスで受け止めれば、これまでで最もけたたましく火花が炸裂し、壊音が鳴り響いた。
「これも耐えるか! やるなァ!」
「いい攻撃ですね。あそこのモンスターに浴びせたら、この一撃で倒せてると思いますよ」
「俺は面白い奴と戦うのが好きなんだ! モンスターよりも、お前と戦ってる方が何倍も面白いね!」
「僕は貴方と戦うの嫌いです」
「ハハッ! 最高の誉め言葉だ!」
その性格も嫌いだ。
鋼鉄と鋼鉄がぶつかる音。空に甲高く響く音が連続しながら、二人はいがみ合う。
「もっと! もっとだ小僧! まだまだこんなもんじゃねえだろ!」
「本当に面倒な人だな!」
加速すれば、ガエンも合わせるように加速していく。
その姿がまるで、戦いの最中に進化していく怪物に見えて――ゾクリと背中に怖気を感じた。
そして、それと同時に、もう一つ得る感情があった。
「ははっ。なんだか、僕も楽しくなってきたかも」
姉以外と全力で戦うことなんてなかったアノンにとって、ガエンは自分についてきてくれる初めての相手だった。
不思議と、心が高揚していく。
そしてそれは、さらに攻撃を加速させていって――
「貴方。面白い人ですね」
「お前もな! まさか、犯罪者になってからこんな面白い奴と出会えるのは初めてだ。まだイケるよなぁ?」
「その台詞。そっくりそのままお返ししますよ」
「いいね! お前がどこまで強いのか、俺にみせてくれよ!」
「その前に死なないでくださいねっ」
再び攻撃へ移る直前。二人は笑い合う。
そして二人はまた、己の握る武器を激突させた。
相手の力量を探り合うアノンは、すっかり当初の目的を忘れていて。
「うおっしゃああああ! 私が三番目じゃああ!」
いつの間にかならず者の一人がモンスターを倒していることも気付かず、アノンはガエンとの戦いを続ける。
そんな入団テストの最中で全く関係のない戦いを始めた二人に、試験監督であるシエスタは、
「うんうん。これでこそ0番隊のあるべき形って感じだね」
呆れることなく、むしろ嬉しそうに笑っていたのだった。